2024年03月23日

映画『52ヘルツのクジラたち(日本語字幕)』の感想〜現代パートをカットして、過去編を深く描いた方が良かったのでは

52kujira.jpg

●映画『52ヘルツのクジラたち』公式サイト - GAGA

監督:成島出
原作:町田そのこ
脚本:龍居由佳里
出演:杉咲花、志尊淳、宮沢氷魚

【あらすじ】

タイトルの「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れないほど高い周波数で鳴く、世界で1頭だけの孤独なクジラのこと。

自分の人生を家族に搾取されて生きてきた女性・三島貴瑚。
ある痛みを抱えて東京から海辺の街の一軒家へ引っ越してきた彼女は、そこで母親から「ムシ」と呼ばれて虐待される、声を発することのできない少年と出会う。
貴瑚は少年との交流を通し、かつて自分の声なきSOSに気づいて救い出してくれたアンさんとの日々を思い起こしていく。

2024年製作/135分/G/日本


『52ヘルツのクジラたち』本予告


※※※※※


【感想】


まず、タイトルが良いですよね。
それだけで評価できます。


こういうネイチャーなタイトルの場合、舞台は自然の多い田舎ではなく、あえて海も見えない都会で展開した方が良いと思うのです。


そういう意味では、本当にクジラが出現する田舎を舞台にした現代パートより、東京を舞台にした過去パートの方が観念的で良いと思うのです。
現代パートは不要ではないかなとも思いました。

この作品は、主人公・三島貴瑚(杉咲花さん)の過去編と現代編が交互に描かれていきます。


現代編は、自分の過去と同じく虐待を受ける少年(声を出せない)を少年の母親から守ろうとするお話し。


過去編は、辛い境遇だった主人公を救おうとするアンさんこと岡田安吾(志尊淳)との交流のお話し。
アンさんは見た目が男性ですが、本当は女性。
心は男性として生まれてきたのに、体は女性であることから悩み苦しみ、長崎から東京へ出てきた若者です。


135分という限られた時間の中ですと、正直言って現代編は不要だと思いました。
幼児虐待から赤の他人が我が子のように救おうとする話しは、他にいくらでもあるからです。


この作品の上映前に予告編で流れていた、杏さん主演「かくしごと」が、モロに内容かぶりです。



映画『かくしごと』本予告

この作品、志尊淳さんが演じたアンさんがとても良いのですよ。
見た目は若い男性なのに、どこか達観しているところがある。


自分の人生を家族に搾取されて生きてきた主人公を吸い出そうと奔走します。
終始、性格は穏やかで冷静。
他人から見たら、主人公の女性と恋人関係に発展してもおかしくないのに、常に主人公の幸せを見守るスタンスです。


志尊淳さんの見た目とキャラ設定のおかげだと思うのですが、心と身体の性別が異なる人物は、とても魅力的に描けていました。
長崎からやってきたアンさんのお母さん(自分の子供が性で悩んでいることを知らなかった)も良かった。
お母さん役の余貴美子さんは、ドラマ「君が心をくれたから」でも長崎の人でしたね。


アンさんは学習塾の講師です。
本当は女性の名前なのですが、「安吾」と名乗っています。
やはり、小説家・坂口安吾を連想します。
アンさんの日常生活(部屋は出てきます)や、塾で生徒にどう接して教えているのかは描かれていません。
主人公と会っている時の姿ぐらいしか描かれていません。
この人物をもっと深く描くためには、もっと普段の行動や考えを描くべきだったと思います。


主人公は別の男性と結婚することを知ったアンさんは、その男性の悪い本性を見抜き、主人公の結婚を反対します。
結婚相手をある意味社会的に抹殺するような風評被害で陥れます。
その反対の仕方が、今まで描かれてきた人物像と違って、どうにも納得いかない。


長崎から母親がやってきて、自分が男の姿で暮らしていることを知られ、その夜のうちに自殺してしまいます。
理解力もある優しい母親なので、きちんと向き合えばなんら反発することもないのに、なんで自殺するのか理解できません。


主人公はアンさんのおかげで救われました。
だったら後半は、田舎の見ず知らずの少年を救う話しではなく、今度は主人公がアンさんを苦しみから助ける話しにすれば良かったのに・・・。
ちゃんと、主要人物の中で話しが展開してこそ物語だと思うのです。


本当に惜しいと思った作品でした。


ちなみに私が観た上映回は日本語字幕版でした。
耳にハンディキャップのある方でも鑑賞できます。
映画館で、邦画に日本語字幕(セリフだけではなく、TVの字幕みたいに効果音などの説明描写も記載あり)というのは珍しいですよね。
私はテレビドラマを観る際は、字幕付きで鑑賞することがほとんどなので、特に違和感はなかったです。

Posted by kanzaki at 2024年03月23日 06:37