2007年12月09日

知恵は武器〜保険で幾ら支払っています?

かなり前の事なのですが、会社の総務の人がこんな事を言っていました。

「サラリーマンって、ぶっちゃけ、生命保険っていらないんだよなあ」

この言葉を遠くで耳にしただけなので、具体的な理由を聞くことはありませんでした。
けれど、やけに印象に残っていました。

時を経て、雑誌「PRESIDENT(2007.12.17号)」にその答えが書かれていました。
病気で入院しますと、お金が掛かりますよね。
ましてや、「ガン」と言う単語が付いた病気ですと、物凄い金額になると誰もが思うことでしょう。
よく生命保のCMで、「ガン、心筋梗塞、脳卒中の三大疾病などの特約」を大々的に宣伝しています。
特別に対応したものがあるぐらいです。
オプションとして申し込みをしておいた方がいいのだろうと思うことでしょう。
さてさて、そういう感じで申し込みをした人は、三大疾病で入院した際、どれぐらいの金額が掛かるかを理解しているのでしょうか?

例えば、胃ガンで一ヶ月の入院をした際、本人の負担額は幾らでしょうか?

胃ガンの平均入院日数は34.6日。約一ヶ月。
診療費は117.5万円(診療費、入院費、手術代込み)です。

「100万円以上するなんて、やはり高いなあ」と思うことでしょう。
医療保険はやはり必要だと感じたかもしれません。
しかし、その結論は早計。

診療費117.5万円とは、医療機関が国に請求する診療費の総額のこと。
患者の自己負担は、このうち3割のみです。
つまり、胃ガンならば約35万円です。
しかも、公的医療保険(組合健康保険、国民健康保険など)には「高額療養費制度」があり、一ヶ月の自己負担の上限額を超える場合、超えた分を国が払ってくれるのです。

高額療養費制度を申請すると、窓口で支払う金額は一般サラリーマンの場合、8万7,430円となります。
つまり、約8万円となるのです。

計算方法ですが、
ここで言う一般サラリーマンとは、70歳未満で、平均月収53万円未満のことです。
その場合、以下の計算式で算出します。

8万100円+(一ヶ月の医療費−26万7,000円)×1%

仮にひとつの医療機関で一ヶ月間にかかった自己負担額が100万円だったとしても、実際に病院の窓口で支払うのは、8万7,430円でよいのです。

更に高額療養費制度には、多数該当限度額という仕組みがあり、高額療養費制度に該当する治療を過去12ヶ月の間に4回以上(一ヶ月の入院を一回とカウントする)受けた場合、四回目からの自己負担額が大幅に引き下げられます。
一般サラリーマンの場合、四回目以降は最大4万4,400円で済みます。

以上を元に再計算します。
胃ガンの診療費を平均入院数で割ります。

117.5万円÷34.6日=約3万3,960円

その答えを30倍して一ヶ月の費用を計算します。

約3万3,960円×30日=約101万8,880円

この金額の3割が自己負担になります。

約101万8,880円×30%=約30万5,600円

これを先ほど説明しました高額療養費制度の計算式に当てはめます。

8万100円+(一ヶ月の医療費−26万7,000円)×1%

8万100円+(約30万5,600円−26万7,000円)×1%

よって、病院の窓口で実際に支払う金額は、「8万486円」にしかなりません。
胃ガンで一ヶ月入院した場合、自己負担がたった8万円だと知っていた人は、果たして何人いたでしょうかね。

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日本の公的医療保険(組合健康保険、国民健康保険など)は、他にも手厚い保護をしてくれます。

例えば、傷病手当という制度。
病気や怪我によって四日以上継続して労務不能な状態になった場合、標準報酬日額、つまり一日当たりの給与額の三分の二を受け取れる制度のことです。

それでも三分の一が減ると大ダメージのように思いますが、傷病手当には所得税がかからないため、実質的な手取り金額は元の給与水準に近くなります。

大企業だと、その傷病手当に上乗せして元の給与と同額を支給してくれるところもありますし、少なくとも一年半の間は、給与が貰えないという心配はいりません(ただし、国民健康保険には傷病手当はありません。サラリーマンが加入する組合健康保険などが対象)。

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保険会社のパンフレットには、入院するといくらかかるのか(必要保障額)が掲載されています。
その算出根拠の中に、「差額ベッド代」が当然のように算入されているのが分かります。
この差額ベッド代ですが、誰もが支払う訳ではないのです。
患者の同意が無ければ、差額ベッドに押し込むことはできません。
また、ホテルのスイートルームのようなところならば高額になりますが、実際のところ公立の病院ですと、一日1,000円〜3,000円程度です。
保険会社のパンフレットを鵜呑みにしてはいけません。

「ガン、心筋梗塞、脳卒中の三大疾病などの特約」を大々的に宣伝していますが、こんな契約はナンセンスです。
三大疾病は死因のトップ3であって、医療費のかかるトップ3ではないのです。
もっとも医療費がかかるのは、精神疾患(統合失調症、躁うつ病、パニック障害、適応障害など)だそうです。

精神疾患のうち、例えば統合失調症の平均入院数は、609.5日にもなります。
その診療費は、676.5万円にもなってしまいます。
二十ヶ月を超える入院となると高額療養費制度を申請しても、自己負担は100万円を超えてしまい、胃ガンの負担の比ではありません。

ガンはよほどの長期入院でもしない限り、公的保険でまかなえます。
しかし、精神疾患は厳しいのです。
だから、生命保険の「三大疾病特約」なんてナンセンス。
もっともお金のかかる精神疾患は対象外だからです。
保険会社にしてみれば、加入者がガンのように入院日数の短い病気にかかるよりも、入院日数の長い精神疾患にかかるほうが痛いのです。

一般的な民間医療保険は、入院一日当たり幾ら支払うという設計になっているので、一旦、退院してしまうと保障が受けられません。
しかし、精神疾患は退院後も自宅療法を続けたり、仕事も以前のように出来ない状態が長く続く可能性があります。
所得補償を目的とするならば、入院期間ではなく、働けない期間に対して保険金が支払われる「所得補償型」の保険・特約に入るほうが合理的なのです。
実際、開業医や弁護士など、傷病手当のもらえない個人事業主の多くが、所得保障型の保険に入っています。

病気の治療にかかる費用に対して保険をかけたいのならば、実損てん補型の医療費用保険を勧めます(精神疾患については、所得補償の保険・特約でカバー)。
入院一日当たりではなく、実際に入院にかかった費用(実損分)を補償してくれます。
補償の範囲は、自己負担額、高度先進医療費、差額ベッド代、その他の諸経費まで含まれます。
入院一日当たりいくらという定額制ではないので、実際にかかった費用よりも保険を多く受け取ること(保険太り)はないものの、不足が生じることもありません。

一般の保険は、退院してしまうとおしまい。
いざというときに備えるならば、所得補償型や実損てん補型の医療費用保険に入り、一方で、有利な金融商品に投資して貯蓄を増やしておくほうが懸命です。
極端な話し、一般的な医療保険に加入する必要がないのです。

まずは、ご自身が現在加入している保険を再確認してください。
きっと、自分にあった保険かどうか疑問が出てくると思います。
そうしましたら、いろいろとネットや書籍資料で検討してみてください。
人を頼ってはだめです。
その人のメリットにはなっても、あなたにはメリットが無いかもしれない。
そもそも、今回書いたような事を知っている人は、普通、あまりいないからです。
下手に色んな人に話しを聞きまくっていると、保険のおばちゃんのアンテナにひっかかり、勧誘に来るかもしれませんから。

生命保険って人生において、家の購入に次いで多くのお金を支払う「金融商品」です。
カバンや服、パソコンなどは、色々と吟味してから購入するでしょ?
それと同じように商品なのですから、あなたにぴったりの保険を探す時間を少しでも費やしても良いのではないでしょうか。

知恵は武器。
自分自身を守り、人生を謳歌するには、自分でいろいろと知識を吸収し、自分にあったものを選ぶしかないのです。
人に頼ってばかりではいけないのです。

Posted by kanzaki at 2007年12月09日 12:51