2010年11月07日

「犬と鬼」〜東洋文化研究科のアレックス・カーさんが語る観光まちづくり【2】

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「にいがた総おどり」の一コマ。

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前回の続きです。

●前回の記事: 「犬と鬼」〜東洋文化研究科のアレックス・カーさんが語る観光まちづくり【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002206.html

財団法人新潟経済社会リサーチセンター主催の講演会にて、東洋文化研究科のアレックス・カーさんが講師を務めました。
講演は「観光まちづくりによる日本再生〜美しき田舎のリサイクル〜」というタイトルです。
以下、前回の続きとなります。


・日本人は「古き良き」街並みを嫌っているのでしょうか?
景色を損なう看板の規制に成功した街は、日本にはありません。
看板だけではなく、建物もそう。
京都ですら、1200年に及ぶ文化、美学、歴史を全否定しています。
例えば昔ならば、京都駅へ降り立つと東本願寺の屋根が見えました。
今は、それを隠すかのように京都タワーが出来ました。
京都駅ビルはコンペによって出来たのですが、審査基準は「周辺環境との調和」。
これが調和かよ!と言いたいです。
京都の街は今、ピンクやイエローが多い。
これは、「私達は古い京都じゃないんだよ」と発信している事と同じです。

・モニュメントばかり作っている間に、街はどんどん寂れていっています。
観光客は、ホールやビル、記念館を目当てに来ているのではありません。
街の空気を味わいに来ているのです。
文化財とか世界遺産とかじゃなく、生活感です。
軒下にぶら下がっている唐辛子や農家の納屋。
それが旅行の醍醐味です。

・アレックスさんは京都で「庵」という会社を興しました。
ヨーロッパの田舎にはレンタルヴィラ(長期滞在型宿泊施設)があります。
これは、古い昔の家で「暮らす」観光です。
京都の町屋を直して外国人に提供してみようとやってみたら、お客さんの7割が日本人でした。

・古い町屋は一度潰したら二度と作れません。
どうして日本中でこうした家が壊されていくのか。
住めない、直せないという先入観が原因です。
確かに、昔の状態のまま住めと言われたら住めません。
しかし、冷暖房、畳の部屋にも床暖房、トイレとお風呂を開放的にすれば快適になるのです。
現代の暮らしに合うように直すのも技術、テクノロジーなのです。
壊して新しく建てるよりも安く済みます。
目に見えない配線、水回り、床暖房など、つまり鬼ではなく犬の部分に集中的に手を入れます。

・アレックスさんは文化財を扱うつもりはありません。
江戸時代に戻ろうと言っている訳でもありません。
現代人が快適に楽しく生活できる事が大事だと思っています。
フランスやローマに美しい家並が残っているのは、あの中で現代人が生活しているからです。
古い家でありながら、今の生活ができるようにしてあるのです。

・地方にとって観光は最後の砦になっている昨今。
昔のものを潰して新しいものを建てれば経済発展という思い込みがありましたが、古いものを活かすことがマネーメーカーなのだという事に、日本もようやく気付き始めました。
自分の街に対するプライドが大事。
愛していればおかしな事にならないのです。
京都がオリンピックの頃に京都タワーを建てたように、新潟では堀を埋めました。
今は、それを復活させようという動きがあるそうですね。
全部は無理でもどこか一角をきちっと残せば、行き甲斐のある場所ができます。
そういう場所があることが大事。
一つの可能性だと思います。


以上です。

海外の方だからこそ、日本の現状を冷静に分析できています。
まったくその通りだよなあと思いました。

アレックスさんの話しは、どこかで聞いた事があるなあとも思いました。
それは、新潟市の中心部にある「蔵織」の社長さんのお話しでした。

●蔵織(くらおり)
http://www.craole.jp/
100年前の建物に手を加えた場所です。
各方面の芸術家の作品発表の場等に使われています。

住所:〒951-8062 新潟市中央区西堀前通1-700(新潟地方裁判所の向かい)
TEL&FAX: 025-211-8080
地図:

大きな地図で見る

・蔵織の外観と中の写真
http://www.craole.jp/Craole蔵織-A-1-2.htm

・Craole 『蔵 織』 をめぐって
http://www.craole.jp/Craole蔵織-A-1-3.htm
(抜粋文)

この古い建物(新潟市中央区西堀前1-700)は私の曽祖父(斉藤家)が明治43年(1910年)に建てたものです。この建物は斉藤家、佐藤家が丁寧に住んでいましたので、比較的良い状態で残っており、昭和30年(1955年)の新潟大火にも燃えず、関東大震災(M7.9)にも匹敵する、昭和39年(1964年)の新潟地震(M7.5)にもほとんど無傷で耐えてきました。ここ数年は、新潟市役所が近い西堀界隈も背の高いマンションが乱立して、コンクリートの谷間にあるという感じになってきました。古い建物は建っていた場所の地力(ちりょく)を尊重し、昔の人が笑いながら“地固め唄”を歌った、その場所で、年老いた建物の気風の流れを良くしてやれば、元気になって活躍することも出来ます。そんなわけで、もう少し長く花を咲かせようと、今回、お金とエネルギーをなるべくかけずに補強、手直しし、“ 西堀百年物語 Craole 『蔵 織』 ” として出発いたしました。

100年前の建物に手を加えて、現代人が気持よく使えるようにされています。
ダイニングキッチン、水洗トイレ(ドアを開けて中へ入ると、水洗トイレの蓋が自動的に開く!)、床暖房、ネット環境もあります。
照明スイッチは、建物の雰囲気を損ねないように、見えないよう工夫もされています。
ここでは、芸術家達が作品発表をしたり、日本酒の利き酒会、新潟の歴史の勉強会等が行われています。
志賀社長の人柄のおかげもあり、いろいろな方々がこの場所へ集まります。
私も今年になってから、ちょくちょく顔を出させてもらっています。
この建物そのものが歴史の生き証人であり、現代の暮らしに合うように直す技術、テクノロジーの結集でもあります。
是非、機会がありましたら、訪ねてみてください。

「破壊と創造(創造的破壊)」という言葉があります。
オーストリアの経済学者シュンペーターによって唱えられた考え方で、非効率な古いものは効率的な新しいものによって駆逐されていくことで経済発展するという考え方。
その新陳代謝のプロセスのことです。
しかしもう、今はそういう時代じゃないと思います。
壊すのではなく、手を加える・・・これが21世紀のキーワードだと思うのです。

改良、改善は日本人が得意とするところですよね。
古き良き時代を懐かしむのではなく、今の時代にアレンジして「現在進行形」で使っていく。
新潟市の中心部が復活する方法の答えが、アレックスさんの言葉の中にあると思います。

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上記で紹介しました「蔵織」にて、「第二回 『新潟市西堀界隈に桜を植える会』植樹会」を実施します。

・日時:11月14日(日)午後1時より
・集合場所:蔵織
・会費:1,000円
・内容:
西堀、古町など道路境界と民家の間のスペースに桜の苗木を植える。
終了後、蔵織で珈琲会。

・蔵織のお知らせ : 新潟市西堀には桜並木があった。新潟今昔写真展
http://craole.exblog.jp/12091531/

新潟の中心街は昔、アレックスさんの講演にもありましたとおり「堀」がありました。
そして、その堀に沿って、沢山の桜が咲き誇っていました。
当時のように、新潟の街を桜で綺麗にしようという企画です。
私も参加します。
もし、ご興味がありましたら、参加してみてはいかかでしょうか。

Posted by kanzaki at 2010年11月07日 22:23