前回の続きです(講演の模様は、今回がラスト)。
●前回の記事: 2010 NIIGATAショップデザイン賞関連企画「魅力ある店づくりから始まるまちづくり」シンポジウム〜川島蓉子(かわしまようこ)さんによる基調講演【2】
http://kanzaki.sub.jp/archives/002258.html
・和菓子の老舗「虎屋(とらや)」
●とらやグループトップ|株式会社 虎屋
http://www.toraya-group.co.jp/
最後に虎屋を通じ、企業の事例とあり方を話して終わりたいと思います。
私は取材するまで、虎屋という企業を詳しくは知りませんでした。
「夜の梅」という有名な羊羹があるのですが、それをちゃんと食べた事もありませんでした。
羊羹というものに、ちょっととっつき難いイメージがあったからです。
48代目の社長・黒川光博さんにお会いする機会がありました。
面白いと感じてインタビューをして、更に話しを聞いてますます面白くなり、ついには本を書きました(多分、"虎屋ブランド物語"という著書だと思います)。
何に一番心が動いたかと言うと、虎屋の企業理念です。
企業理念「伝統は革新の連続である」
480年の歴史があるのに、伝統は革新であると言える事に感銘しました。
その理念に感銘したことを伝えると、社長は「それが問題なんだよ」と返ってきました。
伝統は480年もあるのだから放っておいても良い。
伝統を置いていって、革新、革新とやっていかないと、企業は良くなっていかないと言うのです。
それで最近手がけたのが三つのプロジェクトです。
「TORAYA CAFE/トラヤカフェ」
http://www.toraya-cafe.co.jp/
「虎屋菓寮(とらやかりょう) 東京ミッドタウン店」
http://www.toraya-group.co.jp/shops/sho04.html
(講演では、"とらやミッドタウン店"と紹介していましたが、多分この事)
「とらや工房」
http://r.tabelog.com/shizuoka/A2204/A220402/22004106/(食べログ)
http://ameblo.jp/toraya-kobo/(とらや工房の店員ブログ)
常に新しい虎屋を社員に考えさせるところが、虎屋という企業の面白いところです。
・「虎屋菓寮(とらやかりょう) 東京ミッドタウン店」
本店は赤坂にある古い建物です。
ミッドタウン店は、「第二の本店」と言っていいぐらいに社長が力を入れたプロジェクトでした。
「第二の本店」ですから、物凄く厳しいプロジェクトです。
しかし社長は、社内公募制にしたのです。
全社員に対して、こんな虎屋が作りたいというアイディアを出させました。
一等賞をとったのは、当時26歳の女性社員でした。
「今の本店は友達においでよと言えないのだけれども、第二の本店は友達に気楽においでよ」と言えるようなお店を作りたいと企画書にして出しました。
プロジェクトチームも結成されました。
上司の許可を取らなくて良いということで手を挙げさせて、30代4名が決まりました。
26歳の女性社員を含めた5名のプロジェクトです。
新しい虎屋を作るには、そもそも虎屋とは何なんだという事が分からなければいけません。
議論はそこに及びました。
自分たちの考えを立てては経営会議にかけ、却下されることを何十回も繰り返しました。
そうしていると役員たちの考えも変わってきました。
「俺たちの考えていた虎屋って、もしかしたら古臭いんじゃないか」
若者たちは若者たちで、「これからの虎屋を考える際、軽々しくやってはいけないんじゃないか」となっていきました。
それ以外の人達もざわめいてきました。
40代の人達も「俺たちは蚊帳の外にいていいのだろうか。みんな楽しそうにやっているけれど、俺たちも虎屋を考えたほうがよいのでは」と思いました。
結果的には、全社員が何らか、これからの虎屋について考えた良いプロジェクトになりました。
しかも素晴らしいのは、形にしたことです。
この新しい店へ行けば、うちの会社はこういう方向へ向かっているのだと分かるわけです。
ブランドを作るにあたって、非常に明快なやり方だったのではないかと思います。
しかも形にするにあたり、一流のクリエイターを起用しました。
インテリアは建築家の内藤廣(ないとう ひろし) さんが担当。
この方は2010年より、東京大学の副学長をされています。
●公式サイト:Hiroshi NAITO
http://www.naitoaa.co.jp/naito/top.html
●とらや 東京ミッドタウン店について、内藤 廣さんと黒川 光博社長の対談
http://www.tansei.net/kikanshi/no27/toraya/toraya.htm
のれんは、サントリーウーロン茶などを手がけた葛西 薫 (かさい かおる)さんというアートディレクターが担当。
●サン・アド公式サイト(葛西さんは取締役副社長)
http://www.sun-ad.co.jp/
お菓子そのものは、料理研究家の長尾智子(ながお ともこ)さんを起用。
●vegemania.com | Tomoko Nagao
http://www.vegemania.com/
もちろんお客様に対して、これからの虎屋というものを提案しているのですが、社員にもこれからの方向を示すことが出来た良いプロジェクトだったと思います。
そして、川島さんが感動したのは、このプロジェクトを任された女性社員の顔がどんどん変わっていったことです。
自分が提案した事が形になる、お客様からの反応が出てくるという事で、みるみる自信のある顔になっていったのを見て、とても心が動きました。
・「TORAYA CAFE/トラヤカフェ」
社長が危機感を持っているのは、「これからの若者は、羊羹を食べ続けていってくれるのか?」「和菓子が暮らしの中で生き続けていくことが出来るのか?」です。
ファミリービジネスですから、凄く長期的にブランドを考える必要があります。
和菓子の行く末を考えると、もう一つのお題は「虎屋が作るもう一つのお菓子」。
羊羹でも和菓子でもない、もう一つのお菓子はなんだろうかと言うことを探っていった結果、結局は「餡子」というところに行き着いたのです。
アズキを使った焼き菓子や、あんペーストを用いた葛ゼリー等があります。
(トラヤカフェ公式サイトの「メニュー」をご参照ください)
色々と創意工夫されているものの、この会場でまだご存知の方がいないという事は、まだ伝えることが出来ていないというあらわれの一つだと思います。
・「とらや工房」
御殿場にある施設です。
社長の口癖は、「所詮は和菓子屋でしかないんだと自覚して稼業をやっていかなければいけない」。
この工房では、徹底して和菓子の原点を研究しています。
綺麗な庭園のある場所です。
この施設では茶房までのテラス沿いが全面ガラス張りになっています。
ガラス越しに、餡子を練っているところ、職人がお菓子を作っているところ等を見学できます。
最後まで行きますと、セルフサービスで、出来立てのお菓子とお茶をいただけます。
普段は近所の方や、和菓子好きな女性がやってくるそうです。
この工房では、虎屋が手がけていないお饅頭、大福、どら焼き、きんつば等を作っており、全て餡子が違います。
・伝統のある企業というのは、先端的なこともやりつつ、足元もきちんと見ています。
エルメス、シャネル、虎屋、どこもそうです。
それじゃあ、まだ伝統もない新しいお店はどうすればいいのか?
新しいお店は、いずれそれが歴史になっていくのですから、今やっていることをきちんと続けていかなければいけません。
きちんと続けることを前提にして何をしなければいけないかを考えなくてはいけません。
・今、「地方に元気が無い」「商店街に元気が無い」と聞きます。
また、そのほかに「企業に元気が無い」。
何故、企業に元気が無いのかと、相手の話しを聞いていると「自信を無くしているから」でした。
新製品を作っても作っても売れない。作っても作っても価格が下がる。中国・韓国が急速な勢いで押し寄せている。
そんな状況なので自信を無くしているのですけれども、もう少し客観的に考えると、海外では日本に価値を感じる人がまだまだいます。
元気が無い時代ですけれども、ささやかにどこかに元気と誇りを持って仕事をしていってもらいたいです。
※※※
講演は以上でおしまい。
私の考えについては、この後に行われたパネルディスカッションについて触れてから書こうと思います。
パネルディスカッションの模様については、少し日を置いてから書きたいと思います。
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