2011年03月30日

「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【1】〜新聞は文章力や表現力、想像力やコミュニケーション力も磨ける、格好のテキスト

この前、池上彰さんについて書きました。

●何故、フリージャーナリスト・池上 彰(いけがみ あきら)さんの解説は分かりやすいのか?〜記者として学んだこと、ニュースキャスターとして学んだこと【1】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002314.html

●何故、フリージャーナリスト・池上 彰(いけがみ あきら)さんの解説は分かりやすいのか?〜メディア・リテラシーが欠如した時代【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002315.html

●何故、フリージャーナリスト・池上 彰(いけがみ あきら)さんの解説は分かりやすいのか?〜「分かりやすさ」の指標は、伝える相手に想像力を持って接すること【3】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002316.html

池上さんが書かれた著書が読みたくなりました。

●Amazon.co.jp: 池上彰の新聞活用術: 池上彰: 本
http://amazon.jp/dp/4478009767

この本を読んだ感想やレビューを書きたいと思います。
どこの本屋でも売っていますので、気になったら是非手にしてみてください。

(読みやすい本でした)

池上さんが、テレビでニュースの解説をしている姿をご覧になられた事はありますか?
昨年から今日まで、沢山の番組に出演されていたので、一度はあるかと思います。

「池上彰の新聞活用術」を読んでいると、まるで池上さんが語っているかのような錯覚を覚えます。
頭の中で池上さんの声が聞こえてくるのです。
それぐらい平易に、本人の言葉で書いてあります。
声に出して読んでみると、いかに丁寧に書かれているかが分かります。
約250ページではありますが、全く苦もなく読みきってしまうと思いますよ。

池上さんは朝日新聞に、「池上彰の新聞ななめ読み」という連載をしています。
2007年から2010年3月までの約3年間は、毎週月曜日の夕刊に掲載。
2010年4月からは月一回、最終金曜日朝刊に掲載。
この本は、その連載記事がベースとなっています。

ちなみにタイトルが似ている当サイト「神崎のナナメ読み」は2002年1月8日からスタートですから、神ナナの方が生まれは早いのですよ。

「新聞ななめ読み」の内容は、新聞書評です。
新聞好きな池上さんが批判的に新聞を読んで、各新聞紙に対してツッコミを入れるといったもの。
池上さんは温和なイメージですが、時折、取材相手に厳しい質問をしたりします。
たまに「ブラック池上」が顔を出してくるのが、これまた魅力なんですよね。

新聞の読み方について書かれた本というのは、「同じ記事を複数の新聞で読み比べてみよう」というのが根底にあります。
池上さんも同様です。

その姿勢の理由は、NHKで記者をやっていた時代にあると思います。
情報収集に関して「必ず複数の情報をチェックして、事の真偽を確かめろ」と指導を受けていたのです。
それも立場の違う人達からそれぞれ確認をするのです。
NHKは民放に比べ、事実関係の特定に慎重でして、裏の取れたものだけしか放送しないのですよ。

新聞を作っている編集者も人間です。
文章には、その書いた人・新聞社の考えや意図が出てくるそうです。
そういった人間臭い「新聞の作り方」についても、この本の中で解説しています。

池上さんの言葉を借りれば、この本を読むことで「新聞は文章力や表現力、想像力やコミュニケーション力も磨ける、格好のテキスト」だと分かるはずです。

私も神ナナを運営していく上で、非常に良い刺激になりました。
実際の本は、「池上解説」による文章ですから、とても分かりやすいですよ。
しかしあえて、本に書かれている事に「神崎解説」を加えて、書いてみたいと思います。

※※

(第一章・ニュース力を磨こう)

ニュースには新語が登場することが珍しくはありません。
今ならば福島原発に関連したニュースが連日報道されていますよね。
この数週間で皆さんは、原発に関連した用語を沢山学習したのではないでしょうか。

「ベクレル」とは、放射能の強さを表す単位のこと。
「シーベルト」とは、放射線が体に与える影響を計る単位のこと。
「放射性ヨウ素」とは、原子炉内でウランの核分裂反応により生成されるもので、体内に入ると甲状腺に蓄積されて癌などを引き起こす恐れがあります。

他にも沢山ありますよね。
けれども、連日のように報道されているせいで、言葉の解説がないがしろにされている感があります。
新聞は宅配が中心。
読者は毎日、同じ新聞を読んでくれている「はず」という前提です。
その為、言葉の解説が抜けてしまうのです。
駅やコンビニで、たまたま買った一見(いちげん)さんにも分かる記事づくりが必要だと、池上さんは訴えています。

新聞は、その時その時のニュースを的確に伝えるだけではなく、そのニュースが生まれるに至った経緯を明らかにするという面もあります。
新聞は毎日発行されているものなので、一つのキーワードで新聞記事を毎日追っていくと、企業、官僚、政治家等の思惑が見えてくるそうです。

池上さんは、各新聞の読み比べを勧めています。
情報を見極める力を養えるからです。
テレビのワイドショーの情報だけを鵜呑みにせず、新聞や本からも情報収集することで、様々な立場の人の意見や視点を知ることが出来ると言っています。

今ならば、福島原発というキーワードで追っていくと、色んな人達の考えが見えてくることでしょう。
政治家や企業の皆さんが、どのような発言や行動をしているか。
そこから、色々と垣間見えてくると思います。

今回の問題の場合、読者も日常生活に影響が起こっていますよね。
スーパーやドラッグストアから、特定の商品が買い占められており、買うことが出来なかったという経験があるかと思います。
「買い占め」は不安から起きるもの。
その不安に至らしめる情報源は、どこからどのように発信されたのかを理解することが必要だと思います。
他人からの又聞きですと、個人の感情が付け加えられ、大元の内容が歪曲されている可能性があります。
新聞や本等を時系列にて、記載されている記事を追っていくと、惑わされずに冷静に対処できるのではないでしょうか。
多くの情報を集めてから考えをまとめた方が、的確な対処が出来ますものね。

新聞等で使われている専門用語には、読み取ってほしい意味が隠されているそうです。
ニュースは実名が原則です。
しかし、例えば「政府筋」とか発言者を曖昧にして報じることがあります。
マスコミ業界の専門用語で「オフレコ」と言います。

事件の関係者や被害者など実名報道されると困る立場の人を守るときに、匿名扱いで報じます。
しかしオフレコの中には、政治家が記者へワザと話して報道させ、世間の反応を見ることに使われることがあります。
国民の意見が分かれそうな問題や政策について議論が巻き起こりそうな時に使います。

「政府高官」等と匿名扱いをすることは、実名報道はされたくないが、政府の言い分は伝えたいという事。
それを池上さんは、政治家や官僚の身勝手を守っているだけではないかと疑問に思うそうです。

新聞には「読者の声」を載せるコーナーがあり、寄せられた疑問やクレーム、要望などに記者が直接記者が答えることもあります。
新聞には、双方向コミュニケーションの側面があるのです。
はがき等で積極的に意見や考えを投書すると、より問題意識を持って紙面が読めるかもしれないと池上さんは考えます。

読者同士が議論するには、ネット上の掲示板やSNS、Twitterなどが便利です。
ネットがあるから新聞は不要と思う人も多いです。
しかし、ネットで語られるニュースのソースは、殆んどが新聞だったりします。
そう考えると、理路整然と書かれてある新聞の文章をないがしろには出来ないと神崎は思います。
情報の発信元であるプロと対峙してやりとりする方が、大きな変革に繋がるかも。

新聞には色々な紙面があります。
経済面、社会面、海外面、生活面、スポーツ面などです。
同じキーワードをあらゆる紙面でチェックすると、新たな側面を発見できます。
国際的なサッカーの大会があった場合、当然、スポーツ面で取り上げます。
その他にも、海外面で開催地の治安や習慣を解説します。
経済面では、日本チームが活躍することによる経済効果を解説します。

ただし、個々の解説記事は優れていても、別々の面に分かれていると、全体像が見えなくなる事があります。
池上さんは、総合編集の視点が必要だと考えています。
バラバラにやっていたのでは、メディアが批判の槍玉に挙げる役所の縦割り行政と変わらないからです。

暗いニュースが多いです。
そんな中、新聞は勇気をくれる記事も書きます。
テレビでは取り上げない、名もなき中小企業経営者のドキュメント等です。
大手企業からの下請けいじめに立ち向かう経営者。
名もなきヒーローで、縁の下の力持ちにスポットを当てる。
そんな所が「新聞は面白い」と池上さんは考えます。

地方紙は、更にそういう側面が強いと神崎は思います。
「街おこし」が色んな所で行われていますが、全国ニュースで取り上げられるのなんて、ほんの僅かです。
それも「結果論的」な扱いですから、主に成功したものしか報じません。
しかし、大きな成果を生み出す源は、「地道な活動の積み重ね」です。
成長過程を取材することで、色んな人に注目してもらい、その活動の成長を早める効果があると思います。
ましてや地方紙は、そこに住む人が読んでいますからね。
反応・反響も早くて大きいと思います。

(続く)

●次回の記事: 「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002320.html

Posted by kanzaki at 2011年03月30日 23:55