●前回の記事:宮崎駿監督 in プロフェッショナル【5】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001369.html
今回は、長男・宮崎吾郎との間にある「ミゾ」が、画面から垣間見られます。
見ている視聴者の方が緊張してしまいます。
では、どうぞ。
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ナレーション:
6月末(6月28日)。
宮崎は、都心の試写室へ向った。
宮崎監督、ごみごみした街の中を一人の女性と一緒に歩いている。
色彩設計の保田通世だ。
年配でメガネをしている。
試写室のロビー。
関係者が多くいる。
ナレーション:
長男が作った映画の完成試写会に参加する為である。
その様子に落ち着きが無い。
鈴木プロデューサー等とロビーのソファで話している。
勿論、タパコは必須だ。
折りたたんだ用紙を胸ポケットに出したり引っ込めたりしている。
長男・宮崎吾郎が、関係者等と立ち話をしている。
既にロビーは超満員だ。
ナレーション:
映画「ゲド戦記」を完成させた長男・宮崎吾郎が姿を見せた。
保田、宮崎監督のところに歩いてきて何かを話し、監督を連れて歩き出す。
ループ状の階段を上って試写室へ入る。
宮崎監督、試写室の座席に座る。
前から3列目の真ん中だ。
横に保田が座る。
その周りには、誰も座っていない。
長男・宮崎吾郎は、鈴木プロデューサーと後ろの方の座席に座っている。
ナレーション:
長年のスタッフである保田通世に促され、試写室に向った。
宮崎は、息子が監督を務めることを最後まで反対し続けてきた。
アニメーションの製作経験の無い人間が、いきなり監督をすべきでないと云うのが一つの理由だった。
試写室のスクリーンの横に一人の男が立ち、見に来た人達の方へ向って話す。
男:
えー、早速、これから初号を上映したいと思います。
えー、宮崎吾郎・第1回監督作品「ゲド戦記」、それではご覧ください。
宮崎監督、保田はじっと動かず、まだ何も映っていないスクリーンを見つめている。
やがて、場内は暗くなっていく・・・。
上映中、カメラは暗視カメラで、宮崎監督、保田の動きを撮影している。
スクリーンを見つめる目だけが動き、それ以外、表情一つ変えないで見ている。
ナレーション:
一時間後、宮崎が突然、席を立った。
テロップ:
監督という仕事
宮崎監督、トイレから戻ってくると、歩きながらタバコをくわえ始める。
宮崎駿監督:
気持ちで映画を作っちゃいけない。
タバコに火を付けて吸う。
大きく煙を吐くと、ロビーにあるソファに座る。
目の前にある、吸殻を入れる円柱の筒に灰を落とし、再びタバコを吸う。
ナレーション:
息子が作った映画には、宮崎の作品を思い起こさせるシーンが、随所に溢れていた。
腕時計に視線を移した後、語りはじめる。
宮崎駿監督:
3時間ぐらい座ったような気がする・・・(その後、沈黙の中、タバコを吸う)。
ナレーション:
宮崎は、息子が幼かった頃、映画作りに打ち込み、父親らしい事は殆どしてやれなかったと云う。
長男・吾郎は、宮崎の映画を父親代わりのようにして育った。
宮崎監督、タバコを灰皿に捨てると立ち上がる。
小さな声で「戻ってくるね」と、試写室へ足を進める。
上映が終わり、見ていた人達が拍手をする。
しかし、宮崎監督は何もしない。
手にした帽子をいじり、それを頭にかぶせて、隣の保田に見せる。
保田、笑顔で返す。
長男・吾郎は、両肘を両膝に当てて手を組み、立てた親指を自分の額に当てる。
前のめりになり沈黙。
隣のお偉いさんが声をかけてくる。
宮崎監督、帽子を被ってロビー端の階段へ進む。
すると先ほど、長男・吾郎に話しかけていたお偉いさんが、明るい表情で近づく。
宮崎監督、帽子を外す。
お偉いさん:
哲学的なものを作ったね、吾郎ちゃん(宮崎監督の肩を軽く叩く)。
宮崎監督、何もしゃべらずに階段をおりていく。
カメラは背中ごしに撮影しているので、その表情は分からない。
そんな態度の宮崎監督をお偉いさんは指をさして笑っている。
宮崎監督、人のいないソファに腰をおろし、タバコを吸い始める。
何も語らず、前を見つめ続けている。
カメラを持ったNHKのディレクターは、何も話しかけず、ただその表情をアップで撮影している。
宮崎駿監督:
ん? 何を聞きたい。
ディレクター:
いやー、あのう・・・見た感想って云うか・・・。
宮崎監督、視線をディレクターに向けずにタバコを吸っている。
しばらくして、ようやく口を開く。
宮崎駿監督:
僕は、自分の子供を見ていたよ(軽く笑いがこぼれる。ほんの一瞬だけ)。
ディレクター:
自分の子供・・・。
宮崎駿監督:
(大きく煙を吐き出し)大人になっていない・・・・・・それだけ。
宮崎監督の表情が、少々険しい。
夕暮れ、宮崎監督、保田と川岸の小道を並んで歩く。
ナレーション:
自らの人生を注ぎ込まなければ、監督と云う仕事は勤まらない。
反対を押し切り、息子はその仕事をやり切った。
後日、宮崎は保田を通じ、「吾郎に素直な作りで良かった」と伝えたと云う。
帰宅後、宮崎監督、キッチンでコーヒーをいれ始める。
口にはタバコ。
保田、カウンターの反対側に座ってその姿を見ている。
宮崎駿監督:
初めてにしてはよくやったって云うのは、演出にとって侮辱だからね。
保田:
うん・・・。
宮崎駿監督:
この1本で世の中を変えようと思ってやんなきゃいけないんだから。
変わりゃしないんだけど・・・。
保田:
変わんないんだけれどねえ・・・。
宮崎駿監督:
変わらないけれど、そう思ってやるのがね、映画を作るってことだから。
コーヒーサーバーの上に乗せたドリッパーに、ケトルのお湯を注ぐ。
保田、静かにタバコを吸う。
宮崎監督、コーヒーを注いだカップを保田の前に差し出す。
ナレーション:
長男の映画が完成した今、次は、自らが試される番だ。
スタジオに入っての本格的なアニメーション作りが3週間後に迫っていた。
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今回はここまで。
息子との間には、「ミゾ」があるようです。
しかも、かなり深い。
そんな二人の親子を保田さんが上手く取り繕っているのが印象的でした。
親子が同じ土俵で仕事をすると云うのは、お互い、やりずらいところがあるでしょうね。
仕事の内容を細かく知っているが故に、どうしても評価が厳しくなる。
ポニョのイメージボードを描いていた人物とは、とても同じように見えなかったです。
とても怖い印象でした。
けれど、この番組のタイトルである「プロフェッショナル」に相応しい人物だと確信できたのも事実です。
さて次回、宮崎監督は旅に出ます。
それはどこか?
何故、そこへ向うのか?
次回をお楽しみに。
●次回の記事:宮崎駿監督 in プロフェッショナル【7】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001374.html
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