2021年02月21日

「しょうがない」の真髄は執着しないこと

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●『逃げる自由 〈諦める力2〉』(為末 大 著)より


祖母は「しょうがない」が口癖だ。


僕が子どものころ、高熱で危なかったとき、「しょうがない。もう一人産んだらええ」と早々に諦めの言葉を発した人だ。


祖母はよく人に騙された。
たとえばある日、これが売れないと会社に帰れないんですと泣きついてきた若者から業務用の掃除機を買ったりした。
旅の途中で路頭に迷って家に帰れないから一万円を貸してほしいと懇願されて貸したりもした。
平成の世に旅人が村の家を訪ねるなんてありえないと思うだろうけれど、そういう話がたくさんある。
もちろんお金は返ってこないが、そのたびに「しょうがない」と言っている。


「しょうがない」が多い人生は、ダメな人生かもしれないが、本人には深刻な悩みがない。


なにしろしょうがないと言って流してしまうのだから溜まっているものがない。
阿呆に見えるかもしれないが、少なくとも「今」を生きている。


ところが「しょうがない」が言えない人生というのもあって、これはつらい。


過去に起きた何か自分に引っかかっていることがずっと流せないで心に残っている。
あの人が許せない、どうして自分ばかりこんな目に、あれさえあればもっと幸せだったのに……。


執着の強い人間にとって(僕もそうだが)しょうがない、と言うことは意志の力が必要だ。
しょうがないと流したあとはそれを振り返ってはならないと自分に固く誓う。


そんなこと到底納得できないと思っていても、「しょうがない」と言って無理やりそれを後ろに流す。
なかなか根性がいる。


「しょうがない」の真髄は、執着しないことだ。
執着とは「滞り」である。


※※※※※


「しょうがない」「仕方がない」といえる人は強いと思います。


私は諦めるのが、なかなか出来ない方です。
負い目、後ろめたさで、諦めたあとも引きずります。


そのくせ、モノとかは簡単に捨てられます。
身軽になって前進できることが、目に見えて分かるからです。


しかし、モノという形になっていないもの・・・立場、人間関係、目標とかは難しいです。
捨てられません。
目に見えないものは頭の中で、どんどん大きく膨れ上がります。
忘れたいのに、かえって意識してしまいます。


この先、いろんなものを引きずったまま生きるのは、どうにもよろしくないとは思っています。


著者の別の書籍で、「一意専心よりもオプションを持つこと」と語っています。
一つに全集中しないで、オプションを持って「あえて」という感覚で取り組むと、勝つために全力を尽くすが、負けたからといって精神的に行き詰まらないのだそうです。


昔、タレントの所ジョージさんが、似たようなこと言ってたなあ。
Aが辛い場合、俺にはもう一つBある。
そのBで辛くなったら、俺にはAがある。
そう考えていると。


確かに、こういう考えになれば、「しょうがない」と諦めもつきやすいかもしれません。


以下、「一意専心」「オプション」についての引用です。


※※※※※


●『諦める力〜勝てないのは努力が足りないからじゃない』(為末 大 著)より


「一意専心よりもオプションを持つこと」


一意専心という言葉がある。
意味は「他に心を動かされず、ひたすら一つのことに心を集中すること」とある。


日本人は、ことさらにこの姿を求める。
特にアスリートは動機の純粋さを強く求められる職業である。


競技としてのスポーツを追求している人よりも、鍛練のための「○○道」を極めているタイプのほうがウケがいい。


「僕には陸上しかありません。陸上が僕の人生です」
そう言うことで多くの人が納得し、保険にもなるというのはよくわかる。


アスリートは夢を与える仕事でもあるので、ある程度求められた役割を演じていることも必要だ。
しかし、本心からそれだけ思って競技に取り組んでいたとしたら、かなり苦しくなってくる。保険になることはあっても、逃げ道がなくなってしまうからだ。


一意専心という言葉と対極にある考え方は、オプションを持つというスタンスだ。


この二つの考え方は、どうしてもぶつかってしまう。
それなりの結果を残しているアスリートに話を聞いても、他の道も考えたけれどあえてこの競技をやりましたというアスリートはかなりいる。


アスリートどうしだとそういう話もポンポン出てくるのだが、公にはそういったさまざまなオプションのなかからあえてこの競技を選んだというスタンスは表明しづらい。


「別の方向に進める可能性もあるが、あえて今はアスリートをやっている」人は、いい加減な気持ちでやっているわけではなく、ある意味で肩の力が抜けている。


勝つために全力を尽くすが、負けたからといって精神的に行き詰まらない。
オプションを持って「あえて」という感覚で取り組むことの強さはそこにあるような気がする。

Posted by kanzaki at 19:45
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