2009年10月26日

サンク・コスト(Sunk Cost、埋没コスト)という考え方

立命館アジア太平洋大学の中山教授曰く、

「高いリターン(儲け)を得ようとするのなら、損失を被ってしまうリスクを覚悟する必要があり、もし損失を避けたいのであれば、低いリターンで満足しなければならない」

つまり、簡単に儲かるような話しは、世の中に存在しないのであります。

これを株式投資の世界で考えてみましょう。
例えば、120万円の資産が92万円まで減ったとします。
さてこの場合、「懸命な投資家」ならば、どのような対応をすると思いますか?


・塩漬け? (値上がりすると思っていた手持ちの株が下がり、結果的に長期保有となっている状態をのこと)

・ナンピン買い? (保有している株価が下がったときに、さらに買い増しをして取得平均価格を下げること)

・損失を取り戻そうと、リスクの高いものに投資する?


いいえ、どれでもありません。
答えは、「120万円のことは思い切って忘れ、92万円を運用するのに最も適した投資対象は何か?」を考えることです。
目減りしたことを忘れ、今ある資産を運用する対象を冷静に検討するのが、懸命な投資家なのです。

サンク・コスト(Sunk Cost、埋没コスト)という考え方があります。


●サンク・コスト (埋没費用) ・・・事業に投下した資金のうち、事業の撤退・縮小を行ったとしても回収できない費用のこと。


企業が投資判断を行うに際して念頭に置く必用がある考え方です。
過去に使った費用は無視して、これからいくらの投資額が必要か、その投資に伴ってどれだけのリターンが見込めるか、ということを考えることなのです。

10億円の資金が必要な投資を開始して、3億円まで投資を進めたのに、経営環境が激変して投資計画の見直しが必要になったとします。
サンク・コスト的には、これから必用な7億円という投資に見合ったリターンを、将来に得ることが出来るか? という考え方です。
これまでの3億円を無駄にしたくないとの思いから、ズルズル投資を進めて行くことを戒めるものです。

上記の話しを読んでみて、これは別に投資に限った話しではないなあと思ったわけですよ。
人間、今まで築き上げてきたもの、続けてきたものを無駄にしたくないなあという思いが強く、新しい有益な方へ進むことが出来ない事ってありますよね。

サンク・コストの話しから、「コンコルド効果」を思い出しましたよ。
ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資をやめられない状態のことです。
超音速旅客機コンコルドの商業的失敗に由来します。

ズルズルと引きずってしまうのが人間の性なのでしょうが、この世の中、割り切ってしまい、さっさと新しいステージへ駆け抜けていった方が良い結果を生み出す事が多いですよね。
無駄な何かを捨ててしまうことで、残りの時間を有効に使うことは合理的な選択です。

一番身近で誰にでもありそうな事に、「携帯電話の電話番号やメールアドレスを変える」なんてものがあります。
電話番号やメアドを変えてしまったら、色んな人達との繋がりが切れてしまうんじゃないかと心配する人がいます。
しかし、この電話番号へ掛かってくる迷惑電話やメールアドレス宛に届く迷惑メールに困っていた場合、さっさと番号やメアドを変えてしまった方が楽です。
番号やアドレスは失うけれど、これで余計なストレスから開放されます。
案外ですね、電話番号やメアドを変えても、何とかなるものですよ。
実際、私がそうでしたから。
ちゃんと友人・知人とのコンタクトはとれるものです。
最近ですと、mixiやら色んなコミュニティのおかげで、連絡手段は幾らでもありますしね。

書いているうちに、映画「おくりびと」を思い出しました。
主人公は東京のオーケストラに所属していました。
しかし楽団が突然解散し、夢を諦め、チェロを売り払うことになりました。
1,800万円という高価なチェロをローンで買ったのに・・・。
主人公はその時、こう思いました。

「人生最大の分岐点を迎えたつもりだったが、チェロを手放した途端、不思議と楽になった。
今まで縛られていたものから、すーっと開放された気がした。
自分が信じていた夢は多分、夢ではなかったのだ・・・」

そして、妻の美香とともに田舎の山形県酒田市へ帰ることになり、いつしか納棺師として働くことになります。
音楽家としての地位、高価なチェロというものを失います。
決して回収できない埋没費用です。
けれどそれらが無くなり、引きずることが無かったからこそ、新しい道へ進めたのだと思います。

失ったとしても、新たなものが手に入る可能性がある。
それが人生だと思うし、やり直しがきくからこそ人生なんじゃないかなと思います。

Posted by kanzaki at 2009年10月26日 22:53