2022年02月23日

映画『ドライブ・マイ・カー』の感想〜映画なのに、まるで自分で紙の本をめくって読んでいるような感覚

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●映画『ドライブ・マイ・カー』公式サイト
https://dmc.bitters.co.jp/

計り知れない喪失と仄かな希望を綴った村上春樹・珠玉の短編「ドライブ・マイ・カー」待望の映画化!
出演:西島秀俊、三浦透子、霧島れいか/岡田将生
監督・脚本:濱口竜介


カンヌ国際映画祭 全4冠!映画『ドライブ・マイ・カー』90秒予告


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【私が考える"海外で受賞した理由"】


昨年2021年8月に公開された作品。
海外の映画賞を受賞したことを機に、再び映画館で凱旋上映されることになりました。
この前の日曜・朝9時からの上映にも関わらず、大勢の観客でスクリーンは埋まりました。


映画なのに、まるで自分で紙の本をめくって読んでいるような感覚でした。
約3時間という長い上映時間ですが、「自分のペースで"読んで"ください」と云われているような感じ。
きっと、劇中の台詞が極力、抑揚や感情を抑えた言い回しだからかもしれません。


主人公の亡くなった妻がカセットテープに吹き込んだ芝居の台詞をはじめ、主人公が演出を手掛ける舞台の台詞の読み合わせなど、限りなく感情も抑揚も廃したしゃべり方をしています。


また、この作品の登場人物たちも、表面上の感情を大きく見せることはありません。
それぞれの登場人物の性格に、そこまで極端なキャラクター性は色づけていません。
現実の世界と同じです。
それぞれの生きてきた体験や考えは、台詞でとつとつと語らせています。


海外の人はこの作品を観る際、字幕で鑑賞することになります。
台詞が"文章的"で、尚且つなるべく"比喩を使わない"おかげで、海外の人が字幕で"読んだ"際に心に響く台詞となっています。


声に出して表現される台詞自体は淡々としているので、昔の小津安二郎監督「東京物語」みたいな感じです。
最近の映画にはない空気でしたね。
平成後期・令和の邦画が持つ文法とは異なっていました。


そこへ来て、登場する多くの人物が、中国や韓国などのアジアの人達です。
複数の言語と手話によって語られていくため、純粋な邦画を観ている感覚ではありません。
さりとて、洋画とも違います。
舞台は現代の日本ですから。


これは「村上春樹が書いた小説」というジャンルのように思います。
それぐらい独特なのです。


私は割かし、芸術家やアーティストと呼ばれる方々と接している方だと思います。
一般の会社員である私から見ると、その方々が生きている時間軸や考え方は、やはり芸術的な感じです。
意外とアナログで、昭和から受け継がれてきた芸術魂を継承されています。


今回の映画は、そういう芸術家・アーティストの思考がすべてに行き渡っている感じでした。
海外の映画賞で受賞している理由の多くは、映画賞を審査する人達(芸術家・アーティスト)の考え方や時間軸と共通するものが、この作品から感じられたからなんじゃないでしょうか。
海外の作品ですら、芸術家肌な作品はあまり見かけられない昨今なので、新鮮だったのではないでしょうかね。


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この映画には、謎やトリックなんてものはありません。


どの人物にも2面性があります。
他人に見せて良いことと、ずっと隠していること。


現実世界なら当然のことなのですが、普通の映画ならば、1面しか見せないことが多いです。
その方が分かりやすいですから。


ところがこの映画は、あえて2面性を出している。
そうすることで、登場人物たちの描き分けをしていません。


私はこの映画の趣旨を
「自分やまわりで起こることを解釈せず、そのまま受け入れて前へ進んでいく・・・それが生きている者の役割りなんだ」
と解釈しました。


だから、謎とか意味とかをあえて詰め込まなかったのかなと(予告のテロップは、その辺を隠したフェイクでしたね)。


登場人物たちが語るものは「謎」ではなく「事実」。


聞く方も、それを解釈せずにただ聞き入れるだけ。
否定はしない。
その上で、自分は自分でこのあとどう生きるかを考える。


作品内に余白をあえて設けておくことで、「自分のペースで"読んで"ください」と云う感覚をさらに強調しています。
音楽も少ないし、それどころか無音にしてしまうところもありますしね。


本当、独特な作品です。


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【その他】


劇中、登場人物たちは、なるべく自身の個性を消すように演じます。
そんな中、「サーブ・900」という赤い2ドア・ターボ・クーペ(サンルーフ付)は、強烈な個性を出していました。
日本で1978年から1993年まで販売されていた、いわばレトロカーです。


純粋な邦画とは異なる本作の世界観。
平成や令和ではなく、どことなく昭和な雰囲気を醸し出しています。
その世界観に、このクルマは見事にあっていました。

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クルマで広島から一路、北海道へ向かう途中、新潟県を通過します。
新潟に本社のある「コメリ」というホームセンターにて、主人公が防寒着等を購入します。
理由は、新潟から北海道行きのカーフェリーがあるからです。
私も昔、北海道をクルマで回る際、このフェリーに乗りました。


新潟県でのロケは、2020年12月、上越市の「コメリハード&グリーン上越国分店」の駐車場や、上越市頸城区北四ツ屋の農道、糸魚川市の親不知海岸沿いの国道8号などで撮影されたそうです。


親不知海岸沿いの国道8号(上記予告動画の47秒の部分)は、独特な形状なので映画映えします。
道路から見える断崖絶壁と砂浜、岩礁、洞窟などの海岸の形状。
新潟の人ならドライブで、一度は誰しもクルマで運転して通る場所です。


主人公はコメリで、寒い北海道での寒さ対策として防寒着を買います。
私がこの映画鑑賞した映画館は、新潟市の商業施設「デッキー401」の中になるユナイテッドシネマ新潟です。
この商業施設内にコメリがあるので、上映後に行ってみたのですが、残念ながら劇中の防寒着はありませんでした・・・。

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Posted by kanzaki at 2022年02月23日 12:07