2007年09月16日

マクドナルド・・・最大60円値上げしても客数が増えた理由、「マックカフェ」を立ち上げた理由、「メガマック」成功の理由

前回は吉野家についてご紹介しましたが、今回はその双璧となるマクドナルドです。
こちらも、雑誌「PRESIDENT」の特集を元に書かさせていただきます。

世の中、味や素材にこだわりを見せるハンバーガーが色々とあります。
しかし、なんだかんだ言って、マクドナルドにはかないません。

今年度の全店売上高の業績予想は4,850億〜5,030億円!
5,000億超えれば、日本の外食産業初の歴史的レコードとなります。

マクドナルドの年間利用者数は約14億人。
国民一人当たり、一年に10回以上利用する計算です。

これほどの巨大企業を成功させた立役者は、原田泳幸(はらだえいこう)日本マクドナルド株式会社 代表取締役会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)です。
奥さんが、シンガーソングライターの谷村有美さん。
元アップルコンピュータ株式会社代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ社副社長と言った方が分かる方もいらっしゃることでしょう。

アップルコンピュータを立て直し、その後マクドナルドへ来て、赤字を一年で黒字へ変えました。
二つの「マック」を復活させた原田マジックをビジネスの面から見ていきましょう。


(1)「地域別価格」〜最大60円値上げしても客数が増えた理由

今年のマクドナルドの動きで注目された一つが、「地域別価格」です。
例えば、ビッグマックセットは、大幅値上地域(東京、神奈川、大阪、京都等)は640円と60円も高くなりました。
一方、値下地域(宮城、福島、山形等)では560円と20円安くなりました。

この価格決定をする際、一年かけて、過去五年分の何十億枚ものレシートを分析し、購買動向を徹底的に調べたそうです。
他にも、地域別の消費者物価や県民所得、路線価、人件費上昇率も調べたのは言うまでもありません。

コストに基づいて価格を決めるのではなく、顧客の「プライス・センシティビティ(価格への受容性)」を数値化する「デマンドベース・プライシング」と言う価格設定手法を取り入れました。
つまり、顧客がこの値段ならば納得して払えると思える価格を地域ごとに調べて値決めをしたのです。

コストを価格に乗せた値上げですと、60円の値上げでは済まなかったそうです。
会社の都合だけではなく、顧客の感情との折り合いを見つける作業。
よく見極めなければ、成功しなかったでしょうね。

6月に導入したのですが、7月の全店売上高は8.8%、客数は9.5%も増えました。
この結果を踏まえて計画を前倒しした結果、全3,840店中、9割が値上げ店となりました。

「地域格差」成功には"からくり"があります。
値上げをしても客足が途絶えなかったのは、同時期に期間限定のクーポンを大量配布した為です。
7月の客単価は前月比マイナス2.6%。
つまり顧客は、値上げ前よりも安く商品を購入していた事になるのです。

地域別価格は、顧客単価の高い店が、顧客単価の少ない店を支える構造。
元々、マクドナルドはそういう構造だったのですが、それが顕著になりました。


(2)「売上高営業利益率」〜「マックカフェ」を立ち上げた理由

海外のマクドナルドで成功しているカフェ事業が、ついに日本にも登場しました。
8月末に15店舗がオープン。
ニュース等で取り上げられていましたよね。

●McCafe(マックカフェ)公式サイト
http://www.mcdonalds.co.jp/mccafe/

実はこのカフェ、原田CEOによる不採算店舗への対応策なのです。
冒頭にも書きましたとおり、驚異的な売上げであるマクドナルドですが、売上高営業利益率(本業で稼ぐ力を表す数値)は2.9%です。

一般の卸業で2〜2.5%。
製造・小売業で5〜6%。
ちなみにスターバックスコーヒーの売上高営業利益率は6.3%です!
これらに比べますと、いかにマクドナルドの利益率が低いかが分かりますよね。
マックカフェは、既存のマクドナルドより高めの価格設定なので、高収益が期待できます。
また、メニューに揚げ物がないので、莫大なコストのかかるフライヤー(揚げ物用調理器具)は不要。
他にも人件費等もコストが既存店よりかからないように工夫されています。

ただし単純な利益戦略ではなく、マックカフェも含めた全体で、客数拡大に向けたものだそうです。
つまり、マックカフェは「ブランド・エクステンション」戦略の一環なのです。
新メニューによって新規顧客の来店を促し、リピーターの来店頻度を上げ、既存店の売上げ、売上高利益率を更に伸ばすものなのです。

「ブランド・エクステンション」とは、企業が新製品を市場に投入する際に、既に確立されているブランド・エクイティ(ブランドそのものが企業にとって流通性を持った資産であるという概念)を利用して商品ラインやカテゴリー拡張をすることです。

例えば、「プレイステーション」のブランド名のもと、プレイステーションポータブルを販売するようなものです(まあ残念ながら、ニンテンドーDSに押され、爆発的ヒットには至りませんでしたが・・・)。

「ブランド・エクステンション」には二種類あり、既存ブランドの名の下に投入する「ライン・エクステンション」と、全く異なる市場に既存ブランドを利用する「カテゴリー・エクステンション」という戦略があります。

例をあげますと・・・

「ライン・エクステンション」
→プレイステーションとプレイステーションポータブル
→コカコーラとダイエットコーラ

「カテゴリー・エクステンション」
→ソニーとソニー銀行
→トヨタとトヨタホーム


話しをマクドナルドへ戻しますと、シドニー等の海外店舗において、マックカフェを併設した既存店の売上げが゜飛躍的に伸びたと言う実例があるそうです。
日本でも、恵比寿ガーデンプレイス店等、多くが既存店に併設されています。
これにより、マックカフェでカプチーノを買い、マクドナルドでフィレオフィッシュを買う等の組み合わせが可能となり、相乗効果が期待できます。

客数が増えると営業利益率は一時的に減りますが、客数が増え続ければ、また上向きます。
原田CEOはスタッフに、利益を考えず、客数だけ見ろと言っているそうです(複数の数字を見せると、現場が混乱するから)。


(3)「ブランディング効果」〜「メガマック」成功の理由

今年のマクドナルドで話題になった一つに、忘れてはならない「メガマック」と言う商品があります。
恐らく、年末の流行語大賞にエントリーされる事は間違いないでしょう。
見るからに高カロリー、高脂肪。
メタボの危険性が謳われている昨今、そのアンチ的な商品を投入したのはインパクトが大きかったですね。

実際に販売したところ大ヒットとなり、何度も期間限定販売を繰り返しました。
既存店の売上高が、前年同期に比べて15.6%も増加し、メガマックは大きく貢献しました。

このメガマックは、無策で販売をされた訳ではありません。
「7月20日〜8月9日までの21日間」と言うように、具体的な販売日数を限定することで、ブランディング効果(Amazing branding)を得ていたのです。

「ブランディング効果」とは、キャラクター等を商品のブランドとして採用することによって、商品の販売促進に役立たせる宣伝効果の総称。
例えば、コーラなどにStarWarsやHarry Potterなどのキャラクターを採用し、コーラの売り上げを伸ばすこともブランディング効果と言います。

「今しか食べられない」と言う価値を与え、お客の枯渇感を呼び起こし、「売上げ=客数×客単価」の数式の解を最大値へと導きました。


以上から私は、マクドナルドと言うのは、飲食店と言うよりも、商社のイメージを感じました。
食べ物を扱ってはいるけれど、その売上げを最大にする為の方法は、味や素材への拘りのような料理人的感覚での経営手法ではないなと。
あくまでも、ビジネスマンの視点から、食品をプロデュースしているのだと思いました。

一店舗だけで運営していくならば、料理人的な才能が必要。
多くの人が、そういう拘りのあるお店を求めています。
その反面、ファミレスのような、味よりも場所と時間、値段等を重視して利用するお店の存在も必要としています。

人の行動って面白い。
だからこそ、ビジネスのチャンスがあるのでしょうね。

Posted by kanzaki at 2007年09月16日 23:52