2010年12月31日

99歳のアマチュア詩人(柴田トヨおばあちゃん)〜詩集「くじけないで」が70万部の大ヒット・世代越えて呼ぶ共感

●「99歳の詩人」柴田トヨ 世代越えて呼ぶ共感
【 12月31日(金) 総合/デジタル総合 08:30 〜09:13 】
http://www.j-cast.com/tv/2010/12/29084581.html

「ヒューマンドキュメンタリー」がとりあげるのは、99歳の詩人として今年(2010年)注目を集めた柴田トヨさん。

「貯金」
私ね 人からやさしさをもらったら 心に貯金しておくの 
さびしくなった時は それを引き出して元気になる 
あなたも今から積んでおきなさい 年金よりいいわよ

1人の寂しさ、ささやかな幸せ、家族への愛などを書いた詩が、年配者から10代の若者まで世代を越えて共感を呼び、詩集「くじけないで」が3月の発売以来70万部の大ヒット。出版社には1万通以上の反響の手紙が寄せられてきた。
番組は、来年に向けて新作を書き続けるトヨさんの詩の世界を見つめる。


●柴田トヨ - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9F%B4%E7%94%B0%E3%83%88%E3%83%A8

柴田 トヨ(しばた とよ、1911年6月26日 - )は、日本の詩人。
栃木市生まれ。一人息子の勧めで書きためた詩を2009年10月に自費出版した。
その後飛鳥新社が魅力を感じ、内容を追加、装丁を変更し再出版。4万部を記録する。詩作は90歳代になってから始めた。
産経新聞の投稿欄「朝の詩」の常連で、新川和江に高く評価される。
シャンソン歌手の久保東亜子が詩に曲を付けたことがきっかけでラジオ深夜便に出演。
「多くの人たちの愛情に支えられて今の自分がある」と述べている。
希望を失っていた柴田が今では読者に希望を与えている。自身の作品を世界の人々にも読んでほしいとのこと。
『別れの一本杉』で知られる船村徹(作曲家)と高野公男(作詞家)の作品に感銘を受けた。
歌人の植村恒子と交流がある。栃木市の「幸来橋」は思い出の場所。


※※※


今年最後の朝、自宅の大掃除をしつつ、「ゲゲゲの女房 総集編」を観ていました。
放送終了後、柴田トヨおばあちゃんについてのドキュメンタリー番組を放送していました。
恥かしながら、私はこのおばあちゃんの事を知りませんでした。
おばあちゃんの書いた詩は、多くの人々に共感してもらい大ヒットしたのですね。

NHKが「無縁社会」というキーワードをあらゆる角度から紹介してきました。
今回もある意味、そのキーワードの一つの側面を捉えたものだと思います。
通常、「無縁社会」はネガティブな方向ばかりに目が行くのですが、今回は希望を感じられる内容でした。

99歳で一人暮らしをする詩人のおばあちゃんの考えや生き方から、学ぶべきものが多くあるように思います。

99歳の柴田トヨおばあちゃん。
18年前、夫の曳吉さんが他界してから一人暮らしを続けています。
足腰が弱り、数年前から外出が殆ど出来なくなりました。
(けれど、車輪のついた荷物籠を押してならば、立って歩くことは可能です)

窓から見える景色、日常の出来事。
そこから想像力をふくらませて、言葉を紡いでいきます。


「風や陽射(ひざ)しが」

縁側に
腰をかけて
目を閉じていると
風や 陽射しが
 体はどうだい?
 少しは庭でも
 歩いたら?
そっと 声をかけて
くるのです

がんばるぞ
私は 心のなかで
そう答えて
ヨイショと
立ちあがります


柴田トヨさん
「もう明日だって分からないでしょ? 99歳にもなっちゃね。だからね、しっかりして一日一日を楽しく暮らしていきたいと思います」

取材を受けるトヨおばあちゃんの顔は、シワはあってもシミが殆ど無く、白くてきれいな肌をしています。
そして、瞳は美しい瑠璃色をしています。
とても99歳には見えません。

18年間に及ぶ一人暮らし。
時々、寂しさがこみ上げてくることもあります。


「こおろぎ」

深夜 コタツに入って
詩を書き始めた
 私 ほんとうは
と 一行書いて
涙があふれた

何処(どこ)かで
こおろぎが鳴いている
泣く人遊んであげない
コロコロ鳴いている

こおろぎコロスケ
明日もおいでね
明日は笑顔で
待っているよ


ある日、長男。健一さん(65歳)が訪ねてきました。
「こおろぎコロスケ」のモデルは健一さんです。
クルマで一時間ほど離れた町に暮らしていますが、二〜三日おきに顔を出します。

健一さんがトヨさんに、「自分の家に来る気はないの?」と聞きました。
トヨさんは「来る気持ちはない」と答えます。

健一さん「5年前、おっかさんの部屋も考えて立て替えたでしょ? でも、おっかさんは一人でいるからって・・・」
トヨさん「私は一人がいいの。気を遣わないから。私はひとりでここに暮らすのが一番いいわ」

健一さんは若い頃から趣味で詩や短歌を書いてきました。
健一さんの勧めで、トヨさんも90歳を過ぎてから詩を書き始めました。
8年前、新聞に投稿をはじめると、繰り返し入選するようになりました。
そして今年、出版社から声がかかり、トヨさんの詩集が誕生したのです。
トヨさんの作品には、今まで生きてきた思い出をつづったものが数多くあります。

トヨさんは明治44年、栃木市の裕福な米商人の家に生まれました。
しかし、父親が事業に失敗。
トヨさんは10代の時から奉公に出されました。
栃木市の川沿いにある宿場町が奉公先でした。
裁縫の仕事や旅館の仲居をしました。

そこにある来幸橋(こうらいばし)は、トヨさんの思い出の場所。
ふーちゃんと呼ばれていた奉公先の仲間と、よくここに来ていました。


「幸来橋」

奉公先でいじめられ
幸来橋のたもとで
泣いている私を
ふーちゃんが
がんばろうね って
笑いかけてくれた

巴波川(うずまがわ)のせせらぎ
青い空 白い雲
幸せが来るという橋
やさしい ふーちゃん

がんばれる気がした
八十年前の私


二十歳を過ぎてお見合い結婚をしましたが、半年で離婚。
10年後、料理人の曳吉さんと結婚し、息子の健一さんを授かりました。
しかし、曳吉さんの給料は安く、家計はいつも火の車でした。
隣近所の人から針仕事をしてお金をもらい、生計を立てていました。
貧しい生活でしたが、トヨさんは三人で過ごす喜びをかみしめていました。
その幸せを詠んだ詩があります。


「思い出」

子どもと手をつないで
あなたの帰りを
待った駅

大勢の人の中から
あなたを見つけて
手を振った

三人で戻る小道に
金木犀(きんもくせい)の甘いかおり
何処(どこ)かの家から流れる
ラジオの歌

あの駅あの小道は
今でも元気で
いるかしら


「ふと優しい気持ちになれる時があれば、人はくじけずに生きていける」
トヨさんの詩に流れるテーマです。
トヨさんの詩は口コミで広まり、瞬く間にベストセラーになりました。

読者からの手紙は1万5千。
お年寄りだけではなく、働く女性など、世代を超えて共感をよんでいます。

(ここからしばらく番組では、詩に共感した人達にスポットライトをあてた内容となっていましたので割愛)

人からもらった優しい気持ちを大切にして生きてきたトヨさん。
来年6月、100歳になります。

新しい年に向けての詩が出来ました。


「がまぐち」

毎年
お正月が来ると
思い出すの

当時 小学生だった倅(せがれ)が
納豆売りをして
買ってくれた
大きな がまぐち
 母ちゃんへ 御年玉だよ
って 私に贈ってくれたの

かじかんだ小さな手
吐く息の白さ
弾けるような笑顔

私は 忘れない
がまぐちは
今でも 私の宝物

お金は貯まらなかったけれど
やさしさは
今でも たくさん入っている


※※※


今年最後の最後で、素敵な生き方をされている人を知って良かったと思います。
トヨおばあちゃんの詩集を読んでみたくなりましたよ。

詩に限る事ではないと思いますが、作品というのは、それを創った人の生き方・性格がしっかり反映されるものなんですね。

トヨおばあちゃんの人生は、決して派手な内容ではありません。
むしろ、社会の中でひっそりと清貧の心で生きてきました。

現在、生活が大変な人達がたくさんいます。

離婚をして子どもを一人で育てなければいけなくなった女性。
夫を失い、一人でお店をきりもりする女性。
ガンと闘う人。
就職がなかなか決まらない学生。
職を失い、再び職を探そうにもなかなか見つからない人。
年老いた親の介護で一日があっという間に過ぎる人。
他にも、身近なところで苦しんでいる人達がいます。

心のよりどころが欲しいのだけれど、案外、そういうモノは身近に見つけにくいものです。
多様化された社会と言われていますが、弱者にはその選択肢が無いという、非常にバランスが悪いのが実態です。

トヨおばあちゃんの詩は、尖ったところがありません。
川の流れによって角が丸くなった石ころのよう。
決して派手なものではないけれど、それは一朝一夕で出来上がるものではない。
ゆっくり、一日一日を歩み続けた人生があるから出来上がった詩。

あまりにもスピードが速くなりすぎて、しかも失敗が許されず完璧を求められる時代。
人は機械じゃないのだから、そんなの無理なのにね。
何のためにそこまで自分たちを追い詰めるのか、その意味を見い出せない状況です。

人生は日々前へ進んでいくものだから、止まることができない。
トヨおばあちゃんの生き方を詩から感じ取り、うつむき加減の顔を前へ向けて明るく進みたいものです。


来年が良い年でありますように。

Posted by kanzaki at 2010年12月31日 22:42