2009年02月26日

むくろじは百年磨いても白くならぬ

新聞の社説で「むくろじは百年磨いても白くならぬ」ということわざを引用していました。

●新潟日報 NIIGATA NIPPO On Line
http://www.niigata-nippo.co.jp/nipposho/index.asp?nipposhoNo=952

「むくろじは百年磨いても白くならぬ」ということわざがある。ムクロジは背の高い落葉樹で、その種子は羽根突きの羽根の球になる。硬くて真っ黒。何年磨いたところで、種の色は変えようもない
同じように「百年河清を俟(ま)つ」という格言もある。日本にも飛んで来る黄砂で濁った中国の黄河もまた、いくら待っても水が澄むことはない。どちらも実現しようもないもののたとえだ

上記のことわざや格言と、今回の年金改革の試算を重ね合わせて皮肉っています。

ムクロジというものを調べてみたところ、果皮には多量のサポニンが含まれているので水を泡立てる働きがあります。
そこでアジア諸国では、今なお洗濯などに広く利用しているそうです。
ムクロジの熟した果実は、果皮がつやのある黄褐色の半透明になり、中に一個の黒い種子を含んでいます。
種子はとても堅くてよく弾むので、羽子板の羽のおもりとして利用されたり、また煎って食べることもできるそうです。

「むくろじは百年磨いても白くならぬ」ということわざは、社説を読む限り、変わらないことが悪い事のような意味合いで書いていますね。

ガラパゴス諸島に暮らす生き物達から、進化を見る事が出来ます。
例えば、サボテンとカメ。
サボテンはカメに食べらないように、葉の位置を高いところに付けるように進化しました。
一方のカメは、その高い位置にある葉を食べられるようにと、首が異常に上へ長く伸びるように進化しました。

「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」というダーウィンの言葉があります。
これは後の創作であると言われていますが、言葉そのものは確かに納得できるものがあります。

それから行きますと、ムクロジの種が黒いままなのは「悪い事」のようにも感じられます。
しかしムクロジ自身は、種が黒い事で困っているわけではありませんから、変化する必要が無いのです。
当人は困っていないのに、他人である人間が、わざわざ種を白くしようと試み、そして失敗しているだけなのです。
白く進化する必要のないものに白くなれと言っても仕方がありません。
それを白くとしようとして失敗した人間が、逆切れして批判的にこんなことわざを作ったのは、人間の底なしの欲望の表れなのかもしれませんねえ。

「おくりびと」がアカデミー賞にて受賞して以来、それにまつわる事や「死」に関することが注目されてきました。
しかし、納棺師(のうかんし)という仕事は昔からあった訳ですし、死は誰にとっても避けて通れない永遠の問題です。
それらは何か進化した訳ではなく、「世間の目」というファインダーが、そちらへ目を向けただけなのです。
この「世間の目」というファインダーは曲者でして、すぐに視線を別の方へ向けたがります。
しかも、その向ける方向の特徴として、まだ誰も注目していないものが多いです。
そして、その注目したものがブームになると、まるでそれを作り上げたのは自分の功績だと言わんばかりに天狗になります。
ただそこにあるだけで、当人は別に変化したい訳でも、注目してもらいたい訳でもないのにね。

変化をしたいと思わない者と、無理やりそれに変化を求める者。
どっちが良識的かは、感覚的に分かりますよね?

確かに変化を起こすパワーというものは魅力的です。
アメリカの大統領選挙は、まさにこのパワーの象徴でした。

なんだかんだいってこの日本は、変わらずにひとつの事にひたむきにコツコツとやってきた人が評価されているように思えます。
また、その方が生活も安定しているようにも思えます。
変化は劇薬扱いなところがあり、「失敗しても自己責任」という副作用を持っています。

冒頭の中国の黄河をネタにした格言。
皮肉られていますが、「NHK特集 大黄河」というドキュメンタリー番組が作られぐらい、人を感動させる力があるのです。
当人は何も変わらないのに、見る人のファインダーによって、良くも悪くも印象が変わってしまうのです。

人の評価を気にしないで生きられるほど強い人間はいません。
しかし、コロコロと人によって変わる評価に一喜一憂するのはどうでしょうか?
ムクロジの黒い種は、印象はかわれど黒い種なのです。
人のファインダーをあてにして変化するよりも、確固たる不動な自分というものを磨いてはどうでしょうかね。
それは多分、ゆるやかな変化であり、これを人は普通、「成長」と呼ぶのでしょう。

Posted by kanzaki at 2009年02月26日 22:33