2010年09月10日

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んだ感想【2】

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前回の続きです。

組織のマネジメントを取り上げたビジネス書と野球がどう結びつくのか?
単純に考えたら、なかなか結びつきません。

けれどこの主人公は「考えた」のです。
考えることで、誰も思いもつかなかった事を実践しました。

まず、マネージャーとは何かを書籍を読んで考えました。
書籍「マネジメント」には、どんな人にマネージャーの素質があるかが書いてあります。
それは、「才能ではない。真摯さ」とありました。
なんだか救いがありますね。
それ故、ビジネスとは全く関係の無いところにいる主人公の女子マネージャーも頑張れるのです。
彼女は、その本に書いてある事を一つ一つ、野球に置き換えて考えたのです。


この作業は、ビジネス・経営・組織とか、なかなか姿形をつかみにくい事柄を読者である私達に優しく教えてくれる作業でもありますね。
この小説の良いところは、小難しい事柄を誰にでも分かりやすい例え(野球)に変換して教えてくれるところです。
頭の中にイメージが作り易いから、もしこの小説の元ネタである「マネジメント」を読んだとしても、何も知識の無い状態で踏み込むより理解がしやすいはずです。


彼女は書籍「マネジメント」を読み、野球部の定義というものを考えました。
そこへ、後に野球部のキャプテンになる部員の正義が登場(やはり、孫正義が元ネタか?)。
彼は野球の技術は未熟ですが、将来は起業をしようと考えているだけに、マネジメント等について熟知していました。
野球部へ入った理由も、心身を鍛えたり、人脈を作るためだったのです。
彼に言わせれば、自分たち野球部員も「顧客」だそうです。
なぜなら、部員がいなければ野球部は成り立たない。
高校球児が一人もいなければ、甲子園大会は成り立たない。
だから野球部員は、野球部の従業員であると同時に、一番の顧客である。
それを聞いた主人公は「感動!」と叫びました。

主人公は、「顧客が野球部に求めていたものは"感動"だったんだ」と気づきます。
親、先生、学校、都、高野連、全国のファン、自分たち部員、みんなが野球部に感動を求めていたのだと。
高校野球と感動は、確かに切っても切れない関係です。
高校野球の歴史は、感動の歴史と言ってもいい。
主人公は、「野球部がするべきことは、顧客に感動を与えること。顧客に感動を与えるための組織というのが、野球部の定義だったんだ」と興奮します。

定義が決まり、次に目標が決まりました。
それは「甲子園に行く」ということ。
その為に主人公は、マーケティングを行ないました。

マーケティング(marketing)とは、企業や非営利組織が行うあらゆる活動のうち、「顧客が真に求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動」の全てを表す概念。

主人公は、結束感の無い野球部を奮い立たせるため、このマーケティングについて、いろいろと考えました。
そして、入院中である親友(彼女も野球部マネージャー)と考えました。
どうしたら、もっとみんなの現実や欲求や価値を知ることができるか?
どうやったら聞き出せるか。
あるいはどうすれば、彼らの頑なな心を開くことができるのか。
それを知るために、野球部員一人ひとりが、この入院中の親友の所へ行き、面接をすることになりました(面接の相手は、主人公の親友がメインに行う)。
野球部員それぞれが、野球部に入った動機、目標等を持っていることが分かりました。
けれど、それなのに練習に打ち込めない理由というものも、各人それぞれあったのです。
こうやって相手のことを知ることで、表面的には理解できなかったその態度の理由が分かったのです。

面接なんて、みんなやりたがらないと思っていた主人公ですが、実は逆に、野球部員達は自分たちの事をもっと知ってもらいたいという願いがあったのです。
面接が終わるたびに主人公と親友は、その面接を分析しました。

面接が終わると、主人公が取り組んだのは「マネジメントの組織化」です。
一人で取り組んでいた事を、何人かのチームで行うようにしました。
そこへ、今まで監督らしい事をしなかった監督も参画させようと考えました。

この監督は、自身も高校時代に野球部に所属し、多大な功績を残しました。
野球の知識も豊富。
しかし、コミュニケーションに問題があった。
専門家故、専門用語を使いがちです。
それを聞く側は、専門用語故が理解できない。
マネージャーとして、組織の目標を専門家の用語に翻訳したり、逆に専門家のアウトプットをその顧客(野球部員)の言葉に翻訳したりしました。
監督の「通訳」になることが、自分たちマネージャーには必要な役割だと考えました。

主人公は監督へ、部員達との面接の結果を伝えました。
これにより、今まで特に監督とピッチャーの間にあったわだかまりの原因が分かりました。

こんなことがあり、部員達にヤル気が芽生え始めました。
監督、キャプテン、マネージャーたちが練習方法について考えました。
書籍「マネジメント」には、「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである」とあります。
組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することにある。
そして「人は最大の資産である」という言葉に主人公は興奮しました。

今まで、野球部員が練習をサボってきたのは、練習に魅力がないから。
これはマーケティングで言うところの「不買運動」「ボイコット」と同じ。
練習をサボるのは「消費者運動」。
練習をサボる・・・ボイコットすることで、内容の改善を求めていたのです。

主人公は、聡明な後輩女子マネージャーに、魅力的な練習メニューの作成を依頼しました。
それには当然、監督の知識が必要。
二人で協力して、魅力的で、野球部員達が進んで参加できるようにするメニューを考えました。

野球部員達は、練習はサボるくせに、試合には必ず参加します。
試合には、魅力があるのです
それがヒントとなりました。
試合の魅力を分析し、「競争」「結果」「責任」というキーワードで考案しました。
その結果の一つが「チーム制」の導入です。
野球部員を三つに分け、互いに競わせるのです。
チーム制を導入した上で、ピッチャーは別メニューにわざとしました。
ピッチャーは特別な存在。
別メニューを用意し、特別扱いした方が良いと考えたのです。
これも成果がありました。

書籍「マネジメント」を主人公以外のマネージャー、監督他も読むようになり、そこに書いてあること一つ一つについて、みんなで解釈を話し合いながら、具体的なやり方へ落としこんでいきました。

その後も「自己目標管理」「道具(野球用具だけではなく、パソコンによるデータ・スケジュール管理)」等も取り入れていきました。

練習も軌道にのり、次に「甲子園へ行く」というレベルに上げるため「イノベーション(新しい満足を生み出すこと)」を考えました。

古い常識を打ち破り、新しい野球を創造しようというのです!!
そして「ノーバント・ノーボール作戦」を生み出しました。

書籍「マネジメント」には、「組織は、社会の問題の解決に貢献する役割がある」とあります。
これについても主人公たちは考えました。
自分たちが取り組んできたマネジメントの方法を、野球部以外にも広げてみようという事になりました。
これにより、社会問題について貢献しようというのです。
他の部のマネジメントのコンサルトや、少年野球教室等を行うようになりました。
これが、部員達に満足感を与え、他の部活動のみんなが、野球部を応援・バックアップするきっかけにもなったのです。

いろいとやってきた事を踏まえ、ついに夏の高校野球大会が始まりました。
今までの成果がちゃんと現れ、ことごとく勝っていきます。

そして、地方予選決勝戦前日の事。
主人公の親友が病気で死んでしまいました。

主人公は、本当は野球が嫌いでした。
小さい頃、父親の影響で野球をするのが大好きだったのですが、成長するにつれ肉体的に、男子に離されます。
そして、そもそも女子は野球部で試合に出られない。
それが、ショックで嫌いになったのです。

けれど、病弱な親友の為に野球部のマネージャーになったのです。
しかし、その親友が死んで自暴自棄になります。
部員達も、身近な死というものを目の前にして、満足に眠らないまま試合へ挑みます。

この辺のくだりは、この小説を書いた著者のエンターテイメント性を感じさせます。
王道的なパターンではありますが、今まで「マネジメント」を中心に順調に進んできた者達を一旦、奈落へ突き落とし、そこから這い上がることでドラマとして成立させる。

この辺からの展開は、あまり「マネジメント」が関係なくなります。
その代わり、野球小説・・・・・否、野球漫画的な展開で、読者を最後まで読ませます。

理屈的な部分で進めてきたお話しに、ちゃんと「感情」というエッセンスを与えてやる。
こういう、エンターテイメントを考慮してあるところにも、ヒットの要因があるのかもしれません。

この後、どのようになるのかは小説を読んでみてください。
文章量はそれほど多く無いですし、つまづくことなく読了できると思いますよ。

Posted by kanzaki at 2010年09月10日 06:05