2022年04月17日

映画『とんび』の感想〜一人の子供を街のみんなで育てていた時代を丁寧に描いています

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●映画『とんび』公式サイト - KADOKAWA
https://movies.kadokawa.co.jp/tonbi/

主演:阿部寛
出演:北村匠海 杏 安田顕 大島優子
麿赤兒 麻生久美子 / 薬師丸ひろ子 ほか
原作:重松 清「とんび」(角川文庫刊)
監督:瀬々敬久
脚本:港 岳彦
音楽:村松崇継
主題歌:ゆず「風信子」

【あらすじ】

直木賞作家・重松清のベストセラー小説を、阿部寛と北村匠海の共演で実写映画化。
「糸」「護られなかった者たちへ」の瀬々敬久監督がメガホンをとり、幾度途切れても必ずつながる親子の絆を描き出す。
昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。
運送業者のヤスは愛妻の妊娠に嬉しさを隠しきれず、姉貴分のたえ子や幼なじみの照雲に茶化される日々を過ごしていた。
幼い頃に両親と離別したヤスにとって、自分の家庭を築くことはこの上ない幸せだった。
やがて息子のアキラが誕生し、周囲は「とんびが鷹を生んだ」と騒ぎ立てる。
ところがそんな矢先、妻が事故で他界してしまい、父子2人の生活が始まる。
親の愛を知らぬまま父になったヤスは仲間たちに支えられながら、不器用にも息子を愛し育て続ける。
そしてある日、誰も語ろうとしない母の死の真相を知りたがるアキラに、ヤスは大きな嘘をつく。



映画『とんび』 ゆずによる主題歌「風信子」が紡ぐロング予告


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こういうのを「邦画」と云うんだよなあ・・・。


観賞し終えたあと、全力で私を泣かしにくるこの作品に対し拍手をしたくなりました。
(周りのお客様の迷惑になるので、両親指同士で小さく叩いてました)


昔、「日本よ、これが映画だ!」というキャッチコピーの映画がありましたが、それを云うなら本作品は正に「世界よ、これが邦画だ!」


「男はつらいよ」がリアルタイムで上映されていた時代の街並みを完全再現していて驚きました。
(寅さんはBSでよく放映しているから、当時の情景を今でも目に出来ます)


細部に渡るまで、昭和や平成初期の世界を作り上げています。
去年上映された「キネマの神様」も昔の日本を見事に再現していましたが、あちらは主に映画の撮影所でして、本作は年配者なら誰もが知る風景となっています。


●映画『キネマの神様』の感想〜昭和の時代、映画界に活気があった頃の雰囲気が存分に味わえます
http://kanzaki.sub.jp/archives/004913.html



街並み以上に、街の中に暮らす人々の息づかいが画面から感じられたのが素晴らしいです。
劇中に登場する人達はすべて、特殊な能力や人生ではありません。
ごく普通に生きている人達。
マウントの取り合いも無く、仮に偉そうにするなら、ちゃんと下の者の面倒を見てくれていましたよね。


そんな時代を他の映画なら主役級の人たちが総登場し、「ごく普通の庶民」を抑えた演技で披露しています。


主人公は阿部寛さんですが、どの登場人物にも時間を割いており、「一人の子供を街のみんなで育てる」というのが存分に感じられました。


決して物質的には豊かでは無かったけれど、地域のみんなで子供を育てていた時代を思い出しました。
良い意味で、街のみんなが「おせっかい」でしたよね。


下のシーンは、過去のTVドラマでも有名なシーン。
背中に手をあてる行為は、ちゃんと劇中後半でもうまい具合に使われていました。



父・阿部寛、息子の悲しみを呑み込む海になる。感涙必至の名シーン


本作は、息子が子供時代に経験した幾つものエピソードが、大人になってから別の形で再現されており、「家族の絆の連鎖」をうまく表現しています。


今は物質的に豊かで清潔な環境です。
その代わり「ワンオペ育児」となってしまい、以前なら近所の人がおせっかいをしてくれた事は行政・市政等によるサービスに頼るしかありません。


そんな現代の育児問題を最近観ました。

●映画「マイライフ、ママライフ」の感想〜「今の日本における子供を育てる大変さ」をうまく表現した作品
http://kanzaki.sub.jp/archives/005093.html



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実は、息子が大学進学と同時に上京し、そして結婚する話し迄、父と息子には交流がありません。
結婚話になってから再び話しが動きだすのですが、ちょっと後半は駆け足気味だったように思います。
(一つ一つの場面はしっかり描いているのですが、多分、もっとエピソードが必要だったように思う)


妻を亡くし、幼い息子を周囲の人に支えられながら育てる部分が、この物語の一番のポイントだと思うのです。
いっそうの事、139分をその部分にフルで使い、下記のシーンで終わっても良いのかも。
(妻の死亡原因の真実を息子が知る理由は、上京前に使えばいい)



父・ヤス(阿部寛)と息子・アキラ(北村匠海)の涙の別れのシーン


上記のシーンも好きです。
反抗期があった息子が、いくつかのエピソードで少しずつ昔の優しい感じに戻っていきます。


現代だと、優しい子はあまり反抗期も迎えないまま成人します。
都会へ上京することも無く、地元の大学へ進学し、地元の企業へ就職します。
結婚するまで実家で暮らすのも当たり前。
昔からの仲間と大人になっても、ずっと交流が続きます。


だから、もし現代版で作ろうと思っても、本作のようにはならないと思います。
だからこそ、この昔の雰囲気を伝えてくれる本作は貴重です。


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阿部寛さんは、都会の刑事のイメージがあります。
本作のような、昔の地方にいた不器用な人間も見事に演じてくれますねえ。
どの役でも、心の根っこに優しさが感じられるのがいい。


親の愛情を知らないで育った主人公が、周囲の人々に助けられ息子を育てます。
そして、昭和から令和迄、親子三世代の人生を描いています(ある意味、四世代ですが)。
岡山県が舞台で、三世代のお話しというと、この前終了したNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』を思い出しますね。


私は上記で、父親が息子を育てる場面だけで良いと書きました。
それと相反するのではありますが、三世代の長く続く家族の絆のお話しは、壮大に感じて良いものですね。


ラストシーンの美しい映像と主題歌で幕をおろすのですが、ずっとこの作品を観ていたいと思わせますよ。


TVで2度も映像化された作品ですので、制作側も苦心したと思うのですが、素敵な作品を作ってくれて本当にありがとうございます。


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【瀬々敬久監督作品】


●映画「糸」の感想〜平成という約30年を描いたお話しだったので、TBS金曜22時ドラマ枠の長丁場で観たいなあと思いました
http://kanzaki.sub.jp/archives/004648.html


●映画『護られなかった者たちへ』の感想〜殺人事件のミステリーではなく、生活保護を扱った社会派作品
http://kanzaki.sub.jp/archives/004958.html

Posted by kanzaki at 20:07
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