2010年02月11日

NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【6・希望の光】

今回で最後です。


●前回の記事: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【5・"生涯未婚"の急増】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002019.html


家族を作らずひとりで生活する人が急増する時代。
20年後の2030年には、生涯未婚の数は、女性は4人に一人、男性は3人に一人だと推計されています。

無縁社会をどうすればくい止められのか?
取材班は、その手がかりになる男性がいた事を知りました。
官報の行旅死亡人の欄に、こう書かれていました。


行旅死亡人

本籍(自称)京都府京都市中京区×××入ル、住所足立区×××室、氏名(自称)木下啓二、生年月日(自称)昭和5年2月9日、79歳
上記の者は、東京都足立区×××室内、自宅六畳間布団上において、仰向けで死亡していたもの。
身元不詳のため遺体を火葬し、×××で保管。
心当たりの方は当区福祉・・・・・。


去年4月に行旅死亡人として亡くなった男性、自称 木下敬二(きのしたけいじ)さん(享年79)。
この敬二という名前には、男性の願いが込められていた事がわかりました。
第二の人生は敬われて生きたいと名前を変えていたのです。

木下さんは三十代のはじめ頃に離婚し、仕事も失いました。
幼い娘と別れ、ふるさと京都から東京へ出てきました。
この時、社会との繋がりを全て無くしていました。

木下さんが第二の人生をスタートさせるきっかけとなったのは、とある少女(美少女)との出会いでした。
当時9歳だった宇佐美智子さん。
今、保育士をしています。
この保育園の園長の娘で、ここで生まれ育ちました。

保育園の向こうにあるアパート。
木下さんは近くの工場で働きながら、ここで一人暮らしていました。

木下さんがアパートで一人暮らしを始めて間もない頃、故郷に残してきた娘が交通事故で亡くなりました。
それから木下さんは、部屋から出なくなりました。

「隣のおじさんの姿を最近みかけない」

異変に気づいた智子さん(美少女)は、部屋づたいに木下さんを訪ねました。

現在の美智子さんの証言
「閉じこもってしまっていて遊びに行ってコンコンとやっても開けてもらえないような状態だったんで、窓から行ったら開いているんじゃないかなとか思って、屋根を伝わって行ったりして、"おじさん病気なの?""どっか痛いの?"って・・・」

智子さんは妹(美少女)と一緒に毎日、屋根から通い続けました。

現在の美智子さんの証言
「子供ながらにすごく心配しましたので、開けてくれた時は、ちょっとうれしかったです」

この日から、家族のようなつきあいが始まりました。

木下さんが亡くなる前に、智子さんへ一冊のアルバムを贈りました。
アルバムの表紙には「FREE」と書かれてあります(ちゃんと業者に発注して作成した、立派な装丁です)。

そのアルバムのとあるページには、木下さんが遺したメッセージが書かれてあります。

「メガネのおじさんから智ちゃんへ。
東京へ行ってしばらくした頃、毎日アパートの壁とにらめっこをして、さびしくて困っていたことがありました。
その時、二人がよく遊びに来てくれて、わいわい賑やかにやってくれたので大変たすかりました。
そのお礼に、このアルバムを一生懸命に作ります。
大きくなったとき、このアルバムを見て小さい頃を思い出し、ほんのちょっぴりでいいからおじさんの事を思い出しくれたらとても嬉しいと思います」

アルバムの写真は全て、木下さんが撮影しました。
写真と共に、時折々の思い出が木下自身の言葉で綴られています。
木下さんは智子さんの成長を見守り続けました。

現在の美智子さんの証言
「いてくれて本当に良かったなと思います。
家族だったんじゃないかなと思います」

第二の人生は敬われたいと願った山下敬二さん。
保育園のシンボルであるドングリを擬人化したイラストを書き残しました。
ドングリの大きなイラストは、今も子供たちを見つめ笑っています。


無縁死3万2千人。
浮かび上がってきたのは、安心して老いることができない社会、安心して死ぬことすらできない社会でした。

無縁社会。
繋がりを失った人達は、今も置き去りにされたままです。

(おしまい)


美少女が屋根伝いにやってきた・・・なんかギャルゲーのような内容であります(お

人との関わり合いを断ってしまった人が、再び人と縁を結ぶ事で、人生再生のきっかけになるのではないでしょうか。
私は上記のエピソードを知って、そんな風に思いました。

子供というのは凄いね。
自分が大人で、相手も大人だと、なかなか縁を結ぼうとはできないものです。
遠慮だったり、立場だったり、いろいろな理由をこじつけてしまいます。
しかし子供の場合は感情が先に立って行動するからこそ、相手の懐へ潜り込める。

人は誰しも悪人キャラじゃありませんから、綺麗な瞳で見つめられれば、自然と微笑みを返すものです。
そして閉ざしてしまった心は、少しずつ穏やかにります。

今回の番組のテーマは、あまりにも大きすぎて、制作側自身も結論を出すことは出来ませんでした。
NHKは無縁社会・無縁死について定期的に放映し、今回はその中間報告といったところです。

今なら冬季オリンピック等の華々しいものや、逆に極端な陰惨極まる事件ばかりがメディアで流れています。
視聴者の生活とはかけ離れすぎている出来事ばかりオンエアしていたんじゃ、そりゃあ視聴率低迷も当然でしょう。
一般の若い人達の気風も変化しているようですしね。


●「ゆとり」に代わって登場「さとり世代」の無欲人生 - livedoor ニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/4599695/

「ゆとり世代」の次は、「さとり世代」なのだという。
「ゆとり世代」とは、バブル景気の頃に生まれ、02年度の学習指導要領による、ゆとり教育を受けた世代のこと。本人たちのせいだけではないのだが、勉強すべきことをしてこなかったため、「あいつは“ゆとり”だから」と、半ば蔑称として使われることが多い。
これに対し、にわかに注目を集めているのが、「さとり世代」だ。発端は、昨年末に発売された新書「欲しがらない若者たち」の記述。最近の若者の消費動向について、「車に乗らない。ブランド服も欲しくない。酒を飲まない。旅行をしない。恋愛に淡泊。貯金だけが増えていく」と紹介したところ、ネットを中心に活発な議論が交わされるようになった。


上の世代のアホさ加減に追従せず、自分たちのスタイルで生きて行くのは立派ですよ。
こういう風潮は、景気の悪化でお金が無いのが根本原因なのに、メディアをはじめ、大舞台では決してそう言わないのは、何か背後に怖いものがあるように感じます。

上記の抜粋にだって、「車に乗らない。ブランド服も欲しくない。酒を飲まない。旅行をしない。恋愛に淡泊。貯金だけが増えていく」とありますが、実際は貯金なんて増えていませんよ。
そんなお金はありませんから。

今回、「無縁死」というキーワードを元に、ようやく現実世界の実態を世間一般に知らしめ、多くの人にありえる将来を考えさせるきっかけになった番組だったと思いました。

ネット上でも今回の番組は反響が大きかったようです。

●【赤木智弘の眼光紙背】無縁のままでも安心して死ねる社会を - 眼光紙背 - BLOGOS(ブロゴス) - livedoor ニュース
http://news.livedoor.com/article/detail/4597800/

安心して死ぬ事と、生きている間の充足感には関連があると思います。
その充足感というものを政治や社会の仕組というシステム上で考えるには、あまりにもスケールが大きすぎて、結果的には誰も満足できない結果になりやすい。
そんな事より、今回の老人と少女の交流のように、自分の目の前にある身近な「縁」を大切にすることの方が、安心な死につながるのではないかと思います。


*NHKスペシャル無縁社会(全6回)

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【1・行旅死亡人(こうりょしぼうにん)とは】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002015.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【2・身元不明の死】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002016.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【3・薄れる家族とのつながり】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002017.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【4・会社とのつながりを失った人々】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002018.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【5・"生涯未婚"の急増】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002019.html

●神崎のナナメ読み: NHKスペシャル無縁社会〜“無縁死(むえんし)”3万2千人の衝撃〜【6・希望の光】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002020.html

Posted by kanzaki at 2010年02月11日 15:55