2022年03月21日

映画『余命10年』の感想〜絶望していた青年がヒロインと出会い、人生を再生するお話し

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●映画『余命10年』オフィシャルサイト
https://wwws.warnerbros.co.jp/yomei10-movie/index.html

監督:藤井道人
主演:小松菜奈×坂口健太郎
音楽:RADWIMPS

数万人に一人という不治の病を患う、20歳の高林茉莉(小松菜奈)。
余命が10年であることを知った彼女は生きることに執着することがないように、絶対に恋をしないと固く心に誓う。
地元で開かれた同窓会に参加した茉莉は、そこで真部和人(坂口健太郎)と出会う。
恋だけはしまいと決めていたはずの彼女だったが、次第に和人にひかれ、その運命も大きく動き出す。





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【坂口健太郎さんが演じた青年が実質の主人公】


邦画の定番と言えば、女子高生がタイムリープするか、ヒロインが不治の病に苦しむお話しですよね。
現在上映中のものですと、前者が「君が落とした青空」、後者が本作「余命10年」です。
定番故に、いかに過去作との違いを表現できるか、そこが腕の見せ所です。


「余命10年」の実質の主役は、坂口健太郎さんが演じた青年・真部和人です。
言ってみれば、彼の人生再生のお話しなんです。


人生に絶望して自殺未遂までした青年が、ヒロインと出会ったことをきかっけに、前を向いて歩み出すからです。


「(独りで)死にたい」→「(彼女に)会いたい」→「(彼女と一緒に)生きたい」


ヒロイン・高林茉莉(小松菜奈さん)と出会ったことをきっかけに、そう思えるようになっていくのです。
上映約2時間の中で、弱々しくて精神的にも疲弊しきった状態から、力強く生きられるようになり、自信に満ちた姿へと変わっていきます。
髪型や表情・動きで、それを上手に演じていました。


登場人物の心が最初と比べ、最後に大きく変化してこそドラマ。
そういう意味でも、彼は実質の主人公でした。
もっと、男性視点で描いても良かったのにと思いました。


坂口健太郎さんは今まで、「頭が良いけれど人間関係が苦手な医者」という演技イメージがありました。
今回のような、善良だけれど意志が弱くて流されやすく頼りない、社会人としてうまく立ち回れない青年役もハマりますね。
ウジウジしている青年キャラって、最近は意外といませんから。


昔、「めぞん一刻」というマンガがありました。
主人公は音無響子というヒロインですが、お話し自体は彼女に惚れた年下の青年・五代裕作の成長のお話しです。
坂口健太郎さんなら、うまく演じてくれそうです。


※※※


【悲劇のヒロインの描き方はあっさり目】


不治の病であるヒロイン・高林茉莉を小松菜奈さんが演じています。


過去作の不治の病に冒されたヒロインに比べると、表情はおとなしいです。
自分の病で家族や友人に心配をかけたくないと思う心優しいヒロインです。


自分の生い立ちを元にした小説を書くパートも含め、ヒロインの描き方はあっさりで、今どきだなあと思いました。
無理やり、悲劇のヒロインらしい演出や事件はありませんから。


死ぬことに対して恐怖もがき苦しむというほどではありません。
もちろん、劇中でも幾度となく独りで葛藤しているのですが、最後は迷惑をなるべくかけずに独りで死にたいと考えています。


坂口健太郎さんが演じた青年・真部和人の変化は、
「(独りで)死にたい」→「(彼女に)会いたい」→「(彼女と一緒に)生きたい」
でした。


小松菜奈さんが演じた女性・高林茉莉の心の変化は、
「(独りで)死にたい」→「(彼に)会いたい」→「(けれど迷惑がかかるから彼と一緒に)生きられない」
でした。
そういう意味では、劇中の最初と最後に心境の変化はあまりありません。


主人公なのに、本人の葛藤があまり無いです。
そこが意外ではあるのですが、海外の作品のように極端に怒鳴りわめき散らすような事はしません。
重病ヒロインものは定番ですが、壮絶にせず、ストーリーも大袈裟にしないから観やすいです。
本当に今どき。
クセもアクも無く、悪い人が出てきませんから、幅広い世代に鑑賞してもらえると思います。


死ぬのが怖いという感情演技は少なめですが、旅行から帰った後、お母さんに寄り添うシーンが印象的でした。
あのシーンの小松菜奈さんの感情を止められない演技と、それをやさしく受け止める原日出子さんの演技が良かったなあ。


居酒屋のシーンで、小松菜奈さんは泣きながらヤケ食いをします。
料理やお酒がテーブルにたくさん並び、一人でガツガツ・グビグビいきます。
そういや「糸」という作品でも、泣きながらカツ丼を食べるシーンがありましたね。
美人がヤケ食いする姿って、あまり観ることは無いですよね。
2回も小松さんが演じてくれたので、とても印象に残りました。


ヒロインが小説を書くのが、このお話しの盛り上げ部分だと思います。
その割には、あまりその部分は使われていません。
ヒロインは文章を書くのが得意ということらしいのですが、もう少しそれを日々の生活や恋人との触れ合いに活かしてもらいたかったなあ。
このヒロインは、自分の感情を自分の中に押し込めてしまうので、せめてその分、文章で感情を魅せてもよかったんじゃないかなあと。


※※※


とても観やすい。
俳優陣も豪華。
映像や音楽も素敵。
ヒットする要素がたくさん詰まっており、実際にヒットしています。
きっと、来年の日本アカデミー賞の優秀主演女優賞にノミネートするでしょう。


現実の闘病生活というのは、本当はもっと辛く、とても映像には出来ない難しいものでしょう。
不治の病は、誰もがなるものではありませんから、観る側は実感がなかなかわきにくい。
けれど、限られた時間の中で懸命に生きるということは理解できます。
劇中で描かれた「20代」という10年間は、誰にとっても10年という限られた時間。
それは、誰にも伸ばすことは出来ません。


限られた時間の大切さをどう理解するか、そしてどう使うか。
そういう事を考えるきっかけになる映画ではないでしょうか。
特に、10代、20代の方々に観てもらいたいですね。

Posted by kanzaki at 12:06
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