2012年03月05日

新入社員へお勧めする本〜夏目漱石「道楽と職業」・黒井千次「働くということ」


(Invisible Mercedes。透明なベンツですよ。まるで攻殻機動隊の光学迷彩みたいですね)

4月になると、新入社員の皆さんがやってきますね。
本田有明さん(本田コンサルタント事務所代表)は、そんな新人の皆さんへお勧めする本が、二冊あるそうです。

・夏目漱石「道楽と職業」(講演集「私の個人主義」より)
http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card757.html

・黒井千次「働くということ」
http://amazon.jp/dp/4061456482
hatarakutoiukoto01.jpg

※※※

【夏目漱石「道楽と職業」】

仕事は、「道楽」と「職業」に大きく分けられます。

道楽は、己のためにする仕事。
職業は、人のためにする仕事。

また、生活のあり方としては、「自己本位の生活」と「他人本位の生活」に分けられます。

夏目漱石はこの講演にて、こう語っています。

「職業というものは要するに人のためにするものだという事に、どうして根本義をおかねばなりません。
人のためにする結果が己のためになるのだから、元はどうしても他人本位である」

「昔に盛んであった禅僧の修行などというものは極端な自己本位の道楽生活であります。
彼らは見性(けんしょう)のため求真のため、すべてをなげうって坐禅の工夫をします。
黙然と坐している事で何で人のためになりましょうか。
善い意味にも悪い意味にも、世間とは没交渉である点から見て彼ら禅僧は立派な道楽ものであります」

かなり極端なほど単純明快です。

夏目漱石は、道楽と職業の間に、もうひとつ折衷的な領域があると指摘しています。

それは「道楽的職業という一種の変体」です。

「芸術家とか学者とかいうものは我儘(わがまま)のものであるが、その我儘なために彼らの道において成功する。
彼らにとって道楽すなわち本職なのである。
至って横着な道楽者であるが、既に性質上道楽本位の職業をしているのだから已むを得ないのです」

絵描きや物書きのような「道楽的職業という一種の変体」に携わる人が一般市民の尊敬を集めるようになったのは、歴史的観点でみると、おおよそ30年前くらいです。

今では多彩な職業が生まれ、職業観も多様化しました。
そのうち、「道楽的職業」の領域に注目が集まるようになりました。
典型的なのは横文字ワーカーです。
デザイナー、コピーライター、アーティスト、パフォーマー、シンガーソングライター、ゲームクリエイター等です。

自己本位の道楽そのものが他人本位の職業として成立し、より多くの報酬を得られる時代になりました。

※※※

【黒井千次「働くということ」】

夏目漱石の時代から一世紀が経過します。
職業と道楽、道楽的職業だけでは、仕事を語れない時代となりました。

黒井千次さんの「働くということ」は、著者が作家として独立するまでの15年間、自動車メーカーで働いた体験と教訓を若い読者へ向けて書いたものです。

「ぼくは就職する企業での仕事を決して一生のものとは考えず、いわば実社会なるものを学ぶための不可欠の手段の一つとして受け止めていたにすぎなかった。
そのために実社会で生きる最初のほんの幾年かを企業で暮してみればよいのだ、といった軽い思いしかぼくの中にはなかった」

黒井さんの夢は作家になること。
企業人としての体験は、「芸のこやし」の位置づけでした。
夏目漱石の本でいうところの、「道楽的職業」に就くための職業観察にすぎなかったのです。

しかし結果は、30代後半までの15年間、ずっと企業人として働いたのです。
この本は、どうして働き続けたのかの答えを巡る考察本なのです。

「実際に会社にはいって働き出してみると、学生時代に頭に描いていた目論見がいかに軽薄で安易であったかを痛切に知らされねばならなかった。
初め三、四年が過ぎたとき、ぼくにわかったのは、会社などというものはそのくらいの期間を中で過ごしてもなにもわかりはしないのだ、という厳粛な事実であった」

とある会社の新人研修では、この本を読ませ、感想文を提出させているそうですよ。
マナーやエチケットの指導だけでは、社会人としての重要なポイントは伝わらないからだそうです。

本田さんは、仕事とはなにかを考える上で、上記二冊ほど示唆に富む本は滅多にないと語ります。

※※※

私は、「働くということ」の著者より長く会社勤めをしています。
同じ会社でこれだけ長く勤めていても、まだまだ初体験の連続です。
その度に、どうすれば遂行できるかを考え、チャレンジしています。

私が幸運なのは、良き仲間・良き外部の方々に恵まれたことだと思います。
皆さんと一緒にやってきたからこそ、ここまで来れたのです。

自分の才能のおかげと思ったことは、一度もありません。
「感謝」という言葉を実感したのは、仕事の中からです。
人との繋がりのありがたさを学んだのも、仕事の中からでした。

仕事はお金を稼ぐ場所という考えだけだと、長続きしないと思います。
いろんな事を学べ、それを実践できる最良の場所と考えてみてはどうでしょうか?

一日のうちで最も長く居る場所です。
自分の五感で受け止める情報の量・質ともに、プライベートとは段違いの豊富さです。

失敗や己の小ささに嫌になることもあります。
それも生きた教科書だからこそ分かる事です。

最近のビジネス書・・・特に私より年下の人が書いたビジネス書には、「会社が嫌になったら、さっさとやめろ。その直感は正しい」と書いているものが多いです。
その傾向に、ちょっと驚いています。
感情だけの決断は、時間の経過と共に後悔が増すように思うからです。
なんで、辞めようと思う原因を他の人達と一緒に改善してみようと考えないのかなあと思います。

もし学生さんで、たまたまこの神ナナへ訪れた方がいたら、定期的に読んでみてください。
社会で頑張っている色んな人の姿、世の中の仕組みやライフハックをなるべく平易な感じでご紹介しているつもりです。

Posted by kanzaki at 2012年03月05日 23:24