神崎のナナメ読み

「アイディア」と「保守本流」

以前にも書いたように、私の母親は本屋の店長です。
昼間、２人で食事をしている時、「王様のブランチ」というテレビ番組にてお店の紹介をしていました。
今回は、全国各地に支店を持っている有名な本屋でして、そのお店はお洒落な本と雑貨を扱っているそうです。
女性が好みそうな雑貨店の雰囲気からして、人気のありそうなスポットだなあと思いました。
私は母に、「自分のお店もこういう感じに模様替えすれば？　雑貨とかも扱ってさあ・・・」と言いましたが、「金が無い」の一言で却下。
そのお店の売上ランキングが紹介されていたのですが、意図的なのかどうか分かりませんが、全て雑貨ばかりでした。
「本は売れないのかなあ・・・」と思っていると母は、「これは本屋ではない。本屋はやはり、最後は本で勝負」と力強く言っていました。
あまりに直球な言葉ですが、ちょっとカッコいいなあと思いましたよ。

いろんな商売が世の中にあり、その中で売れているお店には二通りあると思うんですよ。
「アイディア」と「保守本流」の二つ。

「アイディア」というのは、現在扱っている商品だけでは売上にならないと思ったら、全く別のものも扱ってみる、融合させてみる事。
そうすると、それに引き寄せられて、今まで扱っていたものも買ってもらえるというもの。
例えば、コンビニエンスストア。
本屋でもないのに、たくさんの雑誌を扱っており、本屋ではタブーである立ち読みが堂々と出来る。
本を読んだ帰りがけに、何か食べものとかを買ってもらう。
実際、これは有効な手です。
アイディアとは、ちょっと違うかもしれないけれど、例えば自分が働いている会社が運送会社だとします。
物を運ぶのが本来のお仕事。
運送の関係で一生懸命に努力して、皆から一目を置かれる人になるのは、保守本流だと思います。
けれど会社の内部では、運送部門の他に、総務部だったり経理部というものもあります。
運送の関係では目立たなかった人が、簿記が得意だったおかげで、経理部で活躍するかもしれません。
同じように、体力が無くて物も運べない人が、コンピュータやＯＡ機器については得意で、総務部で大活躍するかもしれません。
全員が全員、同じ土俵で立たなくても、自分に向いている部門で活躍するのも「アリ」だと思います。
アイディア勝負というのは、一見、本来の仕事に関係無いものですが、これはすごい事なんだとアピールすることによって評価される事が多いです。
自分からアピールするわけですから、かなり「目立ちます」。
華やかな感じですから、人からも羨ましがられるかもしれません。
けれど反面、根無し草な部分があるだけに、いつまでも目立っていられるかというとそうではない・・・。

他方の「保守本流」。
いわば王道ですよ。
本来の目的を遂行することによって評価されるのです。
これは道のりが険しいです。
保守本流故に、同じ事をしている人がたくさんいます。
そして、基本的にみんな同じような事をやって凌ぎを削るので、努力が必要。
アイディア勝負は、ギャンブル的な一発勝負が効きますが、保守本流にはそういうものがありません。
かなり地味です。
けれど、大成した頃には、しっかりと大地に根を生やしており、そうそうな事ではビクともしません。

私は怠け癖のある人間です。
自分の人生を振り返ると、アイディア勝負な人生でした。
人と違う事をすることによって成長してきたように思います。
アイディア勝負と言うと聞こえは良いですが、私の場合、それは単なる「逃げ」だったように思います。
最近、「こういうのは、長い時間が経つとむなしいものだなあ・・・」と感じます。
しっかりした基盤の無い自分。
いっそ保守本流な事で頑張ろうと思っても、怠け癖・逃げ癖が染み付いてどうしようも無い。
かなり危機的なものを感じてしまいます。

若い頃から、保守本流をモットーにした人の人生って、歳を重ねても、若い時の努力の恩恵をずっと得ているように思います。
その事について人から信頼されているから、たくさんのオファーがあり、更にその事について自分を磨いていけます。
アイディア勝負は、その時の流行に左右される面があり、せっかく評価されても、しばらく経つと見向きもされなくなります。
だから次から付きへとアイディアを捻出しないといけません。
歳をとると、アイディアも枯渇していきますから、いつまでも華やかな生活が続くとは限りません。

大昔、「イチゴ大福」という商品が流行り、どこでも扱っていました。
けれど現在、店頭の中心に並んでいる多くが、保守本流の「普通の大福」です。
イチゴ大福は扱っていても、端の方に僅かばかり。
結局、長い間愛されるには、保守本流がキーワードのように思います。