この映画は良かったですよ。
時代劇の中でも、いろいろと細かいジャンルがありますが、この映画は「水戸黄門」というよりも、「必殺仕事人」の空気があります。
必殺シリーズって、決して奇麗な現実を見せている訳じゃない。
人間の強欲が不幸な人を生み出す。
不幸に陥った人は無力故、最悪な結末へ人生を歩かなければいけない。
恨みを晴らしたい人達が頼る人・・・それが仕事人。
その仕事人も、決して聖人君子じゃない。
あくまで、お金をもらって相手を殺す。
倫理とか、いろいろと五月蝿くなったテレビ業界じゃ、二度と映像化できないだろうなあ。
そんな空気を継承した作品だと思います。
私は、勝新太郎の座頭市というものを見た事がありません。
見ていたら、この作品に対する意識も違っていたかもしれません。
やはり初代のパワーというのは偉大ですから。
でも私は、今回の映画が好きです。
まず、殺陣がすごい。
必殺シリーズもそうですが、刀で斬られると、こんなにも痛いもんなんだなあというのが、画面から感じられます。
刀・・・特に日本刀というのは振っただけで、その周りの空気と物を、スッと裂いてしまう力があるんですよね。
そして斬ったら刀は、相手の血で凄まじく汚れる。
それを振って落としてから、元のさやへ戻す。
うーむ、かっこいい。
まさに残虐と芸術が表裏一体化したものです。
最近、こういう感触を感じる映画が無かったから新鮮でした。
大昔、「仁義亡き戦い」という映画を観終わって劇場から出てくる人たちは皆、自分がその主人公になったかのように、肩で風を切って歩いたそうですが、今回の映画も見終わった後、自分が座頭市になったかのような振る舞いをしたくなりました。
人を大量に殺すという事は、それだけ悲惨な映像が観客の目の前で繰り広げられる訳でして、普通ならば、かなり憂鬱になるところですが、そういうのを感じさせませんでした。
それはきっと、「明るい脇役」と「お笑い」、そして「音楽」が効果を見せたからだと思います。
ガタルカナル・タカを始め、憎めない脇役が勢ぞろいしています。
座頭市側の人間は、座頭市と違って、戦いには全く向いていない弱い人々です。
けれど心がある。
画面に出てくる人々は、皆、貧しい装いです。
本当、貧乏臭いの。
けれど、生きているという臭いと優しさが感じられました。
そんな中、奇麗どころも配していまして、悪い敵に両親を殺された姉妹が色を添えます。
細かい設定はネタバレになるから言いませんが、周りが汚いが故に、とても華を感じさせます。
敵は本当に心底、「悪役」です。
現代物のドラマや映画だと、敵にも何かしら事情があって、正義と悪を奇麗に分ける事が難しくなっています。
勧善懲悪をするには難しい時代です。
けれど今回の映画は、勧善懲悪に徹しました。
見た目からして悪役ですもの。
この判りやすさが、海外でも理解してもらえたから賞を獲れたのかもしれません。
ちょっとそれますが、この映画では、「め××」「あ××」等の放送禁止用語が多々出てきます。
今のテレビでは放送出来ない差別用語です。
しかし、現在では差別用語になっていますが、この時代劇の中ではそういう言葉が、ひどく優しいものに感じられます。
その言葉から、相手をいたわる心が感じられるのです。
差別用語が記号化した現代では、「言ってもいい」「言ってはいけない」という両極端なだけで、それが本来、どういう意味合いを持つのかが分かっていません。
それぐらい、日常とは縁の無いものになってしまったのでしょうね。
私はそういう言葉を普通に使っていた当時の雰囲気が出ていて良かったと思います。
お笑いの部分は、ガタルカナル・タカをはじめとする「たけし軍団」が色を添えます。
よく、たけしさんが、マイクに向かって喋る時に、頭をゴンッとぶつけたり、何も無いところでコケてみせたりしますよね。
ああいう笑いです。
吉本ばりに、コテコテの笑いなのですが、その記号化された笑いが、この映画の清涼剤となっています。
実写で言えば「ミスター・ビーン」「オースティン・パワーズ」、アニメならば「トム&ジェリー」みたいな笑いです。
こういうのは万国共通で、文化の違いを超えた、誰でも分かる笑いですから、海外の人にもウケたんだろうと思います。
そして「音楽」。
もうね、これはすごかった。
ここ最近の洋画・邦画を問わず、1番良かったです。
CMでおなじみのタップダンス。
どこで使われるのかと思っていたら、あんなところで!!
そういや時代劇というのは本来、歌あり踊りありのエンターティメントだったんですよね。
タップダンスと時代劇の衣装に、何ら違和感を感じさせないものでした。
身体の中に響き入ってくるこの躍動感。
映画館を出てもこの響きは、心の中で鳴り止みませんでした。
この他にも、色んなところで音楽が効果を出しています。
例えば、座頭市が田んぼの横を歩いているシーン。
その画面上でBGMがかかっているのですが、その音楽にあわせて、何やら別の楽器の音色が入ってきます。
ん?と思っていると、その田んぼの真ん中で、何人かの人たちが、クワを振っています。
そのクワを振る音がリズム良く、楽器として加わっているのです。
他にも、家を建てている人たちの木槌やノコギリの音が音楽にかぶさったりと、多彩な演出をしています。
リアルな映像と音で、その世界観を表現するのも良いのですが、こういう遊びを入れた方が、よりその世界に引きずり込まれますね。
本物の雨、風、波等の自然界の音を録音したものを再生しても、映画の中だとあまりリアルに感じないものです。
例えば、ザルの上で大量の小豆を動かした方が、よっぽどリアルに波の音を感じさせます。
この映画では、舞台・ミュージカル的な表現を織り込み、リアルさを表現しているのだと思います。
この映画が日本の代表作と言えるか?と言われれば、はっきりと「そうだ!」とは言えません。
私はこの映画をB級映画だと思います。
しかも、最強のB級映画!
決して、万人向けとは言えませんが(15歳未満は観れないし)、たけし流のエンターティメントを感じさせます。
実際、映画館は観客で一杯でした。
とても時代劇を見るような客層とは思われない若い人たちで一杯。
たけし作品は、評価は高くても、興行収入には結びつかないものだと認知されていますが、今回はそういう感じは全くせず、人々が「観たい!」と思わせるものになっていますね。
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