●ジョン・ベイリー『作家が過去を失うとき』)」(『先に亡くなる親といい関係を築くためのアドラー心理学』(岸見一郎 著)より)
『作家が過去を失うとき』(ジョン・ベイリー)という本があります。
哲学者であり、作家のアイリス・マードックの晩年を夫が語ったものです。
アイリスを七十六歳頃からアルツハイマーが襲います。
「アルツハイマーは、ひそかに忍びよる霧のように知らぬ間に周りのすべてを消し去るまで、ほとんど気づかれない病気だ。
その後、霧の外に世界が存在しているなど信じられなくなる」
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周辺症状は、ただ置き忘れただけなのに、自分の持ち物などが盗られたとか、隠されたというような妄想、配偶者が浮気をしていると思い込んだり、いないはずの人が同居していると思い込むというようなことや、徘徊、便いじり、攻撃的なことをいいます。
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このような周辺症状が起こるのは、「やりたいこと」と「やれること」のギャップが大きくなっているにもかかわらず、認知症を抱えていると、両者に折り合いをつけ、身の丈にあった生き方を選ぶことがむずかしく、その結果生じた、不安、困惑、いらだち、混乱のあげくたどり着いた結果であると説明されます(小澤勲『認知症とは何か』)。
「やりたいこと」と「やれること」のギャップを「劣等感」といいます。
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他方、「やりたいこと」と「やれること」のギャップをまったくなくせばいいと考えるのは間違いであるといっています。
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なぜなら、人は「やれること」だけをやって生きているのではないからです。
「今はできないことでも、いつかはやれるようになりたいという思いが生を豊かにし、生きる力を生む」(小澤、前掲書)。
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(認知症の親と、その介護をする子供が)互いにとって一番気持ちがよくて父が納得できるのは、父が外を歩くといった時に、余計なことをいわずに同意することです。
病気のことを考えれば、長く歩けないというような注意は余計どころではありませんが、実際に歩いてみれば息切れするというようなことは、歩く前に注意しなくても歩けばすぐにわかることです。
無理をしようとするならば止める必要はありますが、せっかく親が歩こうといっているのに意欲を削ぐことはないでしょう。
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【コメント】
「やりたいこと」と「やれること」のギャップにより、不安、困惑、いらだち、混乱するのは健常者であっても同じです。
もし、相手がそういう状態だった場合、私ができるのは「同意すること」なのでしょう。
いきなり反対を押し付けるのは、たとえ相手がどんな状態、どんな立場であろうと良くないことです。
その不安や苛立っているのが自分自身であった場合。
それも、自分で自分を同意してあげるのがよいのでしょうね。
自分で自分を認める。
「やりたいこと」と「やれること」のギャップを劣等感ではなく、「現状確認」として俯瞰できるようになるはず。
マイナスの感情に負けない心を作っていきましょう。
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