●前回の記事:宮崎駿監督 in プロフェッショナル【6】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001371.html
今までは、長男の事以外に関しては終始穏やかな人だった、宮崎監督。
しかし映画の製作に向けて、じょじょにその穏やかな表情が消えていきます。
では、どうぞ。
********************
ナレーション:
7月3日、宮崎の姿は瀬戸内にあった。
宮崎監督、バスの座席に座って、景色を黙って見つめる。
とある場所に到着して、石段を登る。
宮崎監督の姿は、帽子を被り、ジャケットを羽織り、左手にカバン。
ナレーション:
準備作業の最後に、あえてアトリエから離れ、一人篭ると云う。
期間は一週間。
滞在するのは、崖の上にある知人の家だ。
石段を登った先は、海が見渡せる古い家。
宮崎監督、入り口の網戸を横に引いて入る。
宮崎駿監督:
こんにちは!
奥から女性の声で「はい!」の声。
宮崎監督、「ただいま」と照れくさそうな感じの声を出し、帽子を脱ぐ。
女性も明るい声で「おかえりなさい」と返す。
二人は笑いあう。
宮崎監督、ジャケットを脱いで、家の女性の案内で2階の部屋(和室)へ通される。
宮崎駿監督:
懐かしい。
そう云って、ガラス窓が横一列にとても長く続く壁側へ歩み寄る。
窓からは、瀬戸内の海を一望できる。
ナレーション:
宮崎は、海の景色を気に入り、これまで幾度と無く足を運んできた。
宮崎監督、港町へ歩いて出かける。
港には、小型の船舶が沢山停まっている。
ナレーション:
日が暮れる前、町へ出た。
宮崎監督、町で偶然、一人の老婆と出会う。
老婆は、車の助手席に乗ろうとしていたところだった。
宮崎駿監督:
ここで出会えてよかった。
老婆:
あらっ? と思ってさ。
あらっ? 先生じゃないかしら云うて(笑)。
宮崎駿監督:
ヒゲが目立つから(笑)
老婆、大笑いする。
宮崎監督、運転席側の人にも一礼する。
ナレーション:
町には、顔見知りも増えた。
宮崎監督、老婆と別れて、スーパーへ出かける。
夕食の材料を買いあさる。
ナレーション:
買い物から炊事洗濯まで、全て宮崎がこなす。
町から戻り、台所で料理を始める。
生姜を薄く輪切りにしていく。
宮崎駿監督:
これはね、我が家では食わしてもらえないんですよ。
塩分のとりすぎでね。
ディレクター:
ああ、そうなんですか。
材料を鍋に入れて煮込む。
ナレーション:
ここで過ごす一人の時間は、何ものにも変えられない、大切なものだと云う。
しばらくして、煮込んでいたものを箸でつまんで口へ運ぶ。
具材を醤油ベースで茶色く煮込んだものだ。
宮崎駿監督:
辛い!
いいおかずになるでしょう。
********************
翌日。
瀬戸内の海の上は曇り空。
ナレーション:
翌日、再び、崖の家に宮崎を訪ねた。
宮崎監督、シャツにステテコのラフな格好。
2階の窓を全開にしている。
窓からは、座り込んでなにやら執筆作業をしている姿がうかがえる。
机の上には、スケッチブックが置いてある。
鉛筆で描いていたものは、どこか古めかしい洋風の建物のようだ。
宮崎駿監督:
こんなの撮るなよ。
仕事じゃないんだから。
不機嫌そうな声。
ディレクター:
あっ。宮崎さん、これ仕事じゃないんですか?
ナレーション:
宮崎の態度は今までと、どこか違っていた。
宮崎駿監督:
(視線は絵に向って無粋に)もう、今日は取材やめなよ。
ディレクター、素直に撮影をやめる。
ナレーション:
宮崎は、本格的なアニメーション作りに入るとき、自らを極限まで追い込むと云う。
映画の準備作業は終わろうとしていた。
********************
7月7日、曇り空。
港の岸壁。
宮崎監督は、傘を杖代わりにして立っている。
ナレーション:
この日、宮崎は、海辺の風景を探しに出かけた。
宮崎監督、展望台へ階段を使ってのぼる。
ナレーション:
宮崎は、カメラが無神経に近づく事を極度に嫌うようになっていた。
宮崎監督、景色を見渡している。
カメラがそれを撮影する。
わざとなのか、うろうろと動き、カメラのフレームから外れようとする。
そして、ディレクターに向って、イライラした口調でまくし立てる。
宮崎駿監督:
一番、人間が孤独でいる時に、声をかける必要は全然ないんだよ。
それをどう撮るかってのが、カメラを持っている人間の仕事なんだよ。
ディレクター:
ですね。
宮崎駿監督:
その時に、どういう気持ちなんですか? って君は聞くだろう?
ディレクター:
はい・・・。
********************
テロップ:
孤独
ナレーション:
その日の夕方。
ディレクター、カメラを持って、宮崎監督の宿泊している家へ訪れる。
玄関先から、家の中の監督へ呼びかける。
ディレクター:
宮崎さ〜ん。
宮崎駿監督:
はいっ。
ディレクター:
ちょっと、お邪魔します。
宮崎駿監督:
はい・・・(あまり歓迎ムードの口調ではない)。
ディレクター、中に入っていく。
ナレーション:
一つの質問をぶつけに、宮崎の元を訪ねた。
宮崎監督、シャツにステテコと云うラフな格好。
背の低い椅子に腰掛けて、タバコを吸っている。
部屋の中は、クラシックが流れている。
宮崎駿監督:
何?
ディレクター:
あのう・・・一つだけお伺いしたいことがあって。
あのう・・・宮崎さん、その・・・孤独になるって云うのは、やはり何か作品を作る上では絶対、必要な時間っていうか、なんですかねえ。
宮崎監督、メガネを外してタオルで顔を拭く。
宮崎駿監督:
そんなの分かりゃしないじゃない。
人によって、みんな違うでしょう。
宮崎監督、椅子の上であぐらをかき、タバコを吸う。
宮崎駿監督:
僕は、不機嫌でいたい人間なんです。本来・・・。
自分の考えに全部、浸っていたいんです。
だけど、それじゃならないと思うから、なるべく笑顔を浮かべている人間なんですよ。
みんなそういうの、持っているでしょう?
その時に、優しい顔をしていますねとか、笑顔を浮かべていると思う?
映画は、そういう時間に作るんだよ。
映画が近づいてきたら、どんどん不機嫌になるさ。
しばし沈黙のうち・・・。
宮崎駿監督:
さあ、もういいだろう・・・。
そういって立ち上がり、カメラの横を通り過ぎていく。
********************
今回はここまで。
番組を見ていた方ならお分かりの通り、最後の言葉を話している時の宮崎監督は怖かったですよね。
監督とディレクターの対決と云ってもいいかもしれません。
こんな言葉や口調、仕草をする監督を見たことのあるファンは、あまりいないと思います。
それをカメラに収めたのは凄いのではないかと。
これが、日本テレビの映画前宣伝番組ならば、絶対にオンエアできないでしょう。
見ている方がドキドキ、ハラハラした場面でした。
次回をお楽しみに。
●次回の記事:宮崎駿監督 in プロフェッショナル【8・最終回】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001376.html
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