2010年11月05日

「犬と鬼」〜東洋文化研究科のアレックス・カーさんが語る観光まちづくり【1】

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「にいがた総おどり」の一コマ。


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財団法人新潟経済社会リサーチセンター主催の講演会にて、東洋文化研究科のアレックス・カーさんが講師を務めました。

●アレックス・カー - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC

アレックス・カー(英: Alex Kerr、1952年6月16日 - )は、アメリカ合衆国の東洋文化研究者、著述家。 日本では京都の町屋再生事業、コンサルティング事業を手がける株式会社庵(いおり)取締役会長を務める一方、講演、執筆、コンサルティング事業も手がける。2008年2月より長崎県北松浦郡小値賀町の「観光まちづくり大使」を努める。

●アレックス・カーさんの公式サイト「Alex Kerr.com」
http://www.alex-kerr.com/www_index.html

新潟経済社会リサーチセンターが毎月発行している「にいがたの現在(いま)・未来(あした)」は、新潟に住む人にとって最も身近でリアルな経済誌だと思います。
新潟で町おこし、村おこし等を考えている人には、とても参考になると思います。
首都圏や他県の情報は参考にはなっても、有効活用ができません。
環境・条件が違うからです。
自分の住んでいる町について、ちゃんと数値・数字の側面から経済を検証しているので、実に分かりやすいです。

●新潟経済社会リサーチセンター公式サイト
http://www.rcn.or.jp/

アレックス・カーさんの講演は「観光まちづくりによる日本再生〜美しき田舎のリサイクル〜」というタイトルです。


・国土に占めるコンクリートの量は、日本はアメリカの30倍です。
国家予算に占める土木、建設予算の割合は、日本が40〜50%、ヨーロッパ8%、アメリカ5%です。
日本の公共事業は、国土に大打撃を与えているのが分かります。

・日本はコンクリートで覆い尽くす古い技術が中心で、土木技術が世界から遅れています。
今は、いかに自然を破壊せず、景観を保つことが出来るかで技術が競われている時代なのです。

・日本は昔、観光というものを見下し、造船、車で稼ぐという考えでした。
そんな考えを持っている間に、世界の大都市は観光が大きな産業になっていました。
日本が本来持っていた美しい景観は、産業・経済発展という名目の為に失われ、コンクリートで塗られてきたのです。

・日本には「観光は数である。観光バスで運べばいい」という考えがあります。
観光を産業として軽視してきた結果です。
年間に何百万人も訪れるような観光地でも、平均滞在時間が1時間未満というところが少なくありません。
これは、観光バスでやってきて、お土産を買ってトイレを済ませて帰っていくだけだからです。
これでは地元にお金は落ちませんし、そもそも健全な観光になっていません。

・アレックスさんの師匠である故・白洲正子さんの玄関先には、
「犬馬難 鬼魅易(けんばはかたく きみはやすし)」
という短冊が飾ってありました。
意味は「宮廷の絵描きに皇帝が、何を描くのが難しいか訊ねたそうです。すると絵描きは、ありふれた犬や馬はなかなかうまく描けないが、鬼は想像の産物だから易しいと答えた」という中国の故事だそうです。

・日本の戦後の開発は、目に見えない大切なことをおざなりにしてきました。
例えば、先進諸国ならば当たり前である電線の埋設が、日本では未だに進んでいません。
海外の人から見ると、電線が張り巡らされている姿は、発展途上国の風景なんだそうです。
その一方で、何百億、何千億というお金を土木に使った。
つまり、やりやすい鬼ばかりをかまってきたのです。
正に「犬と鬼」・・・「犬馬難 鬼魅易(けんばはかたく きみはやすし)」なのです。

・また日本で最近、顕著なのが「モニュメント」。
下関のドリームタワー、香川県のゴールドタワー等。
目的もなく作るので、しばらくすると破錠し、閉鎖されてしまう。
岡山県奈義町に、著名な建設家による美術館がありますが、この建設によって奈義町の財政がバンクしてしまいました。
対馬では、人口3,000人以下の町に22億円もかけて「文化の郷」という、ただのホールを造りました。
ただの文化ホール、ただのハイウェイにスローガンをつけ、やらなくても良いことを始める。
コンクリート護岸に自然石風の飾り付け。

・日本はカメラ、自動車を作るのにテクノロジーが必要だとは知っていても、景観、ソフトにもテクノロジーがあるという事を知らないのです。
ハワイは50年前から大型看板を禁止して、景観の美しさを保っています。
ニューヨークの5番街も、ブロードウェー等の限られた場所以外では、2階以上の高さの看板を禁止しています。
看板の禁止は経済にマイナスになると思われるかもしれませんが、ハワイもニューヨークも、一人当たりのGDPは日本の2倍です。

(続く)


日本人が当たり前に思っていた事が、なんだか恥ずかしくなるような事実の羅列ですね。
最近、各地方では「B級グルメ」で町おこしをしようという考えが盛んです。
それ自身は、むしろ私も大歓迎。
それを元にして町が一致団結して活気が取り戻せるなんて、とても素晴らしいことですから。

以前、名前は言いませんが、B級グルメで有名な地方へ行きました。
道の駅をはじめ、いろんな個人経営の料理店等で、地元の有名なB級グルメが食べられるようになっていました。

確かに、お店の人にも人情味があったし、美味しかったのですよ。
でもね、その町の景観は、どこにでもあるような地方都市だったのです。

大きな山が奥に見えて、大きな道路がまっすぐ続く景観。
その道路沿いに、どこの町にでもある吉野家・マクドナルド等のファストフード店があり、ローソン・セブンイレブン等のコンビニがある。
ユニクロ・しまむら等の衣料店もある。ファミレスだって当然ある。

道の駅や高速道路のサービスエリアには、たくさんのお客がいるけれど、どこの道の駅もサービスエリアも似たようなもの。
せいぜい、その場所でしか販売していない料理(昔からあるものではない新造グルメ)に違いがあるだけ。
県外の至る所を仕事の関係でクルマで走ったけれど、程度の差はあれ、殆ど似たような景観なんですよね。
どれも昭和の後半から現在に到るまでに作られた人工物であり、日本の別の場所でも見られるものばかり。

綺麗な町なんてあっただろうか・・・。

私が県外へ行っても、あまりカメラで写真撮影しないのは、新潟で撮影した風景とちっとも変わりがないからです。
アレックスさんが、日本はコンクリートの使用量がとても多いと語ってましたが、これが景観に影響しているのですね。

土木・土建で築きあげてきた日本は、それによって沈没しようとしている。
今は中国等から観光客が沢山来ているけれど、多分、今だけだと思う。
理由は、どこも同じような感じだし、何度か来れば十分だからです。
それは、日本人である我々にだって自覚があるはずです。
買い物だって、ネット通販で取り寄せるのが主流になってくるから、わざわざ現地へ買いに行かなくてもいい。

昨日、ネパールにある新進デンタルクリニックでは、外国人の患者を受け入れる「デンタルツーリズム」を行っており、ネパール滞在期間中の宿泊先やビザ、観光の手配までしてくれるという事を書きました。
景観を大切にしない限り、このような変化球でもしなければ、日本への観光客はいずれ減っていくでしょう。

それじゃあ今後、日本は具体的にどうすればいいのかについてアレックスさんの考えを次回に書きたいと思います。

●次回の記事: 「犬と鬼」〜東洋文化研究科のアレックス・カーさんが語る観光まちづくり【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002207.html

Posted by kanzaki at 2010年11月05日 23:07