神崎のナナメ読み

泣かさずに泣かす演出-てるてる家族

私は朝、ＮＨＫの連続テレビ小説「てるてる家族」を見てから出勤しています（ＢＳは７：４５から放送しています）。
これがこの数年間の中でも、名作になりそうな予感。
過去の作品から云って、ＮＨＫ大阪製作のものは、グダグダで面白くないのが多いのですが、これは違いました。
戦後の復興時期から、明るく元気に生きる家族のお話しです。
吉本系のノリツッコミや、突然ミュージカル仕立てになったりと、目が点になった視聴者も多いでしょう。
実際、視聴率が２０％を切る時もあります。
しかし、この作品に食わず嫌いを起こしている人は、とても勿体無いですよ。
そこらの、多額の製作費用と大物トレンディ俳優で飾り立てたドラマと一緒にしてはいけません。
先週のお話しなんて、「もう、これで最終回でいいよ（泣）」と思ったぐらい感動でした。
主人公の女の子が、せっかくお友達になった男の子と別れるお話しです。
男の子は、父親が急死したため、遠くの親戚の家へ行くことになったのです。
その男の子は、主人公のお姉さんに密かに惹かれていました。
昔、この街に来たばかりの時、飴玉をもらい、初めて親切にしてもらった事が忘れられないのです。
主人公は、男の子がこの街を出て行く際、ちょっとでいいから会ってくれと言いました。
しかし、主人公のお姉さんは全く覚えておらず、断りました。
そこで主人公の女の子は、自分で飴の缶詰を買ってきて、奇麗に包装しました。
その男の子へあげるためです。
そのプレゼントには手紙が付いていました。
主人公は、さようなら、頑張ってねと手紙を書きました。
その手紙の最後には、お姉ちゃんの名前が。
本当は自分の名前を書きたかったのに・・・（既に神崎は、ここで涙腺ウルウル）。
そのプレゼントを渡しに行くのですが、彼は既にいませんでした。
男の子は、とある事情がありまして、引越の日を早めていたのです。
飴の缶を包んでいた包装紙と手紙を破り捨て、とぼとぼと帰る女の子。
帰宅すると、飼っている伝書鳩の足に手紙が付いていました。
それは男の子が、「ケセラセラ」と主人公へ別れの言葉を綴ったものでした。
主人公は、いつも二人で遊んでいた空き地に一人たたずんでいます。
夕日が彼女を照らし、その中で「ケセラセラ」の唄を弱々しく口にしました。
帰宅すると家族や店の従業員、街のみんなが待っていました。
そしてみんなで、大きく明るく、ケセラセラの唄を歌うのでした（神崎、号泣）。

上記のあらすじだけでは、今回のお話しを全て語れません。
男の子のお兄ちゃんのエピソード（元はチンピラだったけれど、弟達のためにパン職人を目指す）、主人公の女の子が好きな別の男の子の活躍（手紙を主人公に渡した功労者）その他全員が明るく優しい笑顔が、主人公を支えるのです。

感動のラストシーンに至るまで、ものすごい緻密な複線が張り巡らされています。
そこらの２時間サスペンス以上に。
脚本家の人は、まだ３６歳の男性だそうですが、すごい脚本ですよ。
だから、朝の身支度をしながら、ダラダラ見ていたのでは、このドラマを把握しきれないと思います。
しかも表面上は、お笑いとミュージカルですからね。
ちょっと朝のドラマ向きでは無いと思います。
ドラマ好きが好むドラマかと。

先週の最後、このお話しで感動したのは私だけではありませんでした。
ネット上でも大絶賛でした。
みんなが評価したのはやはり、「登場人物が誰一人として泣いていないのに、視聴者はそれを見て泣いてしまうこと」です。
もらい泣きというのがありますが、画面の中にいる人が辛くて泣いているのを見て、ついつい泣く事はあります。
気持ちがテレビの外と中でシンクロされる。
視聴者をそういう形であれ泣かす脚本、演出というのは凄いと思います。
けれど、今回のように、誰一人泣かず、表面上は明るく繕えば繕うほど、見ている私達は涙を流してしまうのは、もう神業のドラマです。

私自身、こういう戦後の庶民を主人公にした物語が好きな方です。
漫画でも、「三丁目の夕日」とか好きですし。
そして、吉本の舞台も好きです。
あれって、ただ笑わせるだけでなく、最後は人情にホロッとさせてくれるんですよね。
そういう私ですから、今回のドラマが好きなのでしょう。

視聴率は低いですが、このドラマの中で、チキンラーメンの誕生秘話を扱ったところ、物凄い商品売上アップになったとか。
それがニュースでも取り上げられていたし、今週からは、いよいよ主人公達が成長した本編が始まります。
主人公に、最近注目されている石原さとみ、お姉さんには上原多香子などが配されています。
この序章ですら、見ごたえのある内容。
これからが、ますます楽しみです。
機会があったら、是非、ご覧ください。