2011年04月03日

「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【4】〜読者の心を引きつける書き出し。洋数字と和数字の違い

前回の続きです。

●前回の記事: 「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【3】〜裁判員制度発足で新聞記事の表現が変わった。「視線」か「目線」か業界用語の基礎知識
http://kanzaki.sub.jp/archives/002321.html

(第四章・書く力を磨こう)

●重いテーマを読ませる工夫

スピーチの場合、冒頭で聞き手の心をつかめさえすれば、最後まで自分の話しに耳を傾けてもらえるかもしれません。
文章も同じで、「何のこと?」と関心を引いたり、「もっと先が読みたい」と思わせるよう、もったいぶってみたり。
「さわり」の部分に工夫を凝らすことが文章を書く秘策だと、池上さんは語ります。

あるテーマを追い続ける連載記事の場合、読者が必ず読んでくれる保証はありません。
なんとか読んでもらえるように、さまざまな工夫を凝らします。
池上さんは、そういった工夫を見つけ出すことを楽しみにしています。

読者を引きつけるコツがわかれば、自分の文章力向上に繋がるからです。
新聞は、勉強材料の宝庫なんですね。

朝日新聞に、太平洋戦争末期のメディアの立場について書かれた連載がありました。
重い内容です。

そのような記事の出だし(連載9回目)はどうだったかと言いますと・・・

「その日の早朝、当時30歳だった朝日新聞西部本社通信部の記者、岸田栄次郎(92)は列車で広島を通った」

いきなり「その日の早朝」で始まっています。
「その日とはいつのことだろう」と思い、つい先を読みたくなります。
やがて、「数時間後の45年8月6日午前8時15分」という描写が出ます。
「その日」とは、広島に原爆が投下された日の事だったのです。
ここまで読者をひきつければ、その先も読んでくれることでしょう。

●読者の心を引きつける書き出し

いきなり冒頭で、

「あ」とか「お」とか、小さな声を発して読み始めた方もおられよう。

こんな書き出しで始まったのは、2008年3月31日の朝日新聞の「天声人語」です。
この日から活字が大きくなり、「天声人語」の欄が大きくなったことを紹介する導入部分です。
読者の目を引きつける、うまい工夫がされた出だしですよね。

各新聞の一面下に掲載されるコラムは、いずれも各社を代表する名文記者が書いています。
読売新聞ですと「編集手帳」、毎日新聞は「余録」、日経新聞「春秋」。

・asahi.com(朝日新聞社):天声人語
http://www.asahi.com/paper/column.html

・社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/

・余録 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/

・社説・春秋 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/news/editorial/

上記以外の新聞でも、1面コラムはネットで読めますので、気軽に読み比べできますよ。

神崎が学生だった頃、文章を上手に書けるようになりたけれぱ、これらを紙に書き写してみると良いと言われました。
限られた文字数の中で、いかに読者を引きつけ、最後まで読ませるか。
文章のリズム等も書き写すことで理解できます。

池上さんも語っていますが、改行のタイミングや行間の妙は、紙面でないと伝わりません。
ネットでもコラムは読めますが、新聞紙面とはレイアウトが違うからです。
そういった巧みさを読む為にも、実際に新聞紙面で確かめるのも良いでしょうね。

●洋数字と和数字の違い

池上さんがテレビのキャスターをされていた頃、視聴者から抗議を受けました。
「二人組」を「ににんぐみ」と読んだからです。
視聴者の抗議は、なぜ「ふたりぐみ」と読まないのかということでした。
本当は、「ににんぐみ」が正しいのですよ。
間違った読み方の方を使う人が増えた例です。

「二人組」ではなく「2人組」という表記ですと、なんと読みますか?
「二人」は「ふたり」と読みたくなりますが、「2人」だと「ににん」と読んでも違和感は少ないかも。

池上さんの本ではじめて気づいたのですが、各新聞紙は記事に、漢数字ではなく洋数字を多く使うようになりました。

確かに、三千四百五十六億円と表記するより、3456億円と書いたほうが、一瞬で金額を把握できます。
活字が大きくなって、以前より文字数の減った新聞としては、文字スペースの節約にもなります。

全国紙は以前から洋数字を多用していましたが、2009年6月1日から地方紙も一斉に洋数字を増やしました。
理由は、地方紙に記事を送る共同通信社が方針を変えたからです。

いくら洋数字を増やすといいましても、「二人羽織」を「2人羽織」、「同行二人」を「同行2人」とは書けません。
地方各紙は、洋数字の使用を拡大する方針を知らせる社告の中で、「十五夜」「三寒四温」のように、数字を含む熟語や慣用句などは、従来通り漢数字を使うと説明しています。

洋数字は事実を伝える事務的な道具ですが、漢数字には、使い手の思いも込められています。
「中国新聞」のコラムでは、こんな事が書かれています。

「2人で3時間」と書けばアルバイトの時給計算のようだし、喫茶店で話が弾むカップルならば「二人で三時間」と書きたいところ。

ちなみに、神ナナでこの本の記事をレビューする際、(第四章・書く力を磨こう)等と、各章を漢数字で表記しています。
池上さんの本は英数字表記です。
本のレビューに、神崎の意見や考えを含めたアナザーバージョンだという意味合いを含んでいます。

洋数字か和数字の違いでもそうですが、英語表記かカタカナ表記かでも読みやすさが変わります。

「アイフォーン」と「iPhone」
「ユーチューブ」と「YouTube」

英語のほうが見慣れて分かりやすいものもありますよね。
どちらを選ぶかにも、書き手の情報感度の高さが問われていると池上さんは語っています。

この章で感じたのは、日本語の奥深さです。
同じことを伝えるにも複数の方法があります。
文字数を増やしたり減らすことで、リズムを変化できます。
直接的には書かなくても、読み手にテーマを伝える技法もあります(俳句とか)。

海外の人には、それらが日本語の難しさと思われてしまうかもしれません。
しかし、相手を思う気持ち、優しさを含ませるには、とても素敵な言葉だと思います。

そういう文化は廃れたかと言いますと、そうでもありません。
携帯電話のメールに、それがあらわれています。
顔文字や絵文字等がそれにあたるのかと。

「ありがとう」「応援しているよ」と単に書かれているより、その後にハートマークや笑顔の絵文字が書かれている方が嬉しかったりします。

年齢や、相手との人間関係の距離によって、顔文字・絵文字を使ったほうが良いかは、良し悪しです。
しかし、相手を思って「この文章の後に、この絵文字を入れよう」と考える動機は「優しさ」です。
その顔文字・絵文字にも意味があるのです。

そういったものも、心を表現する良いツールだと思いますよ。

(続く)

次回の記事: 「池上彰の新聞活用術」を読んだ感想・レビュー【5】〜新聞記者の資質として必要なものは何か?読者に対する想像力が大切
http://kanzaki.sub.jp/archives/002323.html

Posted by kanzaki at 2011年04月03日 23:29