2005年06月09日

ジョージ・ウィンストンのピアノコンサート【2】

前回の続き

前回の記事:ジョージ・ウィンストンのピアノコンサート【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/000682.html


他のコンサートのような派手な舞台セットは何もない。
艶を失った古いピアノが一つ、ステージの真ん中に設置されている。
ピアノを弾く際に腰掛ける椅子の横に、スタンドマイク、そしてギターが収納してある黒いケースが置いてある。
しばらくすると本人が登場。
青いダボタボのジーンズに、緑色のTシャツ。
歳相応の容姿はエプロンをしたならば、まるでバイオリンを製作する職人のようにも見える。
たどたどしくも、「ミナサン コンニチハ」とか挨拶もするし、「ツギノ キョクハ ××× デス」と曲紹介もする。
正直、客席の後ろ半分はお客がいないので、拍手の音は華やかさに乏しいのだが、それでも彼の奏でるピアノの音に妥協はない。

癒しの演奏とか聞くと、ガラスのような透明感を連想するかもしれないが、彼の演奏は違っていた。
むしろ、その音はリアルだ。
CDでは聴こえない、生の演奏ならではの生々しい音が響き渡る。
しかしその音は当然、オカルトでもなんでもない。
リアルが故に落ち着くのだ。
赤ん坊が母親の胎内にいる時に聞いていた、母親の生きているが故の鼓動。ノイズ。
彼の演奏はそんな風に思えた。
高価な客席に座り、したり顔で聴いているよりも、ピアノの近くで床に座って聴いていたいと思った。

私のジョージ・ウィンストンへの印象は、西洋から何の因果か日本へ渡ってきて、小学校の用務員になってしまったオジさんと云った感じだ。
そして放課後、授業も終わって誰もいなくなった音楽室へこっそりと忍び込み、一人で気ままに趣味のピアノを奏でている。
たまたま音楽室の前を通った生徒が、そのピアノの音色に気づいて教室に入る。
するとジョージは笑顔で手招きする。
そして私の(音楽の知識がないので)抽象的なリクエストに気軽に応えて演奏してくれる。
・・・そんな気分のコンサート。


<本日のプログラム>

第一部

1.MEDLEY:THE TWISTING KF THE HAY ROPE/YOU SEND ME(メドレー:ザ・ツイスティング・オブ・ザ・ヘイロープ/ユー・センド・ミー)
1曲目のザ・ツイスティング・オブ・ザ・ヘイロープは偉大なアメリカン/ケルトーハープ演者パトリック・ボールのアルバム"フィオナ"より、そして偉大なアイルランドのグループ、ザ・ボシーバンドのアルバム"アフターアワーズ・ライブ・イン・パリ"より学んだ伝統的なアイルランド曲。
2曲目のユー・センド・ミーは偉大なソウル歌手サム・クック(1931-1964)により1957年に作曲、レコーディングされた。


2.RAIN(雨)
初春に向けての作品。
この曲の中心部はニューヨーク出身の現代音楽作曲家のスティーブ・ライヒより感銘を受けた作風となっている。


3.PEBBLE BEACH(ペブル・ビーチ)
ジャズ・ピアニスト、ヴィンス・ガラルディ(1928-1976)作曲で漫画家チャールズ・シュルツ(1922-2000)作のアニメ、ピーナッツ/スヌーピーの挿入歌。
この曲は1966年のアニメ"チャーリー・ブラウンとオールスターズ"で初めて登場し、また他のいくつかのエピソードにい使用された。
ヴィンス・ガラルディは1962年作のスタンダード曲"キャスト・ユア・フェイト・トゥ・ザ・ウインド"とチャールズ・シュルツのアニメ、ピーナッツ/スヌーピーの最初の16話のサントラで最もよく知られている。
1996年にジョージ・ウィンストンは、ヴィンス・ガラルディの作品をアルバムとした"ライナス・アンド・ルーシー:ザ・ミュージック・オブ・ヴィンス・ガラルディ"をレコーディングした。
ジョージ・ウィンストンは他のどの作曲家よりも多く彼の作風を好んで演奏する(約45曲)。
第2作目のアルバムも予定している。


4.WOODS(森)
ジョージ・ウィンストンが主に育ったモンタナ州に感銘を受けた初秋の作品。


5.CAT&MOUSE(猫と鼠)
ストライド・ピアノと呼ばれる古いジャズ・ピアノ演奏の曲。
ストライド・ピアノとは基本的に左手がベースと和音との間を大股で歩く(ストライドする)間、右手で即興を奏でるというもの。
ストライド・ピアノは1920年代初期から1940年代初期に流行した。
ストライド・ピアノで彼が主に影響を受けている2人として、まずトーマス・"ファッツ"・ウォーラー(1904-1943)、彼はスタンダード曲"Ain't Misbehavin"を作曲し、またこの曲は80年代にブロードウェイのタイトルとしてファッツ・ウォーラーの音楽についての劇ともなっている。
そして1930年代後期にベニー・グッドマン・トリオ&カルテットでの演奏やビリー・ホリディのバックアップ・シンガーとして最もよく知られるテディ・ウィルソン(1912-1986)がいる。
この曲では左手が猫、右手が鼠。


6.LONGING(あこがれ/愛)
秋の季節に感銘を受けたもう一つの作品。


7.HAWAIIAN SLACK KEY GUITAR PIECE(ハワイアン・スラック・キー・ギターの作品)
スラック・キーとはハワイ独自の美しい伝統的なフィンガースタイル奏法の名称。
この伝統は1830年頃から始まりスチール・ギターに60年ほど先んじている。
詳しいスラック・キー・ギターについてはダンシング・キャット・レコードのホームページ(http://www.dancingcat.com)をご覧下さい。

第一部終了。
ここで20分の休憩。

続く。

次回の記事:ジョージ・ウィンストンのピアノコンサート【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/000687.html

Posted by kanzaki at 2005年06月09日 23:15 | トラックバック (0)