雑誌「PRESIDENT(2007.12.31号)」にて、マツダのコンパクトカー「デミオ」の開発経緯が書かれていました。
デミオは今年、RJCカー オブ ザ イヤーを受賞しました。
(この賞をとると、売上が良くないというジンクスが・・・)
●マツダ「デミオ」公式サイト
http://www.demio.mazda.co.jp/
三代目となるこの新型デミオですが、全面的なリニューアルが至上命令としてありました。
デミオのチーフデザイナーを務めたのは、前田育男(48歳)さん。
販売部門やエンジニア、生産ラインと連携を取りながら、車のデザインの一切合切をディレクションする役割を担っていました。
彼は以前、同社のスポーツカーRX-8のチーフデザイナーも経験しています。
レーシングドライバーにも憧れていた彼ですので、RX-8のデザインについては、「自分が好きな車を素直に形にすればよかった」と語っています。
しかし、新型デミオについては、相当苦労があったようです。
全面的なリニューアルとして、以下の課題が託されました。
1.軽量化して燃費とハンドリングを向上させる。
2.コンパクトカー本来の良さを具現化する。
3.日本では若い女性、欧州では若い男女にアピールするデザインにする。
とりわけ3番目の課題がネックとなりました。
エクステリアデザインを考えた幾つかのスケッチについて市場調査をしたところ、日本と欧州では好みが違っていたのです。
日本ではぷっくりとした丸みのあるデザインが好まれ、欧州では走りの良さをイメージさせるシャープなデザインが人気だったのです。
あまりにも対照的な好みだったせいで、日本と欧州の各地域で好まれたデザインの折衷案的なものを実物大のクレイモデル(粘土模型)で作成してみました。
このクレイモデルを前にして前田チーフは納得できませんでした。
「嫌われない車にはなっている。だけど、好かれる車にはなっていない」
前田チーフはこの段階で、デザインの失敗を認識しました。
しかし、この段階で既に一年余りを費やし、開発に数億の投資をしています。
普通だったら、後戻りできずに妥協していたことでしょう。
しかし、前田チーフは違いました。
「コンパクトカーはデザインが良くなければ絶対に売れない」
前田チーフにはこのような確信がありました。
そして、「デザインを一からやり直す」という賭けに出ました。
この決断を発表した日、チームは全員、午後から帰ってしまいました。
明日、誰も来てくれなかったらどうしようと不安だったそうです。
しかし、新型デミオのデザインは、この日を境に劇的に変化することになったのです。
前田チーフは新たなる提言を出しました。
「さっと一筆で書いても、それがデミオだとわかるようなデザイン」
「マツダのブランドアイコンになる車を」
デザイナー陣に気合が再注入されました。
そして僅か一ヶ月で、新たなデザイン案が仕上がりました。
異なる二案の折衷案に苦しみもがいていたデザイナーとモデラー達。
それが、前田チーフの決断より吹っ切れたのです。
完成した新型デミオは、三ヶ月で二万台を売る大ヒットとなりました(月間目標は五千台)。
ピンチをチャンスに変えた前田チーフ。
仕事に向かう心構えに対して答えた言葉は・・・、
「何があってもやり抜くという根性。根性あるのみです」
見た目や行動と違う、この骨太の精神が、土壇場においても本質を得た、地に足のついた決断をさせたのでした。
今回の成功談は、「迷いがあれば一からやり直す」がキーポイントです。
けれどこれは、非常に大きな賭けですよね。
その賭けに成功したからみそ、大きなメディアで紹介された訳です。
つまり、「普通にはありえない」ケースなのです。
もし商業的に失敗していれば、「それ見ろ。やはり、あの時に変な賭けをしなければよかったんだ」と陰口を叩かれます。
しかし、「賭け」と書きましたが、今回ご紹介しました前田チーフは、40代半ばでデトロイト駐在の経験をしております。
不利な状況下での仕事。
何度も限界を感じる日々。
そこで身に付けた根性が、デミオのデザイン変更という大きな賭けに対しての度胸や、「デザインを変更しなければ成功しない」という確信を感じ取れたのでしょう。
やはり人間は、多くの経験を積まなければ、的確な判断というものが出来ないのかもしれません。
勿論、ルールブックみたいな虎の巻があれば、経験の少なさをカバーできます。
しかし仕事をしていると、「未知のケース」「はじめてのケース」に出くわす事が多くあります。
そういう時、本当に焦ります。
理論より感情が前に出てしまいそうになります。
本当に正しい選択をしないと、多くの人が関係する仕事の場合、多大なる迷惑をかけてしまいます。
正しい判断をできるようになるには、豊富な知識と経験、多くの人脈が必要になってくるのでしょうね。
前田チーフの「迷いがあれば一からやり直す」は、実は完全なるリセットではないと思います。
いわば「再構築」なのだと思います。
そうじゃなければ、無駄な繰り返しとなってしまいます。
料理は、同じ材料を使っても、味の美味しさが人によって違うように、人の上に立って指揮する人と言うのは、この再構築が上手なのだと思います。
再構築は、「目の前にある現実の材料・技術」を使うので、夢物語ではありません。
一度は作り上げたものなので、良い面と悪い面を把握できます。
スタッフも、一度は行った事なので、前回の盲目的な行動とは違う、はっきりとした意識の中で作業が出来ます(全体を把握できた中での作業は、効率が良いし、精神的にも安定する)。
今回の記事を読んだ方は、この「再構築」に注目してもらいたいです。
企画・起案を通すときに、これは非常に重要なファクターだと私は思います。
再構築によってテーマを見出し、それを中心とした構成にすることで、相手にも理解してもらえて企画が通りやすくなるのです。
私は幾度となく、この再構築のおかげで助かりました。
人間、一度で完成品を作り上げるのは難しいもの。
質を高めるためにも、この再構築を意識してみてはいかかでしょうか。
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