関東のとある大学教授が、新聞に短めのコラムを書いていました。
バリトン歌手トーマス・バウアーの、シューベルト「冬の旅」を聴いたそうです。
世の中、技巧や声量がすばらしい歌手は沢山います。
そんな中、トーマス・バウアーは奇をてらわず、ごく普通に歌い、しかも平凡に堕さない歌い方だったそうです。
音楽に限らず、豊かな内容を保ちながら工夫や苦心の跡を見せず、文字通り自然に仕上げられたものが、普通は一番、質が高いと語っています。
しかし今日、企業や学校で強いられている成果主義の下では、自分はこんなに立派な仕事をしたのだと、声高に叫ばなければ通らなくなっています。
本当の仕事を普通にやりとげる謙虚な生き方とは対極の方向へ、日本の社会は進んでいるのではないかと疑問を投げかけて結んでいます。
短いコラムでしたが、現在の社会を的確に書いているなあと思いました。
私は以前、東京交響楽団の定期演奏会をよく聴きに行っていました。
有名な楽団ですが、東京のサントリーホール等で演奏したプログラムを同じメンバーで翌日、新潟市にあるホールで演奏してくれるのです。
こんな贅沢はないよなあと足蹴に通っていたのですが、その時、「生の演奏って、水のせせらぎみたいなものなんだなあ」と感じました。
私は自宅のAV機器でクラシックを再生する時、極端に重低音を効かせて聴いていました。
それこそ、心臓にボディブローのように響く音。
そんな音ばかり聴きなれていたものですから、生の演奏を聴いたとき、音がとても優しく体に吸収されていく不思議な感覚を覚えたものです。
謙虚で物静か、そして上品な振る舞い・・・確かにこのような生き方が出来ればいいですよねえ。
ギスギスして相手を蹴落として生き残る人生ゲームのような21世紀だからこそ、そんな人がいたら注目されます。
そういう人は、人生に大きなバックグラウンドがあり、色々な経験をしたからこそ振舞えるのでしょう。
そういう生き方をビジュアルとして思い描くと、日産のマーチと云う自動車のCMが頭の中をよぎりました。
でもあれは、自然な生き方と云うよりは、お洒落な生き方と云うべきでしょうか?
季節の移り変わりを自分の生活の中に、素敵な形で取り込んでいるようで憧れます。
「奇をてらわない自然な生き方」を実践するにはやはり、アンバランスはいけないでしょうね。
例えば、高級車を買ったばっかりに、維持費やローンに追われてカップラーメン生活なんて云うのはもっての他です。
逆に、100円ショップの商品ばかりでコーディネイトした玄関も、今ひとつ受け入れられません。
インテリアの中にプラスチックが多用されると、どうも安っぽくなる傾向があるからです。
・・・まあ、ビジュアル方面の「自然な生き方」はこの辺にしておきます。
仕事をしていると、物凄い勢いのある人に出会います。
確かに仕事で実績をあげている方です。
だから、そういう意味では年齢が上だろうが下だろうが尊敬します。
けれど、ここからが問題。
そういう人に限って、
「俺は近々、支店長になってやる。いずれは役員だ」
「俺が今、こんな役職に甘んじているのは、先輩達の役職が上がらないから詰まっているだけ。先日、上司に文句を云った。こんな状態が続くようじゃ、辞めるって。これだけの成果をあげているのは俺のおかげなんだから、対価が欲しい」
そんなニュアンスの言葉を発する人の確率が高いです。
そういう俺様系の話しをされた時点で、私の中では相手に対する評価が萎えてしまいます。
こういう人達を見ていますと、乱暴な車の運転を連想します。
次の信号まで、物凄い爆音とスピードで走行。
目の前の信号が赤になったから止まる。
するとしばらくして、法定速度を守ってゆっくり運転している車に追いつかれる。
結局、目的地までの到達時間は殆ど変わらないのに、一方は荒々しく、もう一方はスマートに走行。
あなたなら、どっちの運転が良いかお分かりですよね。
前者の助手席になんて座りたくない人の方が多いと思います。
当たり前の事を当たり前にするのが、本当は凄いことなんだと思います。
反面、芸能人等は、一つの事に異常なまでに秀でている人が多いです。
オールラウンドタイプか、性能特化タイプかの違い。
けれど世間一般的には、後者の方が目立つ傾向にあります。
もし私が、どちらかのタイプの上司のもとで働かなければいけない場合、即答で前者のタイプの上司(オールラウンドタイプ)を選びます。
一通りのことを会得しているからこそ、どんな事が起きても、部下に適切な指示が出来るからです。
奇をてらわず、ごく普通に生きることの素晴らしさ。
そろそろ皆、その良さに気づくべきなのではないでしょうか?
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