2004年05月22日

庵野秀明 in トップランナー【6】

前回の続き。

ナレーション「そして庵野さんの人生に転機が訪れます。大学の仲間とSFのイベント用に製作したアニメーションがプロからも高く評価され、"超時空要塞マクロス"や"風の谷のナウシカ"等に参加する足がかりになったのです。しかし、アニメ製作に熱中するあまり、大学は放校処分になってしまいます」

再び、スタジオへ。

武田「・・・こう、将来っていうことを漠然と考えた時、不安みたいのありました?」

庵野「いや。将来とか、あまり考えてなかった。なんか、その場その場で流されている・・・・あまり自分で物事を決めなかった。その、オープニングアニメの製作に参加したのも、友達が"やろうやろう"と云うんで、"じゃあ、やります"っていう感じなんですね。その、マクロスに参加したのも友達が、"行こう行こう"と云うんで"じゃあ、行きます"っていう、そういう感じばっかりなんです」

本上「でもやっぱり、帰りたいなあというのは、あまり思わなかった?」

庵野「うーん、そうですね。ナウシカに参加したのも、あれも友達が"面接、行きましょう行きましょう"って・・・"じゃあ、一緒に"という感じなんですね」

本上「面接?」

庵野「宮さん(宮崎駿監督)のところに。なんか人手が足りないらしいと云うんで。あの時、一緒に行きませんかと誘われなかったら、宮さんとの出会いも無かったですね。本当に運がいいんです。僕にとって師匠筋になるのは、マクロスをやっていた時の板野一郎さんという・・・この人は天才のアニメーターなんですけれど・・・・」

画面下に「板野一郎:ロボットアニメ全盛期を支えたアニメーター。精密なメカを三次元的かつスピーディーに動かす手法は"板野サーカス"と呼ばれていた」

庵野「板野一郎さんという・・・この人は天才のアニメーターなんですけれど、その人と、その後の宮崎駿さん、この二人ですね。なんか、この組み合わせは僕しか世界中にいないと思うんですね。これだけは自慢できると思うんですけれど。この板野さんと宮さんには、モノづくり、アニメーションの技術的な基本だけじゃなく、そういうモノを創る姿勢みたいなものを凄く教えられます。この二人の影響が今もあると思います。妥協しない創り方とかですね、エゴイストな部分も含めて"あっ、これでいいんだ!"・"こんな事をやっていいんだ!"というのも含めて凄く良かったと思います。この二人に出会えたのは、今の仕事の支えになっていますね」

「jam」というタイトルの後、画面が変わります。
MCの二人はいません。
庵野さんが一人、観客席に向かって椅子に腰掛けています。
観客から庵野さんへの質問コーナーです。

庵野「えー、では、皆さんの質問に私が答えます」

すると観客席から一斉に「ハイ!」の声とともに、たくさんの手が挙がります。
庵野さん、キョロキョロと顔を動かしながら「いっぱいで良くわからない。自分じゃ決められないです」と笑っています。
一番目の前にいる人に「じゃあ近くの。すみません」と云って指名します。

若いメガネをかけた男性が立ち上がり、マイクを片手に質問をします。

男「えっと、今の日本のアニメは、海外で高い評価を受けていますが、日本のアニメと海外のアニメは一体、どこが違ってですね、どこの部分が評価されているのか、どのようにお考えているか聞かせてください」

庵野「はい。基本的に海外のアニメというのは、子供向けなんですよ。ディズニーとかワーナーのキャラクターを見ても分かると思うんですけれど・・・小さい子供向けに出来ていて、大人を想定していないんですよね。"よもや、二十歳を過ぎてアニメを見る輩がいるとは!!"と云うのが海外なんですよね。日本は、僕も40過ぎですけれど、40過ぎた人がアニメを見ていてもそんなに変と見られなくなったので・・・日本は今、云い方は変ですけれど、大人向け・・・子供向けではないアニメが創られているんです。これは、おそらく世界中で日本しかないと思うんですよ。日本のアニメが海外で評価されるのは、"オンリーワン"だからだと思います」

回答後、別の男性がマイクを持って質問します。

男「数年前のインタビューで、クリエイターは結婚すると駄目になるとおっしゃっていたと思うんですが、ご自身が結婚なされて、その言葉は当てはまると思いますか?」

庵野「あ〜、芸風を変えてなんとかやっています」

会場爆笑。
画面下のテロップ「庵野監督は、2002年に漫画家・安野モヨコさんと結婚」

庵野「もう、ああいうのは創れないと思います。エヴァンゲリオンみたいのは。あれは、独りモンが寂しくて寂しくてしょうがなくて、なんかアニメにぶつけている感じがしていたと思うんですよ。ああいう風にはなれない・・・違うもので何とかしたいと思う(軽く頷く)。ただ、前に創っていたモノが好きな人には、もう違うって云う風になっちゃうかもしれないですけれど。僕の中では、新しいところに行けて良かったと思っています。結婚をして幸せを維持しつつ、面白いモノを創ることを模索したいと思っています。ほかの人は失敗しているんで。(会場、にが笑い)その意気込みを分かってもらえたらと・・・」

男「ありがとうございました(笑)」

庵野「すみません(笑)」

今日はここまで。

偶然が偶然を生んで、この世界へ入ってきた庵野さん。
しかしその運も、彼の才能があったからこそ道が開かれた訳で。
それにしても「凄い師匠」を持った方なのですね。
その師匠も、「とんでもない弟子」を持ったと驚いていると思いますが(汗)。

それでは、また次回へ。

Posted by kanzaki at 2004年05月22日 18:30