2012年07月04日

「臨場 劇場版」の感想

(なるべくネタバレしないように書きますが、これから観る方は、読まない方が良いです)

●臨場 劇場版・公式サイト
http://www.rinjo-movie.jp/


(映画『臨場 劇場版』予告編)

6月30日、公開初日に観てきました。
連日、ドラマ版の再放送を観て復習し、その世界観にどっぷり浸かってから映画を観ました。

ドラマはハズレ回が1話も無く、東映の看板ドラマ「相棒」よりも気合いが入っていました。
その意気込みは、映画でも感じ取れました。

劇場版は、テレビ版を観た人達へ向けて作った「ドラマのその後」です。
しかし、「ドラマの映画化=お祭り」という感じでもありません。
また、はじめて観る人向けという感じでもないし、映画をシリーズ化していこうという感じでもありません。
エンターテイメントな感じで興行収入トップになろうとは考えず、自分たちが作り上げてきた「臨場」という作品を最後まで、自分たちの思った通りに徹底的に作ったという感じです。

また、映画だからと言って、無茶な制作費用をつぎ込んだ感じもありません。
せいぜい、最初に巻き起こる無差別殺人事件の場面で、バスが広場に突っ込んできてぶつかるシーンぐらいでしょうか。
制作陣は、映画だからと言って、舞い上がった感じはありません。
おかげで、ドラマと映画との温度差も、違和感もありません。

無差別殺人事件のシーンは、本当に怖かったです。
精神に異常をきたした振る舞いの犯人が、手に持ったナイフで、次々と一般市民を殺していきます。
スクリーンが大きいせいもあるのでしょうが、まるで自分の目の前で、本物の犯行が行われているかのように錯覚しました。

普通のドラマは、ナイフで人が刺された時、ナイフが刺さる効果音が入りますよね。
しかし、このシーンでは、刺しても「グッサッ!」という音がありません。
わざとらしい効果音がなく、次々と刺すものですから、かえってリアルで怖かったです。
いずれ、テレビで放映されるかもしれませんが、このシーンは果たして、オンエアできるのだろうか?

ドラマ版との違いは、遺体の検視シーンでしょうか。
ドラマもリアルに行っていましたが、映画はよりリアルになりました。
それ故に、かなり遺体がグロいです。
また、殺された女性は検視の場面で、乳首まで映し出していました。
遺体の解剖シーンは、体が開かれ臓器を摘出していました。
気軽な感じで観に行くと、かなり精神的にやられます。

ドラマは、割とコメディなシーンも多かったのですが、映画では控えめでした。
ドラマでは、被害者の家族の苦しみを多く描いていました。
映画は、その部分を更に強調していました。

通り魔事件の被害者の遺族を演じた若村麻由美(わかむら・まゆみ)さんが名演技でした。
他の映画やドラマでは、とても華やかな印象ですが、この映画では娘を殺され、ヒステリックな行動を起こす一般主婦を演じてました。
あまりにも救いが無く、このまま終わるのかと思いました。
最後の最後で、殺された娘が、どうしてその犯行現場に来ていたのかが分かります。
あのシーンは泣けます。
お子さんがいる方には、かなり感情移入出来るキャラクターだったのではないでしょうか。

この映画の真犯人は、キャスティングで、なんとなく分かってはいました。
実際、その通りではあったのですが、犯行に至った理由が、ちょっと弱いかな?
人は死に至る病に侵された時、身内でもない他人の為に、そういった犯行をするのだろうかと思いました。
この真犯人の人物像ならば、残された命を多くの人達が笑顔になる事に使ったんじゃないかなあ。

同じく、胃ガンにおかされた主人公・倉石義男(くらいし・よしお、演・内野聖陽)。
小説でも癌の為、入院する設定でしたが、今回の話しでは不要な設定だったような気がします。
(背中から刺されたのも、あんまり意味がなかったような・・・。その後、普通に検視をしているし)

真犯人と主人公、共に死に至る病を抱えた中で、悪と正義へ目指す方向が違う部分を描けてはいました。
しかしドラマは、主人公の豪快で、組織になじまぬ性格と行動が魅力であり、人気の理由でした。
それが劇中で病気になってしまい、後半はその豪快さが薄れており、少し残念でした。

ガン設定よりも、ドラマを観ていない人でも映画単独で楽しむことが出来るよう、愛妻が死んだ理由や、ガーデニングで見せる優しさ等、主人公のキャラを改めて描いて欲しかったです。
それこそ、「臨場 劇場版」シリーズの第一弾として。
(制作陣がそういう事を考えないからこそ、思う存分作り上げたのだとは思いますが・・・)

主人公に鍛えられた部下たちの活躍も少しはあったけれど、もうちょっと活躍して欲しかったです。
警察側のキャラクターは主人公以外、あまり活躍もないし、それほどキャラクターが立っていませんでしたから。

そしてドラマ同様に、スカッと終わって欲しかったです。
主人公が死んだのかどうなのか、そこをぼかしたが故に、なんだか煮え切らない感じで終わりました。
周りの観客も、無言で重い足取りで帰っていました。

いつかシーズン3がテレビで始まり、完治した主人公が、いつものワイルドな出で立ちで登場するのでしょうかね。
東映の刑事物ドラマの中でも、かなり濃厚で質の高い作品です。
原作は残り1話しかストックがありませんが、オリジナルストーリーの出来も良かったし、是非とも復活してほしいです。

もし、シーズン3が無理ならば、「ゴンゾウ 伝説の刑事」の続編でも良いのですが・・・。

●関連記事: 本物の異端とは?〜警察の異端児・「臨場」の倉石義男と、文壇の異端児・坂口安吾
http://kanzaki.sub.jp/archives/002683.html

Posted by kanzaki at 2012年07月04日 22:06