2021年11月07日

映画「そして、バトンは渡された」の感想〜人を想うことの連鎖のすばらしさを再認識させてくれました

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映画「そして、バトンは渡された」を観ました。
本屋大賞受賞の小説を永野芽郁さん、田中圭さん、石原さとみさんの共演で映画化したものです。


人が幸せになる方法は、どれだけ他者へ愛情を注げるかだと感じました。
血のつながりじゃない。
そして、愛情を受けて育った人は、今度はまた別の誰かへ愛情を注ぐ。
人を想うことの連鎖のすばらしさを再認識させてくれました。


愛情を注いでもらっていた娘が、実は周りのみんなに幸せを与えていた。
王道でいいなあ。


昔の一話完結・単発ドラマを放映していた頃の「東芝日曜劇場」を思い起こさせる内容。
家族で観ることができる、優しい時間が流れる作品でした。
上映中、3回泣きました。
人を想う優しい作品なので、演じる俳優さん達も好きになれますよ。


今年に入って観た映画で、一番館内が混んでいたように思います。
年齢層も幅広く、劇中の"みいたん"と同じぐらいの小学生の女の子もいました。


ベストセラーの映画化というのが要因というより、主演の永野芽衣さんが、誰もが思う永野芽衣さんらしい内容だからじゃないでしょうか。


●映画『そして、バトンは渡された』オフィシャルサイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/soshitebaton-movie/


映画『そして、バトンは渡された』本予告



映画『そして、バトンは渡された』特別インタビュー


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主演は永野芽衣さんですが、実質の主役は、田中圭さんと石原さとみさんが演じる「血のつながらない父・森宮さんと母・梨花」だと思いました。


血縁なんて関係なく、無償の愛情を注がれて育った主人公・優子(永野芽衣さん)。
彼女自身が何かを巻き起こすのではなく、むしろ彼女に幸せになって欲しいと思う大人たちの奮闘の物語です。
それゆえ、お父さん、お母さん世代はこの映画にハマると思います。


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田中圭さん演じる父親のキャラが、なんとも良いのですよ。


東大を出て頭は良いのですが、仕事面では手柄を横取りされるし、自分は後回しでなんでも人へ譲ってしまう。
怒るということはありませんが、結婚前は生きがいもありませんでした。


梨花との結婚式当日、いきなり娘を紹介されても怒るどころか、幸せが2倍になると優しく受け入れます。
田中圭さんはその時の心情をうまく演じています。
物語の人物とはいえ、尊敬できました。


奥さんが家を出て行ったあと、残された血のつながらない娘を大切に育てます。
おかげで娘はひねくれることも無く育ちました。


この田中圭さん演じる、血のつながらない父親の心情をもっと観たかったです。
そういう人は多かったんじゃないかなあ。


この映画は登場人物が多いし、それぞれに時間を割いているがゆえに、一人一人を深く表現することができません。
時間が無いから、過去のエピソードも説明台詞で語るしかない。


奥さんは料理が苦手なので、料理教室に通ってうまくなったという設定です。
そのシーンも映像で観たかったです。


奥さんが去ったシーン、
残されて2人だけの生活が始まったシーン、
慣れない手さばきで料理を作るシーン
・・・これらが一切描かれていません。


そういうものを描いていなくても、こういう生活を過ごしてきたのだろうなあという空気は、作品から見事に伝わっていました。
きっと、田中圭さん、永野芽衣さんのお二人から醸し出される雰囲気のおかげだと思います。


お二人とも見た目は、それこそ芸能人然としているけれど、不思議と親しみがありますよね。
最近のTVドラマは、刑事モノ・医療モノ等のスペシャリスト的なものが多い中、失敗もするし、泣いたり笑ったりと人間味あるものが似合う俳優さんです。


この父親は、どうやって手探りで奮闘し、親子関係を築いたのかを観たかったなあ。
映画本編は、そうやって紆余曲折を経たあとの、いわばTVドラマ放映終了後のスペシャルドラマみたいなもの。


出てくる手料理が、娘への愛情が伝わるような見た目です。
いっそうの事、田中圭さん演じる父親と、血のつながらない永野芽衣さん演じる娘を「家庭料理を通じて描くテレビドラマ」で観たかったです。
最初の父親、二番目の父親のメイドも料理関係の人。
そして主人公自身も料理人なのですから、いくらでもエピソードを作ることができます。
「パパはニュースキャスター」「パパとなっちゃん」という往年のドラマのように、田中圭さん演じる父親視点で、物語を再構成してもいいんじゃないかと思いました。


この映画は、「ピアノ(音楽)」と「料理」が主軸になっています。
どちらも、それ一本で成立する軸です。
それを贅沢に、どちらも作品で使い切っています。
詰め込み過ぎて尺が足りない。
限られた時間の中で、うまく成立させたなあと感心しますが、どちらか一方に集中させ、深堀りしてほしかったのも事実です。
そうしちゃうと、原作と関係なくなってしまいますが・・・。


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血のつながらない母・梨花。
実質の主人公であるこの人物を石原さとみさんが演じています。


他人の子供をあそこまで愛せる姿に、凄いと感じました。
どうしてそこまで愛せるかが、この物語の重要な部分となります。


お金が無く、娘と二人狭いアパートで暮らすシーンが好き。
お金に関係なく、笑顔を作ることの出来る小さな幸せエピソードが、いっぱい詰め込まれていたからです。


見た目は派手で破天荒、恋愛に関して小悪魔的。
子供の前では常に、声のトーンをひとつあげて明るく話す。
子供を不安にさせないようにする姿が良いのですよ。
他人からすれば、あの性格と行動は引くかもしれないけれど、私はひきつけられるものがあります。


なんでだろうと思っていたのですが、それは自分の母親の若い頃と重なるからだと思いました。
私の母親は、他の同世代より圧倒的に若いです。
そして、いつも明るい声で元気に活動していました。
おかげで私は、母子家庭だということに引け目を感じずに生きることができました。


私は、劇中の梨花のそんな気丈にふるまう姿にぐっときてしまうのです。


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どの世代、どの立場の人でも、それぞれに感情移入できる作品となっています。
コロナ禍で、人と距離を置かなければいけない時代ですが、心は寄り添いたいと思えるこの作品を是非観ていただければと思います。

Posted by kanzaki at 09:25
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