2004年11月28日

海峡を渡るバイオリン

昨日、フジテレビにて、「海峡を渡るバイオリン」というスペシャルドラマをやっていました。
韓国の少年が日本へ渡り、独学でバイオリン製作者になるまでの半生を綴ったものです。

3時間もの長編ドラマでありますが、「各エピソードの時間配分」が間違っているような気がしました。
だから長編の割には、未消化な感がぬぐえません。
原作本を読んでないのではっきりとは云えないのですが、もっと重点を置くエピソードが他にあったんじゃないでしょうか。
タイトルが「海峡を渡るバイオリン」なのに、海峡を渡っていません・・・。
最後に大きな大会にて、主人公が賞を受賞するシーンがあります。
しかし、その受賞作となるバイオリンがどのように作製されたのか、その作製の苦労話、それを支えた妻と子供のエピソードを描いていないから、受賞したにも関わらず、視聴者はまるで感動しません。

家族で韓国へ行った際、主人公を演じる草ナギ剛さんが、綺麗な自然を前にして、何か「悟り」を得るシーンがあります。
私はてっきり、そこから最高のバイオリンが作製されるエピソードが語られるのかと思ったら、いきなり時代が移り変わって現代の授賞式。
「おいおい、これで終わりかよ!」と、ポカーンとしてしまいました。
物凄い苦労と本人の才能があったからこそ世界に認められたのだから、家族愛だけでなく、その主人公の天才ぶりを見せて欲しかったです。
「ストラディバリウス」という世界最高峰のバイオリンを目の前にして、その本体を舌でネットリと舐めてしまったり、自分の赤ん坊の背中にウンコを塗って舐めたり、ミミズを大量に捕まえて狂喜乱舞したり、なんかキチガイな演出ばかりが目立ちました。
それらは、天才としてのエピソードではありませんよね。
最後の授賞式に、過去のエピソードが結びつかないから、何か違和感を感じます。
「プロジェクトX」風のサクセスストーリーにしてくれたら良かったなあ。

主人公の「天才」としての部分も期待したかったのですが、「人間」としての部分を強調しているにも関わらず、視聴者が観たいと思う部分が大幅にカットされています。
たとえば、幼少時代の先生(オダキリジョー)は、線が細くてとても素敵な人物に描かれていました。
もう少し、主人公と過ごす日々のエピソードが欲しかったなあ。
そしてあの先生は、戦争に行ってどうなったのでしょうか。
また、菅野美穂さん演じる妻との結婚にいたるまでのエピソードが未消化です。
あんなに結婚に反対していた菅野さんのお父さん(笑福亭鶴瓶さん)が、どうして結婚を許してくれたのか。
そこら辺が良く分かりませんでした(というか、描いていない)。

どうやら、70分ぐらいカットしているらしいです。
そのカットした部分が補完されると、視聴者も感情移入できたのかもしれない。
いつか、2夜に分けて「完全版」を放映して欲しいけれど、それで納得の出来るものになるかは不明です。

一番のクライマックスは、赤ん坊が死にそうになり、自宅で医者が治療をしている中、家が嵐で倒壊するのを防ごうとする両親(喧嘩もあり)等を綴った一夜の部分。
オンボロの家を守り抜こうとしているシーンは、「どっかで見た事あるよなあ。そうそう、”北の国から”だよ」と感じました。
そしたら何と、このドラマは「北の国から」のスタッフが製作したものだそうです。
見た目にはクライマックスらしい、クライマックス。
少なくとも見た目的にはね。
けれど本来、クライマックスは、最高のバイオリンが完成した部分でなければいけないのではないでしょうか。
きっと映像にしたら、かなり地味になりそうですけれどね。

子供の生死はちょっとやり過ぎ。
そして菅野さんが貧乏生活に耐えて耐え抜いて、最後にその辛さをぶちまけるシーンは、見るに耐えられませんでした。
演技が上手すぎて、しかもあの美貌ですから、見ている側は辛くなってきます。
貧乏が前面に出過ぎた脚本は、確かにリアルなんでしょうが、やり過ぎると視聴者は嫌になってきます。

石坂浩二さんが演じた篠崎教授が、主人公にいろいろと便宜をはかってくれます。
最初に彼は主人公に、こう云います。

「人間は、神にはなれません。
ただそれを目指して近づくだけです。
どれだけ近づけるか・・・われわれは未完成な生き物ですから」

モノを作ろうとする人間は、いつか必ず「壁」にぶつかります。
自分の能力の限界。
精神的に追い詰められるけれど、それでも少しずつ前へ進み、気が付いたら他人を追い抜いていた・・・それが世間で認められた人達の姿なのでしょう。
私は、この台詞が非常に印象に残ったので、後半のエピソードも、この台詞がベースになって展開すると思ったのです。
けれど、それが無かった。
神に近づいた人の姿ではなく、あれでは、ただのキチガイ・・・残念です。

スタッフは家族愛みたいなものを描きたかったのだから、主題歌だって「二隻の船」という曲にしたのでしょう。
だったら最後の授賞式で、主人公が演説するシーンを設けて、「これは妻、家族のおかげです」みたいな台詞が無いと、意味がないのではないでしょうか。

要所要所に素敵な部分もあり、若手ながら演技派な人達が集結したおかげで、それなりに良かった番組だとは思います。
それ故に惜しい・・・。
とにかく完全版は後日、やって欲しいと思いました。

Posted by kanzaki at 2004年11月28日 21:57 | トラックバック (0)