2022年05月15日

映画『シン・ウルトラマン』の感想〜オリジナルを尊重しつつ、令和の一般人が楽しめる娯楽作品になっています

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●映画『シン・ウルトラマン』公式サイト
https://shin-ultraman.jp/


監督:樋口真嗣
企画・脚本:庵野秀明
出演:齊藤工/長澤まさみ/西島秀俊

【あらすじ】

「禍威獣(カイジュウ)」と呼ばれる謎の巨大生物が次々と現れ、その存在が日常になった日本。
通常兵器が通じない禍威獣に対応するため、政府はスペシャリストを集めて「禍威獣特設対策室専従班」=通称「禍特対(カトクタイ)」を設立。
ある時、大気圏外から銀色の巨人が突如出現する。


※※※


【感想】


2021年の邦画興行収入1位は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」。
劇場で鑑賞した際の混み具合からいって、おそらく今年1位になるのが本作「シン・ウルトラマン」だと思います。


特撮好きも、庵野作品好きも、出演俳優のファンも、みんな楽しめる作品です。
朝一番の上映を鑑賞したのですが、一般的な邦画好きな感じの人もいたし、小学生のお子さんを連れた家族、マニアじゃない若い人、多方面に支持されているのが分かりました。


鑑賞後、ユーチューブにて考察動画を観ました。
当時の初代ウルトラマンを知っている人ならばニヤリとする元ネタのオンパレードなのですね。
ストーリーしかり、当時の製作エピソードやら、更には「宇宙人ゾーフィー(ゼットンを使う悪者・当時の児童雑誌に掲載された誤情報)」ネタまでぶち込んでいます。
さすが、庵野秀明さんです。


前半は怪獣を倒すのに費やし、中盤は宇宙人を倒すのに費やし、最後は初代ウルトラマン最終回のエピソードを大きくアレンジした内容となっています。


膨大なカット数、テンポの良い進み具合。
圧倒的な情報量を詰め込みながらも、きちんと一つの劇場作品としてまとめ上げているのが凄いですね。


昔からの特撮ファンの中には、初代ウルトラマンとの間違い探しに没頭し、違う部分に対し批判的になる人もいるでしょう。
それと、本作品はリアリティーを追及しつつも、レトロな「空想特撮」としてのユルさをわざと残しています。
そのユルさが気に入らない人もいるようですが。


元の作品は30分の児童向け番組。
映画にした場合、それを単純に4本つなぎ合わせただけでは成立しないのは、映画ファンならご理解いただけると思います。
「どこまで、初代ウルトラマンのエッセンスを取り込むのか(昭和の雰囲気も含めて)」
「112分のひとつの作品としてのまとまり具合」
「一部のマニア受けで終わらない、令和の人が楽しめる娯楽作品」
そういう部分を試行錯誤しながら作り上げたんじゃないかなあ。


「シン・ゴジラ」、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」あたりから、難しい単語やらマニアックな設定はやりつつも、一般人はそれが分からなくても楽しめるようになっていますよね。



昔の「ウルトラマン」「ウルトラセブン」は、現実社会で起こっている諸問題、大人の人間ドラマとしての部分を描いたジャーナリズム精神がありました。
それを子供が観る娯楽作品に落とし込んでいました。
そういう精神だからこそ、今だに色あせないのですよね。
シン・ウルトラマンで描いていることは、既に1960年代に描き切っていたのですから驚きです。


本作の「禍特対」のメンバーは、初代ウルトラマンの科特隊と違い、自ら戦闘機に乗って戦ったりとかはしません。
現場で状況を分析し、作戦を立案するような役割です。
だからスーツ姿なのですね。


限られた時間だからかもしれませんが、禍特対のメンバーの描き方は、あくまでも仕事をしている時の顔・態度・感情であり、プライベートや私情はそんなに出しません。
仕事中なのですから、確かに今回のような表現になりますよね。


シン・ゴジラと違って、あまり一般市民のパニックは描いていないので、人間は政治家や自衛隊、禍特対ばかり。
あくまで悩みや葛藤なども、仕事の上での感情。


私情を前面に出しているのは、むしろ宇宙人であるウルトラマンの方です。
私情で動いてはいますが、そこは宇宙人。
普通の人間とは違います。
演じた斎藤工さんは、ミステリアスで普通の人間とは異なる部分をうまく演じてましたよ。
抑揚や人間らしい感情は抑えているのですが、ウルトラマンの自己犠牲の精神をきちんと感じられます。


長澤まさみさんは劇中、エヴァンゲリオンに登場した葛城ミサトさんみたいだあと思いました。
宇宙人と地球人が、恋愛要素抜きで信頼感を交わす部分で大切な役割です。
(できれば、その部分を描写として深掘りしてほしかったなあ)
現場で動き回れるキャラですし、主人公の相棒なのですが、劇中の活躍が思ったほど少ないなあと思いました。
葛城ミサトさんは本作品で言えば、禍特対の班長を演じた西島秀俊さんのポジションですからね。
そのポジションが埋まっているから当然、活躍は減ってしまいます。
禍特対のメンバーの数を一人減らせば、もう少し活躍できたかも。
ちょっと、ネタ要因的な感じになってました。
しかしアップの映像が多く、改めて美人だなあとも思いました。


西島秀俊さんは、頼れる現場の班長感にあふれていました。
温厚で切れ者。
部下のサポートバッチリ。
こういう上司、憧れますねえ。
「ウルトラマンメビウス」で田中実さんが隊長役として演じていたキャラに近いかなあ。
本作を観るまで、「もしかしたら西島さん、ゾフィーに変身するのでは・・・」とちょっと期待していました。
しかし今度、「仮面ライダーBLACK SUN」で主人公として仮面ライダーに変身して闘いますよ。
そちらも見ものです。



シン・ウルトラマンは2019年に撮影されました(コロナ禍で上映が今年になった)。
ちょうど、iPhoneで4K動画が撮影できるようになった頃です。
現場には何十台ものiPhoneが導入され、俳優がiPhoneで撮影しながら演じるという試みをしています。
その膨大なカットをiPadで記録し、クラウドにアップして共有。
劇中、普通の撮影では使われないようなアングルが多用されており、CG・特撮以外の「実写映画」としての挑戦も楽しめました。
しかし、4K動画が撮影できるとはいえ、さすがに画質は本物の撮影機材と違って劣ってはいました。



この作品世界では、宇宙人は地球人を巨人化させ、生体兵器として戦わせられる技術を持っています。
もし、シン・ウルトラマンに続編があった場合、その部分に焦点を合わせてくるかもしれません。
もしくは、「シン・マクロス」への布石だったりして・・・。

Posted by kanzaki at 20:53
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