2024年11月10日

映画『本心』の感想〜「自由死」というSF設定をもっと丁寧に描いてほしかった

honshin.jpg

●映画『本心』公式サイト

監督:石井裕也
原作:平野啓一郎
脚本:石井裕也
出演:池松壮亮、三吉彩花、妻夫木聡、田中裕子


【あらすじ】

工場で働く石川朔也は、同居する母・秋子から「大切な話をしたい」という電話を受けて帰宅を急ぐが、豪雨で氾濫する川べりに立つ母を助けようと川に飛び込んで昏睡状態に陥ってしまう。
1年後に目を覚ました彼は、母が“自由死”を選択して他界したことを知る。


ある日、仮想空間上に任意の“人間”をつくる技術「VF(バーチャル・フィギュア)」の存在を知った朔也は、母の本心を知るため、開発者の野崎に母を作ってほしいと依頼。
その一方で、母の親友だったという三好が台風被害で避難所生活を送っていると知り、母のVFも交えて一緒に暮らすことになるが……。


2024年製作/122分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2024年11月8日


※※※※※


【感想】


なんか、思ってたのと違う・・・。


私はてっきり、自殺した母の生前の生き様を息子がいろんな場所でいろんな人と振り返る話しかと思ってました。
その中でヒロインと出会うみたいな。


永野芽郁さん主演の「マイ・ブロークン・マリコ」では、死んだ友人の骨壺を抱いて旅をしました。
「本心」では、てっきり仮想空間上の母親と、いろんなところへ行くのかと思ってました。



ところが本作は、自殺・・・この映画では、国の制度として定められた「自由死」とか、肝心な母親とのエピソードが、途中放りっぱなしになっています。


途中は、主人公の話しや、劇中に登場するろくでも無い男共の話しに費やしている。
主人公・池松壮亮と、ヒロイン・三吉彩花の同居エピソードだけでも、かなり費やしています。


主人公以外の男たちは、不要なエピソードでは?
母親の話しが途中、置き去りにされているなあと。
しかも、生前の母親に関する新事実は、説明台詞で済ませており、これじゃあねえ・・・。


ただ、ラストシーンは良かったです。
作品終了後のその先の話しが、ちゃんと想像できて。


-----------


「PLAN 75」という映画があります。
今回の作品と似た設定です。



「75歳以上は自ら生死を選択できる制度」が、国会で可決された近未来の話しです。
働く場所も住む場所もなくなった主人公は、自らPLAN75を申し込みます。


「PLAN75」は、当事者の話し。
「本心」は、残された息子の話し。


「本心」の根幹は、「自由死」の部分だと思うのですよ。
この「自由死」というものを単語でしか扱っておらず、映像として表現していません。
映像化するのだったら、本来はそこを描くべきでは?


観終わっても、主人公の母親が「自由死」を選択する強い理由が分からない。
考察はできるものの、感情として納得がいかない。


原作からかなり改変されているようですが、「自由死」をもっとフォーカスして欲しかったなあ。
高齢化社会の問題提起として。


限られた時間ですから、原作すべてを映像化できない。
ならばせめて、予告を観た人が「なんか、思ってたのと違う・・・」というのだけはやめて欲しかったなあ。

Posted by kanzaki at 2024年11月10日 20:43