クリスマス商戦へ本格的に突入しました。
今年、多くの人のお目当ては、「Wii Fit」だそうです。
●「Wii Fit」公式サイト
http://www.nintendo.co.jp/wii/rfnj/index.html
インターネット通販の予約は受け付け直後に締め切られ、店頭でも品薄状態が続きます。
次世代機が揃った家庭用ゲーム機。
その中で任天堂は主役に踊り出ました。
携帯型ですと、プレイステーションポータブルが約3,000万台。
ニンテンドーDSは5,364万台。
据え置き型ですと、Xbox360が1,340万台。
プレイステーション3が559万台。
Wiiが1,317万台。
これは今年9月末時点で全世界でのお話し。
国内の据え置き型を見ますと、Xbox360は壊滅状態。
プレステ3は値下げによって、じわりと上昇。
Wiiが常勝といった感じです。
そのWiiも、Wii Fitというフィットネス・メタボ対策機器の登場により、更に一般層の取り込みが拡大されることでしょう。
任天堂は「ゲーム人口を拡大したい」と、その一念でDSやWiiを開発し、子供が中心だったゲームユーザーを若い女性や中高年にまで広げました。
流行、社会現象というのは、コアなユーザー相手のみでは成立しません。
一般層を巻き込んでこその流行。
ハードウェアのハイスペック思考により、既存のユーザーのみを相手にして、内容が複雑化・肥大化する一方だったソニーの戦略は大敗する結果となったのです。
ゲーム業界に君臨する任天堂を会社理念という側面から見てみたいと思います。
参考にした資料は、日経ビジネス2007年12月17日号です。
任天堂には、社是・社訓、文字に残された企業理念といったものがありません。
創業家の山内溥が社長に就いたのは1949年。
当時はまだ、花札やトランプの会社に過ぎませんでした。
家業を継いだ山内は、新手の玩具を次々と生み出し、ついに83年に「ファミリーコンピュータ」という大ヒット商品を世に出すことになります。
山内曰く、
「明確な経営戦略などがあったわけではなく、文字通り試行錯誤の連続で、(中略)たまたま幸運に恵まれて、昭和55年からようやく急成長の波に乗った。要するに、任天堂は運が良かっただけなんですよ」
そして現在、「ニンテンドーDS」という大ヒット商品を世に送り出しました。
現社長の岩田聡はこう語ります。
「社是、社訓がない。ないことが任天堂イズムなんですよね。社是、社訓の通りに動いていたら人々は飽きてしまう」
企業理念のようなものが唯一あるとすれば、「一寸先は闇、運を天に任せて与えられた仕事に全力で取り組む」という社名の由来。
山内の言葉にもあるように、任天堂という会社は「運」を重んじます。
もちろん、単に運任せでやっていたら、国内3位の時価総額企業になんてなれるはずがありません。
任天堂の強さの源はなんなのでしょうか。
●いつも人に驚きを
岩田曰く、
「僕らにとっては、何かをしたことでお客さんが驚いてくれたり喜んでくれたりすることが最高のご褒美。それをエネルギーにしている。要は人々に受けたいんですね」
ニュースにて、ニンテンドーDSを授業に使っている学校が報じられてましたよね。
そんな風に、教育やら健康に利用されても、本分はどこまでいっても、「娯楽屋」だという信念があります。
娯楽用品は、あってもなくてもいいもの。
よって、人を驚かせることが出来なければ、商品は売れません。
岩田が求める社員像は、
「独創的で柔軟であること。これは文書として伝わっていないだけで山内の時代から変わっていない。任天堂がずっと守っていくべきことです」
日本初のプラスチック製トランプ、光線銃SP、ゲーム&ウォッチ、ファミコン・・・任天堂はいつも、世間をあっと驚かせることで、ヒット商品を連発し、その流れはニンテンドーDSへ受け継がれています。
ゲームが進化し、世間はゲームに慣れ、グラフィックや音が多少良くなっても驚きもしなくなりました。
そんな中、DSのタッチペンによる直感的操作と、見たこともないソフトで、ユーザーに新たなる驚きを与えました。
この「驚き」こと、任天堂の強さ。
岩田曰く、
「驚きの種を常に考える。それを続けてきた結果、新しい種を見つけたり仕込んだりすることが、組織として上手になったんだと思います」
任天堂は社内にて、多くの議論と試作を延々と繰り返します。
量産一歩手前でお蔵入りも珍しくありません。
驚きと同時に「説明不要」「安心・安全」という娯楽用品ならではの条件が開発の難易度をあげます。
簡便な操作を徹底的に追及し、安全対策に細心の注意を払います。
●禁欲の経営「己の分をわきまえる」
娯楽屋として人々に驚きを与えることを考えつづける。
その姿勢は決して背伸びせず「分をわきまえる」という企業風土にも繋がっていきます。
日経ビジネスから岩田社長へインタビューを申し込んだ時、社長曰く、
「我々は娯楽産業なので商品を通じての広報がすべてだと考えています。経営についてお話しできることは少なく、雑誌の特集なんて、そんな大それたところに出していただくような会社ではありません」
「しょせん娯楽屋、されど娯楽屋」。それ以上でも、それ以下でもない。
DSはゲーム機史上最速で世界5,000万台以上、国内2,000万台以上を出荷しました。
Wiiも好調な滑り出し。
そんな状況に岩田は曰く、
「商品の方向性に自信がありましたが、正直なところ、こういうスピードでこれほどのことが起きるとは思ってもいませんでした」
「世の中の皆さんが何をきっかけに大きく反応してくださるかというのは、いまだによく分からない」
ゲームソフト大手「スクウェア・エニックス」の社長・和田洋一曰く、
「任天堂は天狗にならない。謙遜じゃなく、本当に『自分たちはすごいんだ』とは思っていない」
「山内さんの時代から、娯楽という領域を外れず、余計なことを絶対にしない会社。財界活動もしないし、表にもあまり出てこない。禁欲的に本業に集中してきたからこそ、今の任天堂があるのだと思う」
禁欲的で慢心しない姿勢。
産業界は今、「メタボ特需」に沸いています。
任天堂の最新ソフト「Wii Fit」も、注目度の高い商品です。
しかし、当の任天堂は「追い風になればうれしい」としながらも、「あくまでもゲームですから」と冷静な態度。
医療サービスへ繋げて、収益拡大も可能なはずですが、絶対にしない。
事実、そういう計画はないそうです。
任天堂はゲーム人口の拡大を目指しつつも、自らの組織拡大へは慎重で保守的です。
岩田社長就任時から現在、売上高は3倍にも増えたのに、社員は1割程度しか増えていません。
岩田曰く、
「(企業買収などで)人員を増やしたところで、任天堂の文化にすぐ染められるわけではない。無理をすれば、うちの良さが失われる」
その考えは、お金の使い方にも通じます。
任天堂は9月末時点で、1兆円近くの現預金を保有しますが、お金が余っているとは決して考えず、リスクに備えるための必要な金額だと岩田は考えます。
「事業リスクはどんどん増大している。投資家にはきちんと還元しているし、状況が良いからといって、お金の使い方が変わることはない」
DS、Wiiがいかに売れようと、「禁欲の経営」を続けます。
岩田は10月末、証券アナリストを集めた経営方針説明会で、自らをこう戒めました。
「運にも、追い風にも恵まれ、2年前の3倍の規模のビジネスができるようになった。そうなると感覚が麻痺して、慢心や驕りが出てきてしまいまがち。2年前、3年前の姿勢を少しも変えずに維持できるか。ゲーム業界は、ほかの産業よりもドラスティックな変化が起きやすいことを常に肝に銘じ、経営に取り組んでいきたいと思います」
創業家の山内溥の座右の銘は、以下のとおりです。
「失意泰然、得意冷然」
うまくいかない時は焦らずに行動し、逆に好調な時には驕らずに真摯な態度で、ということ。
任天堂という企業を通し、我々の会社、生き方を見つめなおしてみるのも良い手だと思いました。
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