2011年03月31日

「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【2】〜数字やデータを見る際「何を基準にしているのか?」に気をつけよう

前回の続きです。

●前回の記事: 「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【1】〜新聞は文章力や表現力、想像力やコミュニケーション力も磨ける、格好のテキスト
http://kanzaki.sub.jp/archives/002319.html

(第二章・数字力を磨こう)

同じ調査元の発表なのに、正反対の解釈がされるのはよくある事です。
池上さんは、数字を鵜呑みにせず、新聞各紙を読み比べて、数字に隠された意味・意図を読み取る習慣をつけましょうと語っています。

また、数字やデータを見る際、「何を基準にしているのか?」に気をつけたいものだとも語っています。
順位、正答率、前回比など。
どれを見るか、もしくは総合的に見るかによってもイメージが違ってきます。

例えば、国際的な学力調査で、日本の順位が2位から6位に下がったことだけを見ると、「子供の学力が低下した」とイメージしやすいものです。
正答率などを過去の試験結果と照らし合わせると、実は、学力は横ばいだったことが分かりました。
なぜ順位が下がったかというと、前回の学力調査に参加していなかった国が、今回から加わったからでした。
それらの国が、日本より上位の国だったのです。
「学力が下がった」と書いた方が、読者・視聴者は注目しますが、冷静なデータ分析が必要だと、池上さんは語っています。

基本的に人間は、「昔は良かった」と思いがちです。
だから、いろんな調査結果が出た際、「昔に比べて今の子は、○○の能力が下がっている」と結論づけたがります。
そういった先入観を持つと、目の前にある数字の分析を見誤ります。
ニュースに出てくる学力、環境、犯罪などのデータなどは、先入観を捨てないといけません。

連日、殺人事件が報道されたりします。
昔より「殺人事件が激増している」というイメージを持ちます。
そして「昔は良かった」と嘆きます。
しかし、それは間違いです。
殺人などの重要犯罪と呼ばれるものは、むしろ減り続けているのです(池上さんの本では2004年から2007年まで調査)。
凶悪事件は減っても、凶悪事件の「報道」が増えているのです。
池上さんがNHKの警視庁担当記者だった頃、殺人事件は、めったに全国ニュースになりませんでした。
民放のニュース時間も少なく、殺人事件は小さい扱いだったそうです。
報道数が増えて、殺人事件が増えているような印象を持つのです。

明日から4月。
新年度を迎える会社も多いことでしょう。
ここ数カ月、次年度の予算の事で頭を抱え込んでいた担当者も多いことでしょう。
予算を考える際、この一年間のデータ、更に過去のデータ、予め分かっている予定、目標などを考慮して作成します。
予算の数字というのは提出する際、どうしてこの数字になったのかを説明出来ないといけません。
適当に過去の数字を平均しただけでは納得してくれません。
それに支出の場合、前年実績のマイナス○%を目標に算出しないと認めてくれません。
そうやって、支出を低く抑えた予算表というのは、ある意味、担当者と会社との間の「誓約書」みたいなものです。
そうすると、私なんかは非常に悩みます。
対前年実績比、対前年予算比などを睨みつけ、経理から借りてきた科目別に綴られた伝票をめくりまくり、あーだこーだと考えます。
その際、目の前にある数字が何を意味しているのかを考えます。
予算表には算出根拠も添付します。
役員が納得するものを作らなければいけません。
たとえ、その役員が専門的な知識を知らなくても、理解してもらえるようなものです。

そういうのって、新聞の世界も同じなんですよね。
経済を取り扱った記事というのは、専門的な話しが多いです。
一般紙は経済専門紙ではないのだから、誰が読んでも分かるように書いて欲しいと池上さんは語っています。
数字が意味するところは何か。
どう算出されているか。
説明は正しくても、一読で理解が難しい文章は、一般紙では宜しくない。

扱う数字で、印象が正反対になってしまうこともあるそうです。
例えば「就職内定率」。

新聞では、2007年を卒業した大学生の就職内定率は96.3%だと書かれていました。
殆どの大学生が就職できたように感じますよね。
しかし、当の学生たちが感じているように、「売り手市場は幻想」だったのです。
別の調査データを見ますと、大学生の就職率は67.6%でした。

96.3%と67.6%では、あまりにも違いすぎます。

96.3%は、厚生省と文科省の共同調査で、就職希望者に占める内定者の割合でした。
67.6%は、文部科学省の学校基本調査で、全卒業生に占める内定者の割合でした。
調査の母集団が異なっていたのです。

卒業を間近に控えても就職内定がないと、就職活動をやめてしまう学生が多いそうです。
この人達は「就職希望者」から外れます。
だから、「就職内定率」の数字は高くなります。

96.3%の内定率というのは、就職希望者に占める内定取得者の割合だと、各新聞とも省いて記事にしていました。
説明していないのです。
だから、大学生は殆どが就職できたと、誤ったイメージを読者が感じてしまったのです。

こういうのって、いわゆる「数字のトリック」っていう奴でしょうかね。
よく例えに出されるのは「失業率」。
日本だと大体5%前後と報道されていますよね。
失業率は、労働力人口に対する失業者数の割合です。

失業者とは「働く意思と能力があるのに仕事に就けない状態にある人」を言います。
(日本だと正確には、そういう人を「完全失業者」と言っています)
だから、仕事探しを諦めた人等は失業者には含まれないのです。
ここでも調査の母集団の違いで、失業率の数字が変わってきます。

失業者の定義をいろいろと狭く定義することで分母を小さくする。
そうすれば、発表される失業率は低くなるのです。

●完全失業者にカウントされない「仕事をしたいけど求職活動をしなかった」人の推移をグラフ化してみる:Garbagenews.com
http://www.garbagenews.net/archives/1296313.html

上記のサイトを参照して欲しいのですが、我々一般人が考える「失業者」のイメージで失業率を考えてみましょう。
失業者というものを「就業を希望しており、求職活動をしている人 336万人」「就業を希望しているものの、求職活動をしていない人 471万人」の合計だと定義します。
そうすると、合計807万人。
分母が一気に倍以上になるので、失業率は10%を超えちゃいます。
これは、我々庶民が肌で感じる失業率そのものです。

総務省統計局のホームページに下記のページがあります。

●統計局ホームページ/統計データ
http://www.stat.go.jp/data/index.htm

●統計局ホームページ/統計Today 一覧
http://www.stat.go.jp/info/today/index.htm

いろいろな調査の結果として出できた数字を解説しています。
総務省統計局の人が、平易に文章を書いていて、とても参考になりますよ。
我々は通常、新聞記者が書いた文章で統計というものを目にします。
直接、こういうものに目を通すのも良いのではないでしょうか。
数字の読み方の勉強になります。

池上さんは、一見わかりやすい数字、センセーショナルな記事として取り上げられた数字について、感情的にならず、「健全な懐疑心」を持って冷静に判断してくださいと語っています。

特に震災後、これは大切な事だと思います。

(続く)

●次回の記事:「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【3】〜裁判員制度発足で新聞記事の表現が変わった。「視線」か「目線」か業界用語の基礎知識
http://kanzaki.sub.jp/archives/002321.html

Posted by kanzaki at 2011年03月31日 21:48