2004年03月03日

ゼブラーマン【4】

前回の続き


新市さんは、山奥で空を飛ぶ修行をしていました。
「信じれは、空を飛ぶことが出来る」
そう念じて何回も何回も、高い木の上や橋の上からジャンプするものの、失敗して落下してしまうのでした。
コスチュームは、もうボロボロです。
怪我もしていて、血だらけ。

飛ぶのに失敗して、川をうつ伏せに流れていくシーンがありまして、本来、ここは笑うべきところだったし、観客も笑っていたのですが、私は笑えなかったなあ・・・。
だって、一生懸命に努力している人に対して笑うことなんて出来ないもの。

そんな修行をしている時、防衛庁の及川さんが訪ねてきました。
自動販売機の横にあるベンチで、二人は並んで座っています。
どちらも元気がありません。
及川さんは、火の付いていないタバコを指にしています。
新市さんは、ゼブラーマンのコスチュームのまま、お茶の缶を握っています。
新市さんは空を飛ぶことが出来ないで悩んでいます。
一方の及川さんも悩んでいました。
何故なら、政府は八千代区に中性子爆弾を落とす事を決定したからです。
自分は、宇宙人を倒すことが出来ない。
そして、そんな無謀な結論を出した上司達に対して、何も反論することが出来ない。
防衛庁勤めという肩書きなのに、人を救うことが出来ず、もやもやと頭の中で渦が回るだけなのです。
及川さんは新市さんに、
「あんたヒーローなんだろ? だったら敵なんて、ちゃっちゃと、やっつけてよ」
そんな言葉を漏らします。
小さい頃、正義のヒーローというものを誰もが信じていた。
けれど大人になるにつれ、それはテレビの中の虚構なんだと気づき、やがて生活の中で忘れていく。
それじゃあ現実の人間・・・・・自分は正義を貫ける力があるのかと問うた場合、閉口してしまう。
やはり、正義のヒーローが必要なんだ。
現実にいるのならば、助けて欲しい・・・・・いやいや、そんな空想の人物に何を期待しているんだ、俺。
そんな、複雑な心の動きから、及川さんはそう云ったのだと思います。
新市さんは、お茶の缶を両手で握りしめて、顔をうな垂れるだけです。
そんな力、俺に本当にあるのか・・・・。

またある時、可奈さんも訪れました。
新市さんは、「俺、飛べると思いますか?」と聞きます。
可奈さんは、顔を横に振って無言で否定します。
「聞かなきゃ良かった・・・・」と落ち込む新市さん。
すると可奈さんは、新市さんに身体を近づけ、
「先生、あの子は信じているんです。ゼブラーマンが地球を守ってくれるって。
毎日そう云っています。あの子の為にも飛んでください!」。

それを聞いた新市さんは、「お母さん、話し矛盾しています」とポツリ。
すると可奈さんは、明るく「ハイ」と答えました。


みんな、ヒーローを求めているんだ。


中性子爆弾を投下する夜のこと。
政府は小学校を中心とした近辺を完全封鎖しました。
その中に、元気の無い及川さんの姿もありました。
もうすぐ、ここは消えて無くなってしまうんだ・・・・。
可奈さんが自宅へ帰ると、息子の浅野さんがいません。
彼は、可奈さんが隠していた、ゼブラーマンの最終回の台本を読んでしまっていたのです。
台本に書かれている最後の舞台・・・・自分の通っている小学校へ行っていたのでした。
封鎖される前だったので、学校へ簡単に行くことが出来たのです。
可奈さんは慌てて小学校へ向かいます。
しかし封鎖されていて、小学校へ行く途中で、政府の人間達によって阻まれていました。
それを見ていた及川さんは、何も出来ません。
「自分に力があれば・・・・・」
すると、どこからともなく、バイクのエンジン音が聞こえてきます。
そちらへ皆が振り返ります。
ゼブラーマンです。
ゼブラーマンがやってきたのです!
ボロボロに傷ついた身体に鞭を打ち、全速力でバイクを飛ばします。
及川さんの心にも、何かが灯りました。
そして他の人達に指示を出し、封鎖している道路を開放し、ゼブラーマンを通してあげたのでした。
一直線に突き進むゼブラーマン。
その後を及川さんは、可奈さんを自転車の後ろに乗せて追いかけるのでした。

暗雲立ち込める空の下。
新市さんは、体育館の扉を開けます。
すると、無数の小さなスライム状の宇宙人達がいました。
その後ろに、大きなスライムの塊がありました。
何とその中に、浅野さんが閉じ込められていました。
浅野さんを助けるため、宇宙人たちをなぎ払いながら突き進んでいきます。
しかし宇宙人たちは、自分達同士をくっつけあい、巨大なスライムの怪物に変身して、新市さんを攻撃します。
超強力なパンチが、新市さんの身体に打ち込まれ、マスクは吹っ飛び、その場に倒れこみます。
けれども必死に這いつくばって、遠くに飛んだマスクに手を伸ばそうとします。
今、自分がこの場でやられたら、地球は終わってしまうのだ。
以前は、ダメな情けない人間だった。
けれど今は違う。
守るべきものが出来たとき、人はヒーローになれるのだ!
遂にマスクに手をかけた時、マスクの額にある「Z」の文字が光り輝きました。
そして、白と黒の影が新市さんを包みこみます。
きりもみ状態で、ゼブラー柄の物体は宙を舞い、やがてそれは地面に降り立ちます。
そしてそこに現れたのは、さっそうとマントをひるがえした「進化したゼブラーマン」でした。
それは、新市さんがミシンを使って縫った、チャチな姿ではありません。
鋼のような力強い印象の姿。
それは、ただのコケオドシではありませんでした。
向かってくる宇宙人をその余りある力で粉砕していきました。
そして、浅野さんを救いだします。
宇宙人達は、更に自分達を合体させ、人の何倍もの大きさになって、ゼブラーマンを追っていきます。
新市さんは、屋上へ逃げました。
ここまで来れば、もう安心だ。
そう思ったのも束の間でした。
宇宙人は更に、更に巨大化して、何十メートルもの巨大な化け物に変身したのです。
学校の屋上にいても、まだ見上げるぐらい巨大な姿。
そんな敵を相手に、このままでは勝てっこありません。
駆けつけた及川さん、可奈さん達も驚いています。
どうしたらよいのか分からない新市さんに、浅野さんが「ゼブラーマン、飛んで!」と云います。
しかし、あれだけ訓練しても習得する事が出来なかったのです。
今の自分に飛べるはずがありません。
困惑していると、浅野さんは足が不自由で立つことが出来ないのに、手すりを使って必死になって立ち上がりました。
「今度はゼブラーマンの番だよ」
そう云う浅野さんを巨大化した宇宙人がつまみ上げ、そのまま投げ飛ばしました。
ものすごい速度で落下していく浅野さん。
新市さんは無我夢中で、学校の屋上から飛び降り、落下していく浅野さんに追いつこうとします。
浅野さんに手が届いた時は、もう地面スレスレのところです。
もう、駄目か・・・・・。
その時です。
マントが抑揚を付けて広がり、その身体は重力を逆らって宙を舞ったのです。
遂に、ゼブラーマンは空を飛ぶことが出来たのでした。
浅野さんをお母さんへ渡し、巨大宇宙人を見上げて叫びます。


「白黒つけるぜ!」


続く

Posted by kanzaki at 2004年03月03日 23:27
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