2014年07月26日

なぜ、 パイロットの消える筆記具「フリクション」シリーズが世界で10億本も売れているのか?〜各国の文字文化をきめ細かくマーケティングできる直販の販売拠点があるから

pilotfrixion01.JPG

書いた文字を消すことができるボールペンといえば、パイロット「フリクション」シリーズです。


●消える筆記具フリクション | PILOT - パイロット
http://www.pilot.co.jp/promotion/frixion/info/


2014年3月末時点で、10億本を突破しました。
日本より先に欧州で発売して大ヒット。
現在は世界約100カ国で販売しています。
(日経トレンディより)



【開発経緯】


「フリクション」とは「摩擦」という意味です。
フリクションボールで書いた筆跡を専用ラバーでこすると、摩擦熱でインクの色が透明になります。
各社、消せるボールペン開発をしてきた中、パイロットだけがインクの温度変化に着目しました。


パイロットは、万年筆から始まった筆記用具メーカーとして、創業以来ずっとインクの開発に力を入れてきました。


温度変化で色が変わるインク「メタモインク」の開発に成功したのは、1975年のことです。
色が変わるコップや玩具に利用しました。
その後、温度変化の幅を−20度〜65度まで拡大することに成功。
粒子を微細化して筆記具に落とし込む技術などを蓄積し、フリクションボールに使われてる「フリクションインキ」へと繋がっているのです。


フリクションインキの基本成分は、発色剤、発色させる成分、変色温度調整剤の3つです。
これをマイクロカプセルに包まれている専用ラバーでこすると、摩擦熱によりインクが温まり透明化するのです。
紙の繊維に入り込んだインクも、温度が伝われば綺麗に消すことができます。



【欧州でヒットした理由】


欧州で人気に火がついたのには理由があります。
フリクションボールの商品化を提案したのは、欧州マーケティング部門の担当者です。


日本の子供たちは、鉛筆やシャープペンを使って勉強します。
一方、欧州では多くの国で、ボールペンや万年筆を使って学習するのが普通なのです。
その為、インクで書いた文字の修正ニーズは、日本よりもはるかに高いのです。


日本の場合、就職した途端、シャープペンからボールペンへの切り替えを求められます。
消えないからこそ、法務やビジネスの書類に使用されるのです。
しかし、そこを「消したい」というニーズは、かねてよりあったのです。
だからこそ過去に、砂消しゴム、修正液、修正テープなどが生まれたのです。


2001年、パイロットは「D-ink」を発売。
消しゴムで消せるカラフルなゲルインキボールペンです。
中学・高校生には人気でしたが、ビジネスパーソンの実用には耐えられませんでした。
理由は、耐性の悪さ。
ちょっとこすったり、摩擦が加わるだけで文字がかすれますし、水にも弱かったのです。


2007年、ついにフリクションボールが発売されました。
しかしその時点では、通常のインクよりも粒子が大きくて、満足のいく濃さではありませんでした。
インクの乾燥を防ぐ手立てが無かったので、今のようなノック式ではなく、キャップ式となりました。
ペン先は0.7mmと太すぎるのも重々承知。
販売してから改良をじょじょに加え、多色、0.38mmの極細字タイプから木製色鉛筆まで、幅広いラインナップで展開しています。



【筆記具の好みは各国でさまざま】


文房具は1000万本売れれば大ヒット。
そんな中、フリクションシリーズは10億本にまで達しました。
パイロットの売り上げの6割を占める海外市場で成功したのが要因です。


筆記具は、国によって好みに差があります。
その為、世界中で売れる商品というのは決して多くないのです。


米国でゲルインキボールペン市場の半数を占めるのは、「G2」という商品です。


●G2: Pilot Pen(米国公式)
http://pilotpen.us/brands/g2/

●G-2 | 筆記具 | ボールペン | ゲルインキボールペン | 製品情報 | PILOT
http://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/gel_ink/g2/


初めて聞く商品なのですが、これはやはり日本では売れていません。
ペン先が太く、漢字が書きにくいからです。


日本やアジア各国で大ヒットしているゲルインキボールペンといえば、激細タイプの「ハイテックC」です。


●ハイテックC | 筆記具 | ボールペン | ゲルインキボールペン | 製品情報 | PILOT
http://www.pilot.co.jp/products/pen/ballpen/gel_ink/hitecc/


激細0.3mmボール、超極細0.4mmボール、極細0.5mmボールと細かすぎてアルファベットが書きにくく、欧米では売れていません。


アルファベット圏、漢字圏、紙質、主な用途、文具を売るには国ごとのきめ細かいマーケティングが必要です。


パイロットは、創業当時から海外へ目を向けていました。
1926年には既に世界進出を果たしました。
その時点で、ニューヨーク、ロンドン、上海、シンガポールに進出。
その後、インド、インドネシアや中南米にも進出し、現在、世界各国に約20カ所の販売拠点を持っています。
他社のほとんどが代理店を通じた販売の中、これは強みとなっています。
直販であるからこそ、自社営業担当者によるきめ細かい販売活動が可能になり、営業部員が吸い上げた市場の声を開発や生産に生かせるのです。


また、代理店はほぼ全ての国にあります。
ネットワークは約70カ国へと広がっています。
国ごとの特徴に合わせて、何をどう売るかを細かく設定しています。


フリクションボールは世界100カ国で販売していますが、どのモデルを売るかは、国によって全て違っています。


※※※


私も消せるボールペンは重宝しています。
油性などに比べると、若干水っぽいというか薄い感じもしますが、実用上は問題ありませんものね。


文房具は、時代の流れがゆっくりとしているのかと思いがち。
実は年々、進化しています。


10年後には、私たちが想像もしなかったものが、当たり前のように販売されているかもしれません。

Posted by kanzaki at 2014年07月26日 09:58