2004年06月07日

映画「キューティーハニー」の感想【2】

前回の続き

今回の映画は、「キューティーハニー」の長く続くストーリーの第一話と云ったスタンスです。
実際、「Re キューティーハニー」と云うアニメがこの後に続くわけでして。 


今回の内容は、悪の組織・パンサークローに捕らえられた宇津木博士を救い、組織を壊滅するまでのお話しです。
後半、パンサークローのアジトが登場します。
黄金の巨大なドリル状の塔です。
それは、東京タワーを真下から突き上げて登場。
ちなみに東京タワーは、庵野監督の大好きな建物です。
詳しくは、下記を参照してください。
監督も、劇中にそれを登場させる事が出来て嬉しかったのではないでしょうか。

庵野秀明 in トップランナー【4】
http://kanzaki.sub.jp/archives/000274.html

宇津木博士と、敵のボスキャラ「シスター・ジル」は、その塔の頂上にいます。
ハニー達は、その塔を登って突き進むのですが、途中には、パンサークロー四天王(の中の3人)が待ち構えています。
正に、週刊少年ジャンプ的な展開!

この映画、たった90分しか無く、その中でパンサークロー四天王と戦うのですから、一人一人との対決の時間は限られています。
けれど、どの敵も個性的で楽しませてくれました。
テレビシリーズならば、もっと一人一人の性格・行動を描写できたんじゃないかなあ。
と云うか、観てみたかったです。
面白い個性あるキャラクターを表現しきる前に、戦闘シーンへ移って死亡ですから。
そこが残念でしたね。
四天王の最強戦士「ブラック・クロー」は、及川光博さんが演じています。
ハニーと対面した際、マイク片手に歌いながら登場。
その時のダンスも素敵でした。
戦いに美学を求めるブラック・クローのナルシストな性格を見事に演じきっていました。
ミッチーは、「CASSHERN」にも登場していましたね。
この方は、「こんなの現実にあり得ねぇー!」と云う場面に、とてもよく似合いますね。
このキャラは、なりたくても、そうそう出来るもんじゃありません。
これからも、その路線を突き進んで欲しいです。

今回の敵組織の総大将シスター・ジル、そしてそれに従える忠実な執事。
てっきり、このボスキャラとハニーは、血で血を争う展開になるだろうと思っていました。
しかし実は、ハニーとこの二人は、憎むべき関係ではないのです。
どちらも、追い求めているものは同じ。
だから、「あのような」結末になったのでしょう。
執事が植物の種(タンポポの綿帽子)を手に載せ、空から降り注ぐ雨に打たれるシーンは、かなり芸術的で印象に残る場面でした。

特撮に「燃え」を重視する人ならば、ハニーがシスター・ジルに取り込まれ、そこから復活した後にもう一度、主題歌をBGMに過激なアクションを期待した事でしょう。
私も、ちょっと期待していました。
そうじゃないと、「CASSHERN」同様、終盤に主人公の活躍が何もありませんから。
そういや、「劇場版 エヴァンゲリオン」も、主人公ロボットであるエヴァ初号機は、何も戦闘らしい戦闘シーンがありませんでした。
そうしてしまう「何か」が、監督の中にあるのかな?
ただ、「CASSHERN」の時は、「何だよ、 この後半! 何も主人公が活躍してないじゃん! プンスカプン」と憤りを感じたのに対し、「キューティーハニー」は「それもアリかなあ・・・」と妥協できるところがあるのが救いです。
きっとそれは、シスター・ジルに従える執事(本当の意味でのボスキャラ)のお陰かもしれません。

この映画はある意味、「特撮」よりも「女性同士の友情」を描いたシーンの方が重要だし、印象に残っています。
主人公「如月ハニー」は、普段は独りぼっちのさえない派遣OLです。
アンドロイドになって1年ちょっとなので、どうも思考回路は幼稚園児並みのようです。
(戦闘シーンになると、ガラッと戦士に変貌しますが)
そのドジッ娘な行動が災いし、会社へ行っても楽しく会話できる友達がいません。

そんなハニーの対極な女性として登場するのが、女警部「秋 夏子」。
他人に頼るのが大嫌いで、人一倍エリート意識が高いが、本当は寂しがり屋。

どちらも、もの凄い才能を秘めているけれど、他人との繋がりに欠けています。
そんな二人ですので、仲良くできる訳がありません。
ハニーは夏子のことを気に入って近づくけれど、夏子が距離を置こうとするのです。
夏子の「心の壁」は、かなり厚いようです。
そんな二人が、じょじょに心を許しあい、そして成長していく・・・。
庵野監督は過去の作品でも、そういう心の成長をしっかりと描いてきましたね。

代表的なところでは、「新世紀エヴァンゲリオン」
今回の夏子に一番近いキャラは、「惣流.アスカ.ラングレー」だと思います。
明るく能動的な少女。負けず嫌いで、プライドが高い。
けれど戦いの中、パイロットとしての自信を失い、精神も肉体もボロボロとなっていったキャラクター。
「私を見て!」と云う感情が、人一倍強い子でしたね。

「彼氏彼女の事情」の主人公・宮沢雪野。
高校一年生。容姿端麗、頭脳明晰、誰もがうらやむ優等生……というのは仮の姿。
人前では優等生を演じずにはいられない超・見栄っぱりキャラクター。
やはり彼女も、「私を見て!」と云う感情が、人一倍強い子でした。

アスカも雪野も、個人の才能だけ見れば、とてつもなく高いポテンシャル。
けれども本当の意味で、人との付き合い方を知らない子達です。
自分とは全く異質な人達、社会と付き合い始めることで、じょじょに変わっていくのでした。
まあ残念ながら、アスカは・・・。

そういうキャラクターの系譜の最新版が、夏子だと思います。
アスカは精神が崩壊したけれど、夏子には、それを食い止めてくれる存在がいました。
「如月ハニー」です。
ハニーは、庵野監督の「陽」の部分をたくさん浴びたキャラになっています。
アホなところがあるけれど、でも何となく憎めない真っ直ぐな性格。
生まれて初めて気に入った親友・夏子の為ならば、何でも頑張ってしまうのです。
主人公を演じたのは佐藤江梨子さん。
この人のテレビで受ける印象そのまんまが、ハニーに投影していますね。
私は、彼女の演技というものを始めて拝見しましたが、とにかく「好感度」の高い演技です。
旨い下手じゃなく、見ている人が彼女の事を好きになっちゃう、親しみを持てちゃう演技なのです。
そういや、こういう「好きな人の為ならば、火の中、水の中!」と云う、庵野ワールドには珍しいキャラクターは、他の作品でもいました。
「ふしぎの海のナディア」です。
このアニメの主人公「ナディア」は、勝気できつい性格です。
その女の子に一目ぼれした男の子「ジャン」は、明るく前向きな性格の持ち主。
どんなピンチになろうと、辛い目にあおうと、どんな事をしてでも、ナディアを助けて頑張るのです。
最初はそっぽを向いていたナディア。
彼女は、小さい時からの境遇で、「心の壁」が厚い子でしたが、ジャンや個性豊かな仲間達のお陰で、少しずつみんなと打ち解けていくのです。
庵野作品と云うと「エヴァ」のお陰で、暗い内向的な感じを思い浮かべるかもしれませんが、この作品では、「みんなは一人の為に。一人はみんなの為に」と、非常に前向きなストーリーでした。
(もちろん、庵野監督作品らしく、各キャラクターは、色んな辛い過去を背負っているのですが・・・)
「夏子」が「ナディア」、「ハニー」が「ジャン」みたいなものだと思います。
「夏子」と云う、庵野監督の「陰」の部分を浴びたキャラクターを演じたのは、市川実日子さん。
雑誌「Olive」の専属モデルでしたが、今じゃ女優業の方が認知されていますね。
絶世の美女な人ならば、他にもいくらでも存在しますが、この子がドラマに出ていると「何故か印象に残る」「何故か心にひっかかる」不思議な才能の持ち主です。
容姿だけで持てはやされている女優気取りの女の子と違いますね(もちろん、彼女も綺麗なのですが)。
何というか「クリエイター達が、自分の作品に起用したいと思わせる力」があるんでしょうね。
今までは、割とサブキャラ的な位置が多かった市川さんですが、今回の作品は、主人公と同等の扱いをされています。
ハニー一人だけでは、今回の作品は成立しません。
観客も、「現実世界にはあり得ない存在」のハニーより、「自分と同じモノを持っている」夏子の方が、感情移入の面ではし易かったのではないでしょうか。

キューティーハニーは、特撮の部分ばかりがクローズアップされがちですが、現代の人々に共感できる、女の子同士の友情の方がメインだと思います。
一人ぼっちだったハニーが、夏子やその他のハニーを受け入れてくれる人々と出会えた事が、今回のストーリーの一番大事なところなのです。
ハニーがみんなの所へ駆け寄っていくシーンに、「ああ、良かったね。自分の居てもいい場所を見つけることが出来て、本当に良かったね」と思いましたよ。

私は「是非、実写で続編を作って欲しい」と思いました。
今回のストーリーは、先ほど書きましたとおり、ハニーの人生の第一楽章なのです。
これからが本番。
どんな事が、ハニーと夏子に巻き起こるのかが本当に気になりますよ。
アニメでの続編も勿論、期待しているのですが、やはり一度、感情移入してしまうと、サトエリと市川さんのキャストで観てみたいと思うのが人情ですよ。

最後になりましたが、この映画には、いろんな人達が、隠れキャラのように出演しています。
原作者の永井豪さんもそうですが、他にも知っている人には知られている人たちが山のように登場。
笑ったのは、警察署のシーンで、山崎 潤さんが登場していた事です。
この人は、「仮面ライダーアギト」ではイヤミな刑事・北條 透、「仮面ライダー555」では、ラッキークローバーの一員・琢磨逸郎を演じた人です。
どちらの作品でも、キャラクター的には「ヘタレ」な感じで、非常に好きでした。
警察署で登場したので、「北條さん、G3ユニットでパンサーロクローと戦うんですか!!」と一瞬思ってしまいましたよ。

仮面ライダーアギト・北條 透
http://www.toei.co.jp/tv/agito/cast/yamasaki.stm

仮面ライダー555・琢磨逸郎
http://www.toei.co.jp/tv/555/cast/yamasaki.asp


そんな訳で、他のサイトで書かれている「キューティーハニーの感想」とは、ちょっと違った視点で書いてみました。
庵野監督が珍しく「マニアックで無い」「ストーリーが崩壊しない」作品と云うだけでも価値があります。
サトエリファン以外も、見て損は無いと思いますよ。

Posted by kanzaki at 2004年06月07日 22:16 | トラックバック (0)
コメント

続きで読ませて頂きました。
おもしろかったです。

Posted by: ウッドストック at 2005年11月04日 08:27

ウッド ストックさん、書きこみありがとうございます。
是非、本編の映画やアニメの方も、色々とチェックしてみてくださいね。

Posted by: 神崎 at 2005年11月06日 17:24
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