2004年08月28日

ソフトバンク 新電話サービス

この電話サービスは、ソフトバンクグループが傘下の日本テレコムを通じて行うものです。
加入者から電話局までの回線をNTTから借りたうえ、通話先を割りふる交換機や基幹の回線は自らの設備を利用することでコストを削減し、1か月あたりの基本料金を一般住宅向け、事業所向けともに、NTTよりも一律200円安く設定する方針です。
この電話サービスは、従来の電話回線を利用することから今の電話番号をそのまま使うことができ、音声などの品質も変わらないということです。
ソフトバンクグループでは、今年12月からサービスを始める予定で、通信大手のKDDIもこの方式での電話サービスの提供を検討しており、携帯電話やインターネットに続いて企業や家庭などで使う一般の固定電話でも料金の値下げ競争が一段と激しくなりそうです。

* * * * *

上記のサービスは、30日にも大々的に発表される予定です。
基本料金が今までよりも安くなり、通話料も安いという夢のようなお話しです。
個人家庭だけでなく、各社の総務担当者も検討をするでしょう。
ただ、こういったサービスは安いだけで導入してしまうのは危険です。
特に法人で利用する場合は。
今回は、ギャグなしで、こういう回線導入についてのメリット・デメリットを探っていきましょう。
日本テレコムのサービスは細かい情報が分からないので、このサービスと同じものである、平成電電の電話サービス「CHOKKA」を題材に解説していきたいと思います。
各社総務担当者には多少は参考になるかと思います。


1.「CHOKKA」とは

従来、NTT以外の通信会社が料金の値下げを試みようとする際、必ずネックとなるのが、「NTTの設備利用料」です。
どこの通信会社も通常、NTTの交換機を利用しなければならず、新たなサービスの価格を設定する際、NTTの設備利用料を付加しなければなりませんでした。
CHOKKAは、NTT交換機を中継せず、平成電電とユーザーを直接つなぎます。
IP電話と違い、NTT電話と同じ従来の電話回線を使った「普通の電話」です。
それ故に、通話品質の面で優れています。
普通の電話は、IP電話よりも高額になってしまうのですが、CHOKKAはNTT設備等を使用しないおかげで低価格を実現させたサービスです。

公式サイト http://www.chokka.jp


2.CHOKKAへの切り換えに際して

CHOKKAでは、低価格を全面に打ち出しているのですが、NTT回線からの切り換えに際しての弊害などについては、具体的に書かれていません。
その点について調査してみました。

(1)電話加入権について

NTT回線を使用しないと言うことは、電話加入権が不要となります。
平成電電も、それをアピールしています。
電話加入権は会社の資産として扱われていますが、総務省では段階的廃止も検討しています。
そのため、平成電電へ乗り換えることによって、会社の資産として無価値になる前に、転売等によってマイナスにならないように出来るのではと考えてしまいます。
しかし、それは不可能です。
NTT回線で使用していた電話番号は、そのまま引き継ぐことは出来ないからです。
取引先のお客様他、他社へ伝えている自分の会社の電話番号が変わってしまうと、業務に支障が出てしまいます。
もし、電話番号を引き継ぐには、番号ポータビリティ(同番移行)を申し込まなければいけません。
「電話会社を変えても電話番号は変えたくない、だから番号ポータビリティを申し込む」という人は多いと思います。
ただし、NTT で使っていた番号をそのまま保持するためには、今まで使ってきた電話の加入権を手放せないという点に注意が必要です。
今まで使ってきた電話番号は、ある特定の「加入権1回線分」と関連づけられていて、この加入権を売り払ったり他に転用したりすると、従来の電話番号は使えなくなります。
結局、資産として電話加入権は保持し続けないといけません。
将来、総務省が電話加入権を廃止した際、全国の会社(特に所有回線数の多い大企業)に打撃のある問題なので、必ず何かしらの救済措置(金銭的なもの、経理上の優遇など)があるはずです。
しかし、平成電電に切り換えて、番号ポータビリティを適用するという「極めて特殊な事例」の場合は、適用除外の恐れがあるので、電話加入権の行方が不確定なうちは、無理な切り換えはしない方が無難だと考えます。

(2)CHOKKA でかかる番号、かからない番号

会社がちがうとはいえ、CHOKKAは(アナログ回線なら)NTTの一般加入電話とほとんど同じ仕様のはずです。
しかし実際には、NTTの固定電話からなら通じるが、CHOKKAからでは通じない電話番号があります。

まずは、3ケタ特番についてです。
警察への110番は、北海道(北見)以外の地域では利用可能です。
しかし今のところ、消防・救急への119番は、一部の地域(札幌市・東京都内・横浜市・さいたま市・春日部市)を除き、全国での利用が出来ません。
一番緊急を要するものが使えない現状は、電話をライフラインと考えた際に不満が残ります。
その他「115(電報)」「117番(時報)」「104番(番号案内)」などは使えます。

次に、「上4ケタが新電電各社の識別番号」の無料通話番号です。
以下の番号に実際に電話をかけてみて、反応を見たデータがありました。
下記の表中、通信結果の部分が「×」のものは相手に繋がらないことを示し、○は繋がったことを示します。
やはり、他社固有のサービスは苦しいようです。


相手の番号・・・・・・・・・・相手先名称(通信結果)
0088-82・・・・・・・・・・・・日本テレコム総合窓口(×)
0088-22-8900・・・・・・日本テレコム FAX 案内(×)
0088-24-0088・・・・・・日本テレコム法人窓口(×)
0077-7111・・・・・・・・・KDDI 総合窓口<au>(×)
0077-7058・・・・・・・・・KDDI 音声案内(×)
0081-151・・・・・・・・・・東京電話コールセンター(×)
0180-993900・・・・・・JR東日本運行状況(×)
0570-047-999・・・・・OCN 全国共通AP(×)
0190-104-104・・・・・電話番号検索(×)
0120-719-019・・・・・東京電話コールセンター(○)
0120-981-408・・・・・日本テレコム法人窓口(○)
0120-380-622・・・・・フュージョン Com. FAX 案内(○)
0800-200-0039・・・・NTT 西日本マイライン窓口(×)

表の上半分は「上4ケタが新電電各社の識別番号」の無料通話番号ですが、結果は全滅でした。
この手の番号は主に電話会社自身が使っていますが、一般企業でも使っているところはあり、かからないと不便なことがありそうです。
「0120」「0800」で始まる無料通話に関してはほぼOKでした。
唯一つながらないのが NTT 西日本のマイライン窓口なのですが、CHOKKAがマイライン対象外であることから、この番号だけ特別につながらないようにしていることも考えられます。

(3)マイラインや、その他の電話サービスについて

マイラインとは、あらかじめ利用する電話会社を登録することにより、通話の際には電話会社の識別番号をダイヤルせずに、その電話会社を利用できるサービスです。
大きな会社になると、全ての回線を特定の通信会社一つでマイライン登録する事により、通信料を大口割引してもらケースが見受けられます。
CHOKKAサービスでは、マイライン・マイラインプラスのサービス内容は適用されません。
また、マイライン・マイランプラスの登録に関係なく、新たに「CHOKKA」の申込みが必要です。
ただし、ユーザーと、今まで登録していたマイライン事業者との契約は解除されないので、解約等はユーザー自身で対応しなくてはいけません。
中には、マイライン解約に伴い、違約金を請求されたケースもあるそうです。
もし仮にCHOKKAを申し込んだ後、何かしらの事情でCHOKKAを解約することもあるでしょう。
その際は、既にNTTの電話回線がありませんので、電話回線の開設から申し込むことになります。
電話の加入権を休止しているものを復活させ(1回線2,100円)、電話回線をNTTベースに利用できるように電話交換機等の設備機器の設定を直し、一部の機材を買い直した上で、日本テレコムやKDDI等のマイライン登録(1回線840円)をして、大口ユーザーとして通信業者と特別割引率の設定交渉をする必要があるかと思います。
ただし、切り換えをしている最中も、会社の日常業務は継続しており、電話が出来ない間の業務に与える損害額は予想を上回るものとなるでしょう。
NTTの電話回線固有の電話サービスというものがあります。
例えば、ボイスワープというサービスがあります。
これは自宅や事務所にかかってきた電話を、ユーザーが指定する電話番号へ転送できるサービスです。
CHOKKAにも転送機能サービスはありますが、単純な着信転送機能のみのサービスで、リモートコントロール・転送元案内などの機能はありません。
また、セコム等の電話回線を使用するホームセキュリティは利用できないそうです。
会社に引かれている電話回線は、普段、我々ユーザーの目に止まる部分以外にも、様々な利用がされています。
CHOKKAは低価格を売りにしていますが、独自仕様の回線を利用する以上、今までと全く同様の使い方が出来る訳ではありません。

(4)切り換え工事をした場合

会社によっては、ISDN回線を多く利用しているところもあるでしょう。
1本で2回線分利用できるので、そこにダイヤルイン等の子番号を設ければ、2本のアナログ回線を利用するのと同じ使い方が出来て、しかも利用料金は安いですから。
今のところ、CHOKKAのISDNサービスは全国全ての地域で対応している訳ではありません(地域別に順次対応中)。
また、NTT仕様とは異なりますので、現在使っているターミナルアダプタ(ISDNを利用する際に必要な機器)は使用できません。
平成電電の仕様に合った製品を購入することになります。
その際、会社に設置されている電話交換機に対応するかどうかは、個別で調査が必要となります。
ISDN回線に切り換え工事をして回線数を減らして維持費を節約する為、1回線に1つ、または複数の電話番号を追加して、それぞれの番号を使い分けるサービス「i ・ナンバー」や「ダイヤルイン」のサービスを適用します。
CHOKKAにも同様のサービスがあり、i ・ナンバーやダイヤルインで使用している既存電話番号を、CHOKKAへ切り換え可能です。
NTT加入電話からの切り換えで番号ポータビリティを行なった場合、電話交換機の設定等の作業が発生することがあるので、電話交換機の保守業者と平成電電に調査の必要があります(ISDN回線は、宅内工事が必ず必要)。
会社によっては電話交換機が古いところもあるでしょう。
そういう古い機器では、独自仕様の高いCHOKKAの導入が不可能なものもあると予測されます。
最近、よく耳にするIP電話ですが、これはADSL事業者が運用するサービスです。
CHOKKAでは他社ADSLが使用できないため、IP電話は使用できません。
ご自分の会社の本社・各支店が、CHOKKAのサービス提供エリアかどうかを調べましょう。
具体的な調査方法は、自分の会社の本社・各支店の代表電話番号が、サービス提供エリアに該当するかどうか、また、アナログ回線の他に、ISDN回線でも利用できるかどうか(CHOKKAではISDN回線をデジタル64と称しています)、更に、NTT加入電話からの切り換えで番号ポータビリティを行なえるかどうかを調べます。
上記はCHOKKAの公式サイトで調べることができます。
まだ地域によっては対応をしていなかったり、番号ポータビリティが適用できない場所もあるようです。
また、利用できる地域であったとしても、使用している電話設備・利用形態によっては、利用が出来ない場合もあります。
上記から、全国に多くの支店を持つ会社が、全店一斉に利用するというのは、難しいと考えられます。

(5)総評

平成電電の提供する今回のサービスは、NTTとの関係を決別して、独自のサービス展開によって、低価格を実現させています。
しかし、独自仕様であるが故に、今まで普通に使えていた機能、サービスが使えなかったり、一部制限があったりします。
大抵の会社は経費削減をする為、電話回線はNTT回線を使用し、長距離通話等は日本テレコムやKDDI等を利用していることでしょう。
他の新電電各社の方が割引率が高いからと移行したとしても、NTT回線のプラットフォーム上で展開しているサービスという点では変化が無い為、移行に際しての弊害や工事に係るトラブル等は少ないです。
マイラインのような書類上の手続だけで変更できるものについては、現地の工事が無いので、移行に際しての諸問題は軽減されます(CHOKKAは、マイラインの適用はされません。解約の必要があります)。
しかし、CHOKKAは各支店の電話交換機の工事が必要である為、移行に際しての工事は大規模なものとなります。
CHOKKAへ移行すると、他社とプラットフォームが違うサービスであるが故に、他社で良いサービスがあるからと乗り換えるのは、かなり難しいです。
NTTの電話回線を使っていないので、再構築した上でやり直しになるからです。
日本テレコムやKDDIは、似たようなサービス展開の会社同士だからこそ競合してもらい、価格の値下げ交渉が可能です(お客様のために、どの電話会社も、精一杯の経営努力をしていて、大変素晴らしいと思います)。
しかし、CHOKKAは独自仕様ということは、価格設定も独自路線ということなので、他社と競合させて価格の引き下げをさせるという事が出来にくくなります。
他社群が最新技術で低価格を打ち出したサービスを展開しても、そちらに移行も出来ず、かえって経費削減のチャンスを逃してしまいます。
小規模な企業ならば、幾らでもやり直しが出来ますが、店所数と回線数の多い会社の場合、特殊な形態の電話回線は利用をしない方が適切かと考えます。
電話回線は、各店所同士を結ぶだけでなく、社会との接点を築くライフラインでもあります。
価格面で新電電各社同士を競合できるのも、NTT回線という国の厚い保護のある安定したプラットフォームがあるからです。
それを利用せず、価格面だけを追及した場合、保証が無い故に、いつまで継続して利用できるのか不安な中で使い続けなくてはなりません。
以上から、現在とは全く異なるCHOKKAは、全国に多くの支店を持つ会社には向いていないと考えられます。

・・・そんな訳で、ソフトバンクの新電話サービスを導入検討する際は、上記の事を意識して検討されると良いかと思います。
注意する点は似たようなところでしょうから。
基本料金も今までより200円下がるだけですから、それ以上の何かメリットが無いと・・・。
KDDIも始めたら、NTTも何かしら値下げをするかもしれませんね。
基本料金の値下げが出来なければ、宅内配線利用料等の細かい部分を値下げするかもしれません。
案外、そういう細かい料金も、数が多くなると馬鹿に出来ない金額になりますから。
しばらく静観してみるのも良いでしょうね。

Posted by kanzaki at 2004年08月28日 14:39 | トラックバック (0)
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