2004年02月02日

解夏

さだまさしさんの「解夏」を読みました。
現在、映画も公開されているんですよね。
けれど世間的には、同じ邦画ならば「半落ち」に興味が行っているように思います。
小説を読んで驚いたのは、文庫本には4つの短編が収録されており、「解夏」はその一番最初の物語、僅か100ページ程度のお話しなんです。
他にもとても良いお話しが収録されており感動できるのですが、他の主人公達よりも、解夏の主人公が一番、映像としてかっこいいと思います。
それに、舞台となる長崎の光景も、映像にした時に見栄えがしますものね。
そんなに主人公達がいろいろと活躍したりするお話しではありません。
目が見えなくその日を静かに迎えるまでのお話しです。
途中、仏門関係に詳しい人が登場し、主人公に「解夏」の意味を伝えるのがメイン場面だと思います。
言ってみれば、お寺でお坊さんのありがたい説法を小説の上で聞いているような感じです。
目が見えなくなるのが終わりではなく、はじまりなんです。
時間をかけて忍び寄る恐怖というのは、突発的に起こる不幸よりも、精神的に辛いですよね。
私はそんなに精神的に強い人間ではないので、こういう恐怖には絶えられないかもしれません。
けれど、「目が見えなくなる」等の不幸を「不幸」と位置付けるだけでは哀しすぎる。
そこから何かを得ることが必要なんですよね。

私は「解夏」もいいのですが、他の収録作品も好きです。
「秋桜(コスモス)」は、フィリピン人の女性が、日本人の農業に従事する男と結婚してからの話し。
コスモスは皆、日本の花だと思っていますが、実は海外の花なんです。
フィリピンから来た娘をコスモスに例え、いずれ日本人と何ら区別の無い生活を過せるようになってほしいというメッセージです。
旦那のお母さんはとても口うるさい人です。
それとは逆に、お父さんはいつも味方。
お父さんであるこの老人が、主人公のフィリピン娘に話す言葉で心に残っているのは、蜂についてのお話しです。
蜂の世界は、敵が襲ってきたとき、まず最初に攻撃に出るのは老いた蜂なんだそうです。
蜂はご存知のとおり、相手にその針で刺しこむと死んでしまいます。
だから未来のある若い蜂を生かす為に率先して前へ出るのです。
それとは逆に、人間の世界では、例えば戦争とかがあると、戦地へ真っ先に赴くのは若い人達です。
老いて余命幾ばくも無い人間を救う為に・・・・・。
この老人は、そういう矛盾をいつも感じているそうです。
旦那のお母さんは、フィリピン娘を眼の敵にしているのですが、ある日、他の村の人間が、外人だからと差別するような事を言います。
その時のお母さんの対応がかっこ良かったです。
コスモスと主人公をダブらせる演出に、作者へ拍手を送りたいです。

「水底の村」は、ダムの建設で水の底に沈んでしまった村の人達のその後の話しです。
主人公はテレビ関係の仕事をしている男。
ヒロインは、主人公の子供をお腹に宿したものの、訳あって堕胎し、姿をくらましてしまった女性です。
ヒロインには小学生の利発な男の子がいまして、偶然、主人公と出会います。
その少年を通じ、じょじょに男と女は離れていた心を近づけていく内容です。
後半の、ダムの水が冷えあがり、水の底に眠っていた村が現われてからの急展開が面白かったです。
若い頃の過ちをどういう形で償っていくか、そこら辺を読んで楽しんでもらいたいです。

最後の話しは、・・・・・タイトル忘れました(今、手元に無いもので)。
主人公は50を過ぎた会社員。
妻、娘、息子との心の距離が離れてしまい、すっかり冷めあがった家族。
ある時、同居している主人公のお父さんである老人が痴呆症になってしまいます。
その出来事を通じ、老人の思い出の場所を皆で旅をして、家族の絆を取り戻そうというお話し。
この老人が痴呆によって、風呂場でウンコをしてしまうんです。
裸で寒いのにも関わらず、やってはいけないという恥ずかしさで、その場から動けなくなります。
主人公の妻は、冷たい眼差しだけで何もせず、主人公が慌てて会社から戻り、奇麗にしてあげる場面では、ちょっと泣きそうになりました。
介護の問題をリアルに覗き見したような感覚に陥りました。

この4つのお話しは、どれもあんまり悪い人が出てきません。
凶悪犯の出現とか全くなし。
だから淡々とした展開ですので、派手でものは期待できません。
だから、若い人には受け入れられないかもしれません。
けれど書かれている事は、いつの時代に関係なく、普遍的なものを持っているので、是非、読んで欲しいです。

Posted by kanzaki at 2004年02月02日 14:52
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