2007年09月22日

映画「HERO」を見た感想【2】

映画版「HERO」の感想の続きです。

●前回の記事:
神崎のナナメ読み: 映画「HERO」を見た感想【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/001537.html

前回でも書きましたとおり、今回の映画は、主人公・久利生公平のキャラクターを描くと言う意味では成功しているように思います。
このキャラを派手な演出も無しに、全くブレる事なく描いたのはお見事です。

しかし、単体の映画作品として見た場合には、「?」と思うことが多々ありました。
やはり一番大きいのは、昨年のスペシャルを見ていないと、良く分からない部分があることです。

アジアやアメリカでの公開も決まっているそうですが、スペシャルやテレビドラマ版を見ていない海外の人には、よく分からないのではないでしょうか。
まあ、アジア地域の場合は、違法コピーやテレビ番組を録画したDVD-Rのレンタルが、期間を置かずに見られるので大丈夫かもしれませんが・・・。
ドラマやスペシャルを見ていなくても満足のいく単体の作品に仕上げて欲しかったです。

せっかく、「HERO」と言うかっこいいタイトルで、しかも木村拓哉さん主演なのですから、冒頭部分はかっこよく始まって欲しかったなあと思いました。
各地方を転勤し、再び城西支部に戻ってくるシーンで始まった方が分かりやすいと思います。
サブキャラの社交ダンス内で、主人公が戻ってきた事を説明されても面白くありません。
(追記:テレビスペシャルの最後で、城西支部に戻ってくるシーンがあるのですね。けれどやはり、映画の中で表現して欲しかった)

主人公が戻ってくるシーンから始まってくれれば、6年間も放って置かれたため冷たく接している雨宮舞子(松たか子さん)の行動理由も、すんなり受け入れられます。
そういや、雨宮が香水をつけている事を作品内で、随分と引っ張りましたよね。
私は、今回の事件解決のヒントになるのかと思っていたのですが、そういう複線も無しに途中でフェードアウト。
確かに、デパートの化粧品売り場にて、その香水がどれなのかを見つけた時のシーンは、場内から笑い声が聞こえていましたが、物語を描く上で全く役に立っていませんでした。

意味が無いのに気になった小道具と言えばもうひとつ、韓国のシーンで出てきた「USB」です。
犯人が雨宮の服だったかカバンの中に、こっそりとUSBメモリーを入れたシーンは、後になって重要な意味を持つのかと思えば、その後は全く語られずじまい。
意味ないですねえ。

そもそも、この韓国のシーンは全て必要ないんじゃないでしょうか。
うちの母親のように「韓流ブーム」にハマリ、イ・ビョンホンが出演するからと、わざわざ映画館へ見に行った人達は、がっかりした事でしょうね。
イ・ビョンホンは、出演時間が一分あったであろうか?

久利生達の捜査に協力する事務官のキムは、それなりにキャラが描かれていたものの、これも韓国のシーンが終了と共に、後は全く登場しません。
韓国の事務官のペン回しを通じて、次第に協力的になっていくところとか、そこはちょっといいなあと思ったけれど、ストーリー全体としてみれば、彼の活躍は全く無意味でした。

わざわざ韓国へ来て、犯行に使われた自動車を見つけたけれど、それも弁護士の「そんなものは証拠にならない」の一言で意味の無いものになってしまいました。
その後、この車に関してのシーンが全く出てこないんだものなあ。
この車には、犯行の際に付いた傷以外にも、実はもう一つ重要な証拠があったら良かったのにね。

例えば、久利生達が日本へ帰国した後も、久利生の粘り強い捜査に感銘を受けた事務官のキムが、引き続き車を徹底的に検証したとします。
そして、久利生の捜査が行き詰った当たりで、その重要なもう一つの証拠をキムが発見し、それを久利生へ伝える。
それが事件解決へつながれば、国を越えた友情を示せるし、韓国のシーンも意味があったと思います。

本当、韓国のシーンは意味が無さ過ぎる・・・。
この作品は、その場限りで終わってしまう要素がとても多く、ぶつ切れのシーンのつなぎ合わせのせいで、なんとなく生ぬるい印象を感じずにはいられません。
この韓国のシーンで何十分も使ってしまった訳ですが、このシーンを完全にカットして、その分、はじめてこの作品を見た人の為に、城西支部のメンバーの魅せ場に当ててくれた方が、作品としても引き締まったかもしれません。
これじゃあ完全に、ドラマ等を見てくれていた人達だけの為の、サービス映画でしかありません。
(追記:テレビスペシャルは映画版と違って、非常に脚本も演出も良く、どこも突っ込みの必要がない作品だっただけに、映画版ではちょっと残念)

割かし感心させられた法廷シーン。
ドラマ版では、あまり法廷シーンと言うものがなく、あってもそれほど長丁場では無かったので、活気のある法廷シーンは良かったです。
しかし、その法廷シーンにしても、傷害致死事件を起こした被疑者・梅林圭介(波岡一喜さん)がビルにいなかった事は立証できたけれど、彼が犯行に及んだ証拠については触れられず、いきなり判決の場面になりましたよね。
あれには、口があんぐりとしてしまいました。
その判決も後日のエピソードだと、登場人物達の服装を見れば分かるものの、時間経過が丁寧に説明されていないおかけで、時系列に関して混乱してしまいました。

新キャラである弁護士・蒲生一臣(松本幸四郎さん)ですが、主人公を追い詰めていく役割のはずなのに、その強さを表現できませんでしたね。
最後の方では、検察よりの姿勢になって、いい人キャラになっていますしね。
松たか子さんとの親子共演と言うのも、今回の映画の見どころだったと思うのですが、殆ど絡むシーンがありませんでした。
作品中の設定でも親子と言う形にして、話しが進むにつれ、親子関係が修復されていくような感じにすれば、キャラにも深みが出たし、法廷シーンにも活かせたと思うんですよ。
主人公はちゃんとキャラを描けたけれど、他のキャラが薄味すぎです。

キャラの描き具合に関しては、編集の都合でカットした部分に、幾らか描かれていたのでしょうかね。
ディレクターズカット版のDVDが登場した時、それが唯一の楽しみですが、おそらく裏切られる形になるでしょう。

今回は、この作品の良くない部分ばかり書いてしまいました。
けれどおそらく、この作品を見た人の殆どが思った事ばかりではないでしょうかね。

そして最後にもう一つ。
ドラマ版と城西支部のセットが変わっていましたよね?
ドラマ版では、メガネをかけた警護の人が座っている机の前を右に曲がって検事達の部屋へ通じていたのに、映画版では一直線になっていました。
なんで?

そんな訳でとりあえず、明日放送されるスペシャル版の再放送を見て、今回の映画でよく分からなかった所を補完したいと思います。


(追記)
スペシャルの再放送を見ました。
再放送なのに、視聴率が22%もあったのには驚き。
そして、作品の出来も非常に良かったですね。
テレビシリーズ後半と映画は、主人公の性格を既に周りが認知しているから、あまり、周りの登場人物に変化がないですよね。
その点、スペシャルは、メインの登場人物が全て、主人公に影響されて変化していくのが、見ていて清清しいです。
中井さんの演技が特に素晴らしい。
今度、再びスペシャルがあるとしたら、また地方へ転勤したお話しがいいなあ。
勿論、「あるよ」の人だけは毎回、出演してほしいですw

「HERO」と関係ありませんが、新潟では「踊る大捜査線」の再放送が始まります。
映画3作目の噂が聞こえ始めた昨今ですが、今回の再放送はひょっとしたら、その布石でしょうか?

Posted by kanzaki at 2007年09月22日 13:35