2022年11月09日

映画『線は、僕を描く』〜4人の登場人物をよく描けた令和らしい作品

senha01.jpg

●映画『線は、僕を描く』公式サイト
https://senboku-movie.jp/


監督:小泉徳宏
原作:砥上裕將
出演:横浜流星、清原果耶、江口洋介、三浦友和


【あらすじ】

水墨画の世界を題材にした砥上裕將の青春小説「線は、僕を描く」を、横浜流星の主演、「ちはやふる」の小泉徳宏監督のメガホンで映画化。


大学生の青山霜介はアルバイト先の絵画展設営現場で水墨画と運命的な出会いを果たす。
白と黒のみで表現された水墨画は霜介の前に色鮮やかに広がり、家族を不慮の事故で失ったことで深い喪失感を抱えていた彼の世界は一変する。
巨匠・篠田湖山に声を掛けられて水墨画を学ぶことになった霜介は、初めての世界に戸惑いながらも魅了されていく。



映画『線は、僕を描く』予告【10月21日(金)公開】


※※※


【感想】


senha02.jpg

今年、「AIが凄い絵を描く」というサービスが話題になりました。



わずか1分で画家が描いたような絵が完成… 画像生成AI「ミッドジャーニー」とは|TBS NEWS DIG


「AIが人間の仕事を奪う」と随分前から言われてきましたが、芸術分野とAIの組み合わせは意外でした。


じゃあ、人間が描くことは不要なのか?


絵は「売るため」のものだけではありません。
自分の心の中を表現し、浄化する役割があるのではないでしょうか。
日本画をやっていたので、そういう風に今でも考えています。
(日本画は画材の性質上、リアルな絵を描くには向かない。
その代わり、心情を描くのには適している)


そんな事を考えさせてくれたのが本作です。


-----


墨画の世界を舞台に、主人公(横浜流星さん)の「心の再生」を描いた物語です。
災害で家族を失った大学生が、どうやって前へ歩み出していくかに焦点をあてています。


主人公と同格で扱われているのが、水墨画の巨匠の孫(清原果耶さん)。
朝ドラ「おかえりモネ」と同様、傷ついた人に寄りそう立場です。
本作はこのヒロイン視点で観ると、本当に「おかえりモネ」のアナザーバージョンです。


「おかえりモネ」「きのう何食べた?」が好きな人なら、間違いなく好みな映だと思いますよ。


スポーツや戦いではないので、全体的にテンションは低め。
悪人や変人、濃いキャラはいない。
けれど、観衆の前でとても大きな紙に墨絵を描くパフォーマンス部分等、映画としての見せ場は用意してあります。
クライマックスへ向けてのペース配分とかはTVドラマ的で、実に上手です。
(ペース配分がめちゃくちゃな邦画が多い中で、実に職人的)


派手さより、「相手の気持ちに寄り添う」「自分の心ときちんと対話する」という事を最初から最後まで、丁寧に描き続けていました。
昭和終盤から平成初期のようなギラついた時代には無い、とても澄み切った令和らしい内容です。
この作品は、今の時代を生きる我々だからこそ受け入れられるのだと思います。


横浜流星さん、清原果耶さんは、若いけれどこの「和」の雰囲気にぴったりですねえ。
この2人以外考えられないぐらいのハマリ役です。
落ち着いていて、どこか達観した部分があるからなんでしょうかね。


そして、この2人を支える大人として、巨匠(三浦友和さん)・内弟子(江口洋介さん)が本当に良かったです。


巨匠は、「美味しんぼ」の海原雄山みたいな感じではなく、むしろ飄々とそよ風が流れています。
怒りという側面は無く、技を教えるというでもない。
この巨匠さえも、今なお前へ進んでいこうと努力しています。
主人公の心を癒すその優しい人柄は、令和ならではだと思いました。


江口洋介さんは、近年でもっともハマり役。
多分、ドラマ「ひとつ屋根の下」の主人公を思い浮かべた人も多いのではないでしょうか。
この人物もまた、怒りという側面はありません。
主人公を絵の面だけではなく、畜産農家から直接仕入れる食材を通した指導は、とても良かったなあ。
「能ある鷹は爪を隠す」的な見せ場もあり楽しめました。
ある意味、主人公より主人公らしい。


これら4人の登場人物は、それぞれが主人公として成立するぐらい、よく描かれていました。
この先、彼らがどのように歩んでいくのか、続編が観たくなる作品でしたよ。

Posted by kanzaki at 06:45
Old Topics