2023年08月05日

映画『SINGLE8』の感想〜1970年代の自主映画作りは興味深い

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●映画『SINGLE8』 公式サイト
https://www.single8-movie.com/

監督
小中和哉(特撮・ウルトラマンシリーズを担当)
脚本
小中和哉
上村侑、高石あかり、福澤希空、桑山隆太

【あらすじ】

1970年代を舞台に、映画制作に情熱を燃やす高校生たちを描いた青春映画。


1978年、夏。
高校生の広志は「スター・ウォーズ」に影響を受け、友人の喜男と共に宇宙船のミニチュアを作って8ミリカメラで撮影することに。
最初は宇宙船を撮ることしか考えていなかった広志だが、クラスで文化祭の出し物について話し合う際、勢いで映画制作を提案してしまう。
思いを寄せる女の子・夏美にヒロイン役を依頼するも断られ、彼女とクラスメイトたちを説得するため、喜男や映画マニアの佐々木も加わり脚本の執筆に取りかかる。

2023年製作/113分

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※※※


【コメント】

まだ、スマホやパソコン、タブレットが無かった時代、SF自主映画を学生たちが作る作品です。


この作品の醍醐味は、今のようなデジタル環境がそろっていない時代に、学生達がいかに工夫してSF映画を作るかです。


本編の自主映画は、「世の中が逆再生して動く世界」に2人だけが通常に動けるお話しです。
シナリオ自体がとても良くできており、どうやって主人公が世界を救うかのオチが秀逸。
監督が中学・高校で作った作品が元ネタなのですが、よくこれを学生が思いついたなあと感心しましたよ。
逆再生の世界を歩き回るのも、映像として面白いですね。


世の中の人は、前を向いているのに、どんどん後ろに向かって歩いていく。
そんな中、主人公たちは普通に前へ向かって歩けます。


そんな不思議な世界を映像として実現するため、主人公たちが前を向きながら後ろへ歩いていくのをフィルムカメラを逆さまに持って撮影することで可能にしています。
当時も逆撮影できるカメラはありましたが高価なので、学生には扱えません。
それを知恵を絞って撮影していきます。


宇宙船が空から街へ降りてくるシーンの合成も、いまならデジタルで簡単にできますが、そこもアナログなとても興味深い手法で行っています。


屋外のロケシーンだけではなく、その映像に合わせて声を吹き込むシーンや、フィルムをつなぎ合わせて編集するシーンなど、そういう作業シーンも映画的に見ごたえがあります。
これが現代だと、パソコンと周辺機器だけでできてしまうので、映像としての面白みが薄れてしまいます。
そういう意味でも、昔の映画作りは観ていて面白いですね。


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学生達が工夫して映画を作り、最後はその撮影した作品を劇中で最初から最後まで上映。
ある意味、映画「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」の展開に通ずるものがあります。


ラストなんか、北野武監督の「キッズ・リターン」の名セリフを思い出します。


「マーちゃん、俺たちもう終わっちゃったのかな?」
「馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねえよ」


本作の学生達は、自主映画を作り切った。
みんなにも好評だった。
けれど恋愛は失敗。
さて、これから何をする?
学園祭の最中、主人公達が屋上で決意した姿が、都会的なスマートさじゃないんだけれど、観ているものが笑顔になれるシーンなんですよ。


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この劇中で作られた自主映画は、監督が本当に、中学時代と高校時代に作った2作品のリメイクです。
高校時代は確か、映画研究会かなんかで作ったもので、学園祭の為ではありません。


本作では学園祭用ということなので、どうやってクラスの生徒や先生たちに同意してもらうかに時間を費やしています。
だから学生たちが実際に撮影を始めるまで、上映時間の半分ぐらいを費やしてしまい、「あれっ? これ、いつから撮影するんだ?」と腕時計を見ながら気になりました。


学園祭用なのに、実際に映画の製作はクラスの数人だけで作っており、先生は撮影現場に同行しない。
学園祭って、クラスのみんなで作るものだから、そういう少数精鋭にしてしまうのは、ちょっと設定的に無理があるかも。
素直に、映画研究会の活動として話しを展開した方が無理が無かったように思います。


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1970年代のレトロな雰囲気、創意工夫でなんとかやってしまうエネルギーを感じられました。
全体的にとても良い作品でした。
撮影が始まってからの展開は、時間を忘れて観ることができましたよ。


ヒロイン役の高石あかりさんが印象的でした。
この若手出演陣の中でも光っていました。
ちょっと背の高い杉咲花さんみたいなルックス。
演技も安定していたなあ。
昭和の舞台設定の中で、現代っぽいルックスは異質なんだろうけれど、それがかえって主人公が好きになる魅力として感じられます。
劇中、フィルムカメラを構えこちら側を見るシーンがあります。
そして微笑んでシャッターを押す仕草。
まるで本当に、昭和時代のテレビCMみたいで良かったなあ。



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今回の劇中で制作した自主映画。
監督が学生時代に本当に撮影したオリジナル版も、館内で観ることができました。
これは新潟市だけだそうです。
同じ内容を中学と高校で作りました。


中学だと男の子二人の話し、高校だと男女の話しになります。
宇宙船内で女性にうりふたつの人物が出ますが、オリジナルは出ません。
同じ画面に、同一人物が左右お互いに見つめて話すシーン。
昔は、そういう感じで表現したかったけれど出来なかったので、今回やってみたそうです。


フィルムに傷をつけて、ウルトラマンの光線みたいなエフェクト効果を出すシーンが本編ではあるのですが、学生時代に作ったオリジナル版ではまだやれていません。


本編劇中にて、カレー屋が出て来ており、学生時代のオリジナル作品の2本にも出てきますが、特に意味は無いそうです。


関係者の方からお話しを伺いました。


以下、展示されていた劇中の小道具。


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Posted by kanzaki at 2023年08月05日 12:22