2022年01月16日

映画『ポプラン』の感想〜キワモノ映画と見せかけて、NHKの名作アニメ『ニルスのふしぎな旅』に通ずるジュブナイルストーリー

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「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督の新作を鑑賞しました。


●公式サイト:映画『ポプラン』
https://popran.jp/


(映画『ポプラン』本予告)

【内容】

2018年に「カメラを止めるな!」で映画界に旋風を巻き起こした上田慎一郎監督のオリジナル作品。
主演は「メランコリック」の皆川暢二。


東京の上空を高速で横切る黒い影。
ワイドショーでは「東京上空に未確認生物?」との特集が放送されている――。


主人公・田上は漫画配信で成功を収めた経営者。
ある朝、田上は仰天する。
イチモツが失くなっていたのだ。
田上は「ポプランの会」なる集会に行き着く。
そこではイチモツを失った人々が集い、取り戻すための説明を受けていた。


「時速200キロで飛びまわる」
「6日以内に捕まえねば元に戻らない」
「居場所は自分自身が知っている」。


田上は、疎遠だった友人や家族の元を訪ね始める。
家出したイチモツを探す旅が今はじまる――。


※※※


【感想】


多分、キワモノ映画かと思われるかもしれません。
実は、私もそう思っていました。


ところが、超王道。
ある意味、現代のジュブナイルストーリーかもしれません。
悪い人も出てこない。
この、観終わった後の爽やかさはなんでしょう!


理由は、主人公が日常から飛び出して冒険を経て、様々な経験から精神的に大人になり、そして再び日常へ戻るからです。
正に超王道。


これは、NHKの名作アニメ『ニルスのふしぎな旅』に通ずるものがあります。


(『ニルスのふしぎな旅』の解説)




主人公は、「性悪の経営者」という設定です。
過去にいろんな人を裏切り、縁を切り離して今の地位についたのです。


一緒に経営していた友人。
妻と嫁。
そして、父と母。


こういう縁のあった人達と離れたことで、今の地位を築きました。
この映画では、そうやって縁を切った人達のところへ会いに行くお話しでもあります。
自分のルーツ探し・贖罪の行脚というのでしょうか。


実際に映画を観ると、主人公を性悪とか、クズ人間とかに思えないんですよね。
身なりもきちんとしているし、相手に対しての言葉遣いややりとり等を見ると、むしろまともです。
ちゃんと、社会人をしています。


過去、縁を切ったのも、それなりにお互いの中でいろんな事があった結果なのでしょう。
私達だって、そういう事は仕事や人生にありますよ。
ちょっとした、ボタンの掛け違い。
仕事をしている社会人なら、それは分かると思う。


劇中、再会した人達の態度が、ある意味リアルです。
会話や反応が自然なんです。


漫画みたいな極端な感情をぶつけることはありません。
(友人は最初、そういうところがあったけれど、少しの時間で感情が落ち着く)


特に、別れた妻は主人公に対し、極端な憎悪は無いし、ちゃんと向き合って話しもします。
けれど、「もう二度と来ないで」と静かに言うのはリアルですね。
今の夫や子供達との生活に入り込んでほしくないですもの。


実の母親は、いくつになってもやっぱり母親。
10年ぶりの再会でも、主人公を幼い頃のように接します。


父親の態度は、同性故のリアルな反応ですね。
最初は無反応で距離をとる。
しかし、ある出来事を通し、父親(小学生ぐらいの息子から見た父親)としての振る舞いをします。




この作品の監督・脚本を担当した上田慎一郎さんは、きっと、きちんと人生を歩んできた人なんだと思います。
周りにいた方々が、ちゃんとした人だったのでは。
劇中に出てくる人達が、実際に世の中にいるよなあという感じなんです。
色んな人との出会いや経験をちゃんと積んできたんじゃないかなあ。
それが、脚本の中ににじみ出ています。


この作品は、トンデモ設定ですが、それを実写としてリアルに再現するために、登場人物はリアルに描いているのかも。




ちょっと面白いなあと思ったのが、再会する人の順番と服装です。


仕事の友人→妻と娘→父と母と順番に再会していきます。
生れてからの人生を逆行する旅です。
徐々に、自分にとって最も身近な人と会うことになります。


そして主人公は再会の際、その身近な人と接していた頃の年齢に相応しい服装に変わっていきます。


仕事の友人と再会した時は、スーツ姿。
妻・娘と再会した時は、ラフなカジュアル服。
そして、父と母と再会して過ごす日々は、まるで小学生のようなシャツと半ズボン(+虫取り網)。


後半は主人公の服装に加え、神社やセミの声など、小学生の頃の夏休みを彷彿とさせます。


主人公は、再会した人との思い出・記憶に相応しい時代の服装になっているのですよね。
きっと、監督は意図的にそうしているのだと思います。


そうやって過去の自分と向き合う事で、日常に戻ったあとの心に変化が出ます。
王道。
素晴らしい。


わずか96分の中に、人の人生を凝縮した良作です。
是非、ご覧ください。




エンドロールを観ると、アニメーション製作会社「プロダクションI.G」が関わっていることに驚きました。
「攻殻機動隊」とかで有名なこの会社がなぜ?
特撮部分とかそういう部分に関わっているのか・・・ちょっと謎です。気になる。


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Posted by kanzaki at 20:43
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