2008年04月22日

ロジックにいかない世の中だから

デザイン評論家の柏木 博(かしわぎ ひろし)さんが、気を抜いて暮らすことについてコラムを書いていました。

私達が日々の暮らしで使用している家具は、モダンデザンが多いです。
時代的には、1950年代あたりにデザインされたものが中心。

しかし、モダンデザインばかりを使っているわけではありません。
誰がデザインしたのか分からない薬缶や食器、古道具屋で手に入れた家具なども共存しています。
それでもできるだけ生活になじむものを選んでいます。

しかし、洗濯機や炊飯器などの家電製品は、デザインを選択するほど幅もありませんので、目立たない没個性的なものを選びます。

更に、ケーブルテレビ会社が設置していったモデム、ガス会社が取り付けていった暖房設備スイッチなどは、デザインの選択余地がありません。
有無を言わさず設置されてしまったものだからです。

選択の幅に余地のない装置や設備が生活の中に共存しているのは、あまり居心地が良いものではありません。
けれども視点や発想を変えてみると、それも許容できるように思えてくるものです。

家具、雑貨、家電製品に至るまで、全てを同じスタイルで整えたような生活は、どこかしら神経を使いすぎていて息が詰まるようにも思えます。
日々の暮らしでは、選択の幅や余地が無かったような家電製品や設備が入り込むことで、むしろ力の抜けた雰囲気が作れるかもしれません。

広告用のモデルルームで生活するような雰囲気も、どこか居心地が悪い。
選択の余地が無いようなものを仕方なく部屋に置くことで、そうしたものを許容するほど柔軟な暮らし方になるのでは。
どこかしら気を抜いたところがあった方が、心地よい暮らしができルようです。


・・・・要約すると、こんな感じです。
デザイン評論家と名乗るぐらいですから、デザインを極めようとしていることでしょう。
しかしそんな人が完璧を求めようとせず、多少の「異物」を混入することで、かえってそれを許容できるよう、肩の力を抜いて暮らしましょうよと言っています。
極めたが故に、完璧でないものを敢えて受け入れられるのでしょうか。

映画監督の押井守さんは、無類の犬好きで知られています。
自身の公式サイトも、トップに犬がいます。

●ガブリエルの憂鬱 〜押井守公式サイト〜
http://www.oshiimamoru.com/

無類の犬好きで、犬を飼うためだけに熱海へ引っ越したと公言しています。
映画「イノセンス」の制作中、愛犬バセットハウンドのガブリエル(通称ガブ・♀ 2007年4月3日 永眠)がヘルニアを患ったため引越しをし、さらに看病のために仕事を休んだため、一時は監督解任かと騒がれたという逸話があリます。

その「イノセンス」のメイキングを見たことがあるのですが、その中で押井監督は、「どうして犬が好きなのか?」との問いに対して、こう答えています。

「人と違って言う事を聞いてくれないから」

言う事を聞いてくれない、自分の思い通りにならないところが良いのだと。
押井監督と言いますと、「うる星やつら」「機動警察パトレイバー」「攻殻機動隊」等のアニメ作品で有名です。
アニメは完璧を求める作家にとって、非常に都合の良い媒体です。
どんな場面で、どんなタイミングで、誰がどんな事をするのか・・・それらを監督が思ったとおり、一秒一秒描けるからです。

しかし実写となると、そうはいきません。
撮影時に天候が悪くなったり、ハプニングが続出し、脚本や絵コンテどおりにはなりません。
役者が、思い描いたとおりの演技をしてくれるとは、必ずしも言えません。
しかし逆に言いますと、予想もしなかった良い画が撮影できる可能性もあります。

押井監督の場合、アニメでは全てを創造主であるがごとく、完璧に自分の思い通りに動かせるからこそ、「犬」という、自分の思い通りにしてくれないものに対して興味がいくのかもしれません。

人はついつい、完璧を求めます。
仕事ならば尚更。
集団の意思を統率し、売り上げ向上を常に追い求める企業の場合、ますますその傾向が強いでしょう。
トップに立つ者は理想を描き、下にいる者は、それを具現化しようとする。
しかし具現化を行う人達の中には、トップの思ったとおりに動かない人もいます。
ただ単に怠け者だったら、ペナルティを課せられてもおかしくありません。

しかし中には、他の人と同じことを競わせたら劣りますが、全く違う事では、誰にも負けない能力を持っているかもしれません。
全員が全員、歯車のごとく噛み合わさらなくてもいいのかもしれない。
一人だけその歯車とは別のところで、赤い色のランプを点滅させていても良いのでは?
その点滅が、素晴らしい事のきっかけになるかもしれないからです。
そういう者を許容できるトップの考えは、非常に大事だと思います。

ロジックに考えたところで、100%そのとおりになるのは理論の世界だけ。
現実は、「風が吹けば桶屋が儲かる」とはいきません。
必ず何かしら、予想しえなかった事に見舞われるものです。
そんな時にカリカリせず、余裕の笑みを浮かべられる方が、結局は良い方向へ進めるのだと思います。

Posted by kanzaki at 2008年04月22日 21:51