2022年02月13日

映画『ちょっと思い出しただけ』の感想〜昔撮った写真を偶然見つけて、その当時を思い起こすような素敵な時間

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●映画『ちょっと思い出しただけ』オフィシャルサイト
https://choiomo.com/

監督・脚本:松居大悟
出演:池松壮亮、伊藤沙莉
主題歌:クリープハイプ「ナイトオンザプラネット」
配給:東京テアトル


怪我で夢を諦めた元ダンサーの男とタクシードライバーの女の6年間に及ぶ恋愛模様を、7月26日の1日を通して描く物語。



『ちょっと思い出しただけ』Trailer Long Ver.【2022年2月11日(金・祝)公開】


映画館の上映スクリーンに入ったら、20代後半の女性・・・それも一人で来ている子が多かったなあ。
友達と一緒に観に行くより、過去の自分の思い出とリンクさせながら鑑賞したかったのかなあ。
そんな事を思いました。


主人公とヒロインをはじめ、登場する役者同士の会話が、物凄く自然なんですよね。
「これって、素の状態を隠し撮りしているの?」ってぐらい自然。
アドリブも多そうなんですが、どこまでが脚本上の台詞で、どこからが偶然発した台詞なのか分かりません。
それぐらい、劇中の会話が自然です。


恋人同士の会話、知り合いとの会話、仕事上の会話。
同じ人物でも相手によって話し方は変わってきますが、そういう場面による話し方の変化にも感心しました。


主人公が怪我をしてダンスが出来なくなるという大きな出来事はあります。
しかし、それを抜かせば、そこまで大きな出来事は巻き起こりません。
下手したら、観ている年配の観客の方が、いろいろ経験しているかも。


115分の中で、誰にでもありそうな出来事と日常を描いています。
平凡なはずなのに、何故かオシャレに感じます。
若い頃を振り返った際、「あの頃はすべてが輝いていたなあ」と感じるのと同じなのかな。




監督が公式サイトで「きっと花束みたいとか色々言われるんだろうな」と書いてます。
確かに、骨格は映画「花束みたいな恋をした」と同じです。
別れた2人の過去の思い出を振り返る内容です。


「花束〜」は、消費型コンテンツ(音楽・小説・マンガ・アニメ・舞台・ゲーム・エンタメ)をディープに楽しんでいる若い男女が、それをきっかけに恋をして同棲をします。


「ちょっと〜」は、池松壮亮さんが演じる男性の主人公はダンサーですから、コンテンツを提供する側です。
ダンサーを辞めたあとも、舞台の照明役として提供する側であり続けます。
主人公のまわりにいる人たちも、サブカルやアーティストで、やはり提供する側です。


伊藤沙莉さん演じるヒロインだけが提供側じゃない。
さりとて、コンテンツをただ消費して暮らすわけでもなく、タクシードライバーとしてしっかり働いています。


2人の立ち位置が違いますね。
これが、2人ともコンテンツ提供側の恋愛だとリアル感が薄れてしまいます。
本当に、ちょうどいい塩梅なんです。


それにしても、普通なら男性主人公がタクシードライバーで、ヒロインがダンサーという設定にしますよね。
それを逆にしたのが、とても良かったです。


男性がダンサーだと、どこか中性的だったり、演技としての表現は表に出すけれど、感情は心に留めていそうなイメージ。
劇中の主人公は、線の細い池松壮亮さんの見た目も相まって、まさにそんなイメージ。


一方のヒロインは、夜も走るタクシードライバーのおかげで、男性的でタバコを吸うのも自然、思っていることはすぐ口に出すイメージ。
伊藤沙莉さんの特徴的な声も相まって、まさにそんなイメージ。


この2人の役者の選出と、脚本上の役柄のおかげで、この作品は制作に大成功しています。




いろんな年の7月26日に起こる1日を映し出していきます。
1日の始まるシーンは必ず部屋の時計を映し出し、男性主人公の部屋を同じカメラアングルで映し出していきます。
朝起きてからの行動も、大体似たような感じ。
けれど、年によって少しずつ変化があるわけでして、その変化を自然に描いていきます。


平凡な展開なはずなのに、何故か観ている人を魅了する作品でした。
これは観ている人が自分を投影できるおかげで、中だるみもせずにラストの場面へ向かえるからだと思います。
奇天烈な作品が多い中、自己投影できる作品を生み出したのは素晴らしいですよ。


観ている映像が、アナログなフィルムやチェキで撮った写真のように感じます。
そんな写真を年月が経ってから偶然見つけて、その当時を思い起こすような映画。
とても素敵です。




【松居大悟監督作品】

●映画『くれなずめ』の感想〜
「思い出に幕をおろす」迄の今までとこれからの間の「暮れなずむ」時間を描いた作品。スクールカーストの下にいた私には、とっても共感できる男性キャラばかりで好き
http://kanzaki.sub.jp/archives/004843.html


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●映画「花束みたいな恋をした」の感想〜
趣味や仕事を「絵」のようにとらえる男性、「音楽」のようにとらえる女性。別れまでを丁寧に描く、都会を舞台にした私小説みたいな作品
http://kanzaki.sub.jp/archives/004858.html

Posted by kanzaki at 17:15
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