2022年09月18日

映画『川っぺりムコリッタ』の感想〜「死んだ者」×「残された者」を映し出した作者の死生観

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●映画『川っぺりムコリッタ』
https://kawa-movie.jp/


監督・原作・脚本:荻上直子
出演:松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆


【あらすじ】

「かもめ食堂」「彼らが本気で編むときは、」の荻上直子監督が2019年に発表したオリジナル長編小説を、自身の脚本・監督で映画化。
松山ケンイチ主演、ムロツヨシの共演で、孤独な青年がアパートの住人との交流を通して社会との接点を見つけていく姿を描く。


タイトルの「ムコリッタ(牟呼栗多)」は仏教の時間の単位のひとつ(1/30日=48分)を表す仏教用語で、ささやかな幸せなどを意味する。


北陸の小さな町にある小さな塩辛工場で働き口を見つけた山田は、社長から紹介された古い安アパート「ハイツムコリッタ」で暮らし始める。
できるだけ人と関わることなく、ひっそりと生きたいと思っていた山田の静かな日常が、隣の部屋に住む島田が「風呂を貸してほしい」と山田を訪ねてきたことから一変する。



映画『川っぺりムコリッタ』予告編



映画『川っぺりムコリッタ』本編映像 "すき焼き”


※※※


【感想】


「かもめ食堂」が好きなので、この作品を楽しみにしていました。


予告などでは「日常を生きる」×「普段の食事」をメインにすえた内容に思いました。


もちろんそれもあるのですが、根幹は「死んだ者」×「残された者」を映し出した作者の死生観みたいなものでした。
(しかし、タイトルほど仏教的で複雑な概念の作品ではありません)
登場人物たちは、身内を亡くしたか、死に関係する職業の人(坊主・墓石販売業者・いのちの電話)、幽霊(!)などです。


それとは別に、前科者の主人公は「自分は、ささやかな幸せを感じちゃいけない」という考えから、少しずつ自分を肯定していくお話しでもあります。


序盤の主人公は、生きているのか死んでいるのか分からないような感じです。
それが、炊き立ての白いご飯や、畑の採れたての野菜を食べる日々を積み重ねていくうちに、徐々に口数も増えていきます。
生きるという事は食べることなんだなあ。


「死んだ者と自分との関係」、「自分の人生を肯定」というのは、昔から続くテーマだと思うのですが、この閉塞感漂う令和の現在の方が、むしろ昭和・平成より向いているかもしれません。
少子高齢化、低収入、孤独・孤立の時代ですからね。


劇中の登場人物たち同士のつながりは、そこまで強くありません。
同じ長屋の住人というだけ。
一緒にご飯を食べることもあるし、ちょっとした挨拶をしたりはするけれど、がっつりな仲ではない。
けれど、ちょうどいい。
実際、こういう人間関係が一番じゃないかなあ。



観客は年齢層が高かったです。
「かもめ食堂」を観るような素敵女子系はいませんでした。


劇中の映像も、「かもめ食堂」のようなオシャレ要素は無く、ちょっとグロいのや、エロいのもあります。
けれどそういう要素も女性目線なので、精神的にやられるものではありません(そういうバランス感覚は、女性の方がうまい)。


洋画には無い雰囲気です。
邦画ならでは。
死生観を描くけれど、決して観ている人の心を苦しめるわけではない。
押しつけは無い。
クリスマスや初詣など、宗教がごった煮になっている日本ならではという感じです。
それと、日本の日常生活の中では、「死」というものを話題に出さないし、むしろ隠す空気もうまく劇中で感じられました。


中堅の主役級俳優が勢ぞろいしているので、観ていて安定感もあります。
昭和・平成の名優がこの世からごっそり去り、ちょっと前まで若手俳優の枠だった人たちが、いつの間にやら邦画界の中堅年齢になっていて驚きました。
見た目が若いから、そのギャップのせいかもしれません。



大抵の映画は、最後のエンドロールは黒い背景に白い文字であらわすことが多いです。
そこに、本編にあっているのかあってないのかよく分からない主題歌が流れるのが定番。


ところがこの作品は、最後までエンドロールにあわせて映像が流れます。
ちょっと異世界、ちょっと外国的な感じ。
どうやってこのお話しをまとめるのかなと思ってましたが、この作品らしいとても良い終わり方でした。

Posted by kanzaki at 18:04
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