2022年05月28日

映画『ハケンアニメ!』の感想〜アニメを観ない少年と新人アニメ監督の交流シーンが好き

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●映画『ハケンアニメ!』公式サイト
https://haken-anime.jp/

監督/吉野耕平
出演/吉岡里帆.中村倫也.柄本佑.尾野真千子

直木賞作家・辻村深月がアニメ業界で奮闘する人々の姿を描いた小説「ハケンアニメ!」を映画化。
伝説の天才アニメ監督・王子千晴が、9年ぶりに挑む『運命戦線リデルライト』。
プロデューサーの有科香屋子が渾身の願いを込めて口説いた作品だ。
同じクールには、期待の新人監督・斎藤瞳と次々にヒットを飛ばすプロデューサー・行城理が組む『サウンドバック 奏の石』もオンエアされる。
ハケン(覇権)をとるのは、はたしてどっち?
上映時間128分。

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アニメの制作現場を2人の監督を中心に描いた、(一応)お仕事ムービーです。


現実世界で管理職だったり、プロジェクトのリーダーをやっている人は、ものすごく共感を得られると思います。
プライベート無しで常に仕事のことを考え、同時並行で大勢を指揮し、しょっちゅう頭を下げる・・・。
アニメ抜きで、そういう視点からでも楽しめます。


128分もありますが、3つのアニメ制作現場のストーリー、2つのアニメのストーリー、計5つが同時進行するので、意外にも長くは感じませんでした。
この作品の製作は、普通の映画の何倍もかかるので、まとめる担当の人は相当胃が痛かったと思います。


各ストーリーにリソースが按分されてしまうので、それぞれを深堀りは難しかったのかなあと思います。
ラスト30分ぐらいでようやく、吉岡里帆さん演じる新人アニメ監督の現場が、全員一丸となって作品を作り上げる展開になり、とても熱かったです。
TBSの日曜21時のドラマみたいな感じ(下町ロケット的な)。
やはり夢を作る制作現場は、ベタでもこれぐらい熱い方が良いです。


それまでは、内向的な新人監督と覇気のない製作スタッフ達の間に溝があり、心が通えていないフラストレーションがありました。
監督が雨の中で転倒し、今まで絵コンテを描くのに使っていたiPadが壊れてしまいます。
手書きのアナログ手法で仕事を始めた頃から話しが転がりだし、熱気がブーストされてきました。


ラスト30分迄は、この主人公にも現場スタッフにも、魅力がありませんでした。
お笑い要素も少ないです。
夢を作る現場は、実際は大変なことは分かっているのですが、どうにも覇気がありません。


本編を鑑賞するまでは、てっきりコメディ映画だと思っていました。
覇気のない製作現場に、やけにテンションが高くて明るい異色の新人監督があらわれ、それにみんなが感化されて現場が盛り上がる・・・そういうベタでも明るく元気な内容を期待していました。
実際は暗めの展開なので(少しだけコメディを散りばめている)、観ているこちら側もフラストレーションがたまってきます。


そして、展開のテンポも悪いのです(特にタイトルが出るまで)。
なんか登場人物たちがみんな暗いし、どのキャラも微妙に薄いし好感が持てない。


お仕事ムービーとして観た場合でも、アニメの製作現場を「これは内側の人だからこそ知っているネタ」みたいなものはありませんでした。
思ったよりアニメ製作のマニアックな部分を作品中で紹介していません。
劇中、アニメの制作現場だからといって、そこまで分かりやすい変人キャラもいません。
どちらかというとみんな、IT系の会社員みたい。


ドラマやアニメでも人気になった「ハコヅメ」という警察マンガみたいなものを期待していたのですけれどねえ・・・。
あの作品は、警察内部のブラックな労働環境を笑いのネタにしていて良かったですよね。
作者が警察勤めだったからこそ分かるネタが面白い。


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主人公と対抗する、中村倫也さん演じるイケメン監督は、言ってみればエヴァンゲリオン等でお馴染みの庵野秀明監督ですよね。
綺麗な庵野☆秀明。
ちょっと屈折しているけれど、天才的なセンスとカリスマ性で多くの人を魅了します。
どうしても、こういうテンプレ像になってしまいますよね。


中村倫也さん演じる監督が製作するアニメ作品。
最終回の展開は、庵野監督の「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」と同じものを感じさせます。
今まではカミソリのような作風で、「アニメの主人公を最終回で殺そう」と考えるような人だったのに、時間と共に考えが穏やかになって、作風にも影響するところなんて正にそう。


劇中、吉岡里帆さん、中村倫也さんの共演する部分て、実はほとんど無いのですよね。
同じアニメ監督じゃなければ分からないメンタルな部分もあるでしょう。
敵同士ではありますが、新人監督が有名監督から助けてもらい、それが作品に影響を及ぼせたらよかったのですけれどね。


共演シーンが少なく、中村倫也さん側にも時間をものすごく割いているおかげで、主人公である吉岡里帆さん側の製作現場シーンや主人公の人物像の深掘りが出来ていません。


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吉岡里帆さん演じる主人公が住むアパートには、小学生の男の子がいます。
この映画で、主人公と男の子が共演するシーンが一番好きです。


アニメには興味のない男の子。
この男の子は、主人公がアニメ監督だとは知りません。
それでも仲が良い。
2人の共演シーンは、殆ど主人公の住むアパートの部屋だけ。


この男の子は、主人公の幼い頃のように、ちょっと暗い部分があります。
友達との関係も良くないみたい。


けれど、主人公が作った作品が、この男の子に良い影響を及ぼします。
それを知った際の吉岡里帆さんの表情、演技が本当に良かったなあ。
苦労して作品を作ったかいがあった事をじんわりと感じさせます。
吉岡里帆さんは他のシーンを観ても、演技がうまいんですよね。
もともと、舞台で鍛えられていたからでしょうか。
もっと評価されても良いと思うのです。


原作があるから仕方ないのかもしれませんが、主人公とこの男の子の触れ合いを主軸に展開した方が、実写映画としての深みが出たように思います。
年の離れた異性の親友・・・いいじゃありませんか。


その上で、相手の監督パートは全てカットし(主人公とあまり接点無いし・・・)、主人公側の製作現場の人物達を深掘りすれば良かったのではないでしょうか。
中村倫也さんは、現場のカリスマ作画監督ということにして。
やはり、現場を中心にしたストーリーは、みんなが同じ場所で動いていた方が盛り上がります。

Posted by kanzaki at 10:24
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