マジシャンのマギー司郎さんが、幼いころについてエッセイを書かれていました。
お父さんは、いろんな商売に手を出しては失敗続きでした。
さらに子供が9人もいたのですから、貧しい生活でした。
例えば、お金持ちの家が川縁に捨てるゴミの中から、リンゴの芯を拾い、川で洗って食べるなんてこともありました。
けれど、お母さんは「お父ちゃんは、偉いんだよ」とずっと言っていました。
※
小学校1年生の時のこと。
全員が給食用のアルミコップを買うことになりました。
けれど、マギーさんだけ、コップの代金を先生に渡せませんでした。
結局、買うことが出来なかったので、お父さんがどこかで手に入れたもを持っていくことになりました。
だから、マギーさんのアルミのコップだけ、形も大きさも違いました。
けれど、一つだけ良いことがありました。
みんなと違う大きさだったので、給食室から戻ってきたコップが、マギーさんのだけすぐに分かったのです。
みんなのコップは、底の裏に書いた自分の名前が目印です。
全部で30個もあるから探すのも大変です。
そのことを両親に話した時のことを今でも忘れないそうです。
父
「みんなと違って良かったじゃないか」
母
「みんなと同じである必要はないんだよ」
三人で笑いあいました。
※
マギーさんは中学卒業後、東京でプロのマジシャンになりました。
プロと言っても、ストリップ劇場のショーの合間に見せるお仕事です。
そんな場所では、誰も見てくれないし、拍手もありません。
「引っ込め!」と言われることもありました。
ある時、退屈そうにしているお客さんを前に、申し訳なくてつい一言。
「本当はマジック、へたなの。ごめんなさい」
すると、暗い客席の中から、くすくすと笑い声が聞こえました。
マギーさんは、こう思いました。
「初めての良い反応かも・・・。
僕は手先が器用じゃないし、他のマジシャンのような華麗さもない。
そうだ、あの時のアルミのコップと同じだよ!
自分だけのマジックでいいんだよ!」
これが、マギーさんの「おしゃべりマジック」の始まりでした。
※※※
なんだか、大人向けの絵本を読んでいるような、温かい気持ちになれました。
人間賛歌とは、こういう事なのかも。
マギーさんは、
「自分の欠点と弱点は、時間が経つと武器になる」
ということを知ってほしいと言っています。
今の時代、「絶望」という言葉が、簡単に口から漏れてしまいます。
「心が折れる」なんて言葉もよく聞きますね。
「心が折れる」は、
「懸命に努力してきたものが、何かのきっかけで挫折し立ち直れなくなる状況」
という意味で使われます。
けれど本来は、
「相手側に気持ちを曲げて打ち解ける」
「心が和らぐ」
という意味だったのですよ。
現在の使い方ですと、立ち直れないよう絶望状態を表しますが、本当はもっと優しい意味だったのですね。
ちょっとした気づきで、捉え方が反対になります。
どうせ反対になるなら、良い方に気づきたいものですね。
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