2007年04月07日

宮崎駿監督 in プロフェッショナル【7】

●前回の記事:宮崎駿監督 in プロフェッショナル【6】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001371.html

今までは、長男の事以外に関しては終始穏やかな人だった、宮崎監督。
しかし映画の製作に向けて、じょじょにその穏やかな表情が消えていきます。

では、どうぞ。


********************

ナレーション:
7月3日、宮崎の姿は瀬戸内にあった。


宮崎監督、バスの座席に座って、景色を黙って見つめる。
とある場所に到着して、石段を登る。

宮崎監督の姿は、帽子を被り、ジャケットを羽織り、左手にカバン。

ナレーション:
準備作業の最後に、あえてアトリエから離れ、一人篭ると云う。
期間は一週間。
滞在するのは、崖の上にある知人の家だ。

石段を登った先は、海が見渡せる古い家。
宮崎監督、入り口の網戸を横に引いて入る。

宮崎駿監督:
こんにちは!

奥から女性の声で「はい!」の声。
宮崎監督、「ただいま」と照れくさそうな感じの声を出し、帽子を脱ぐ。
女性も明るい声で「おかえりなさい」と返す。
二人は笑いあう。

宮崎監督、ジャケットを脱いで、家の女性の案内で2階の部屋(和室)へ通される。

宮崎駿監督:
懐かしい。

そう云って、ガラス窓が横一列にとても長く続く壁側へ歩み寄る。
窓からは、瀬戸内の海を一望できる。

ナレーション:
宮崎は、海の景色を気に入り、これまで幾度と無く足を運んできた。

宮崎監督、港町へ歩いて出かける。
港には、小型の船舶が沢山停まっている。

ナレーション:
日が暮れる前、町へ出た。

宮崎監督、町で偶然、一人の老婆と出会う。
老婆は、車の助手席に乗ろうとしていたところだった。

宮崎駿監督:
ここで出会えてよかった。

老婆:
あらっ? と思ってさ。
あらっ? 先生じゃないかしら云うて(笑)。

宮崎駿監督:
ヒゲが目立つから(笑)

老婆、大笑いする。
宮崎監督、運転席側の人にも一礼する。

ナレーション:
町には、顔見知りも増えた。

宮崎監督、老婆と別れて、スーパーへ出かける。
夕食の材料を買いあさる。

ナレーション:
買い物から炊事洗濯まで、全て宮崎がこなす。

町から戻り、台所で料理を始める。
生姜を薄く輪切りにしていく。

宮崎駿監督:
これはね、我が家では食わしてもらえないんですよ。
塩分のとりすぎでね。

ディレクター:
ああ、そうなんですか。

材料を鍋に入れて煮込む。

ナレーション:
ここで過ごす一人の時間は、何ものにも変えられない、大切なものだと云う。

しばらくして、煮込んでいたものを箸でつまんで口へ運ぶ。
具材を醤油ベースで茶色く煮込んだものだ。

宮崎駿監督:
辛い!
いいおかずになるでしょう。


********************


翌日。
瀬戸内の海の上は曇り空。

ナレーション:
翌日、再び、崖の家に宮崎を訪ねた。

宮崎監督、シャツにステテコのラフな格好。
2階の窓を全開にしている。
窓からは、座り込んでなにやら執筆作業をしている姿がうかがえる。

机の上には、スケッチブックが置いてある。
鉛筆で描いていたものは、どこか古めかしい洋風の建物のようだ。

宮崎駿監督:
こんなの撮るなよ。
仕事じゃないんだから。

不機嫌そうな声。

ディレクター:
あっ。宮崎さん、これ仕事じゃないんですか?

ナレーション:
宮崎の態度は今までと、どこか違っていた。

宮崎駿監督:
(視線は絵に向って無粋に)もう、今日は取材やめなよ。

ディレクター、素直に撮影をやめる。

ナレーション:
宮崎は、本格的なアニメーション作りに入るとき、自らを極限まで追い込むと云う。
映画の準備作業は終わろうとしていた。


********************


7月7日、曇り空。
港の岸壁。
宮崎監督は、傘を杖代わりにして立っている。

ナレーション:
この日、宮崎は、海辺の風景を探しに出かけた。

宮崎監督、展望台へ階段を使ってのぼる。

ナレーション:
宮崎は、カメラが無神経に近づく事を極度に嫌うようになっていた。

宮崎監督、景色を見渡している。
カメラがそれを撮影する。
わざとなのか、うろうろと動き、カメラのフレームから外れようとする。
そして、ディレクターに向って、イライラした口調でまくし立てる。

宮崎駿監督:
一番、人間が孤独でいる時に、声をかける必要は全然ないんだよ。
それをどう撮るかってのが、カメラを持っている人間の仕事なんだよ。

ディレクター:
ですね。

宮崎駿監督:
その時に、どういう気持ちなんですか? って君は聞くだろう?

ディレクター:
はい・・・。


********************


テロップ:
孤独

ナレーション:
その日の夕方。

ディレクター、カメラを持って、宮崎監督の宿泊している家へ訪れる。
玄関先から、家の中の監督へ呼びかける。

ディレクター:
宮崎さ〜ん。

宮崎駿監督:
はいっ。

ディレクター:
ちょっと、お邪魔します。

宮崎駿監督:
はい・・・(あまり歓迎ムードの口調ではない)。

ディレクター、中に入っていく。

ナレーション:
一つの質問をぶつけに、宮崎の元を訪ねた。

宮崎監督、シャツにステテコと云うラフな格好。
背の低い椅子に腰掛けて、タバコを吸っている。
部屋の中は、クラシックが流れている。

宮崎駿監督:
何?

ディレクター:
あのう・・・一つだけお伺いしたいことがあって。
あのう・・・宮崎さん、その・・・孤独になるって云うのは、やはり何か作品を作る上では絶対、必要な時間っていうか、なんですかねえ。

宮崎監督、メガネを外してタオルで顔を拭く。

宮崎駿監督:
そんなの分かりゃしないじゃない。
人によって、みんな違うでしょう。

宮崎監督、椅子の上であぐらをかき、タバコを吸う。

宮崎駿監督:
僕は、不機嫌でいたい人間なんです。本来・・・。
自分の考えに全部、浸っていたいんです。
だけど、それじゃならないと思うから、なるべく笑顔を浮かべている人間なんですよ。
みんなそういうの、持っているでしょう?
その時に、優しい顔をしていますねとか、笑顔を浮かべていると思う?
映画は、そういう時間に作るんだよ。
映画が近づいてきたら、どんどん不機嫌になるさ。

しばし沈黙のうち・・・。

宮崎駿監督:
さあ、もういいだろう・・・。

そういって立ち上がり、カメラの横を通り過ぎていく。


********************


今回はここまで。
番組を見ていた方ならお分かりの通り、最後の言葉を話している時の宮崎監督は怖かったですよね。

監督とディレクターの対決と云ってもいいかもしれません。
こんな言葉や口調、仕草をする監督を見たことのあるファンは、あまりいないと思います。
それをカメラに収めたのは凄いのではないかと。

これが、日本テレビの映画前宣伝番組ならば、絶対にオンエアできないでしょう。
見ている方がドキドキ、ハラハラした場面でした。

次回をお楽しみに。

●次回の記事:宮崎駿監督 in プロフェッショナル【8・最終回】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001376.html

Posted by kanzaki at 2007年04月07日 22:53