2012年12月31日

映画「レ・ミゼラブル」の感想(ネタバレあり)〜民衆の力というものを映像化した傑作

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今年最後の記事は、私が観た映画「レ・ミゼラブル」の感想です(注意:ネタバレあり)。


●映画『レ・ミゼラブル(Les Misérables)』公式サイト
http://www.lesmiserables-movie.jp/

●Les Misérables - YouTube(予告、メイキング、インタビューなどの動画集)
http://www.youtube.com/user/LesMiserablesFilm?feature=watch



(映画『レ・ミゼラブル』予告編 - YouTube)



(メイキング:Les Misérables - Craft Featurette: Sound Mixing / Editing - YouTube)


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(人物相関図)



【大ヒットした要因】


原作は、ヴィクトル・ユーゴーが1862年に書いた大河小説です。
ミュージカル版が有名ですよね。
しかし私も含めて、実際のストーリーを知らない人も多いはず。
過去にも映画化されていますが、今回の映画版は、この作品を体験する人達の裾野を広げたものだと思います。


実際、日本でも大ヒットしていますよね。
私はクリスマス・イブの昼間、母と観たのですが、客席が満杯で驚きました。
ここ最近、客席が埋まるような作品は、SF超大作か漫画原作アニメじゃないですか。
今回のような古典文芸作品で、一般大衆・ライト層に気に入られるのは、なかなか珍しい事だと思います。
おかげで、SFやアニメに興味のない中高年の皆さんも足を運んでいます。


「X-メン」主役ウルヴァリン役のヒュー・ジャックマン。
「グラディエーター」主役マキシマス役のラッセル・クロウ。
「プラダを着た悪魔」アンドレア役のアン・ハサウェイ。
日本でも有名な俳優達が出演していることも、ヒットの要因かと思います。


また、予告などの宣伝に際し、あまりミュージカル的な部分を見せなかったのもヒットの要因ではないでしょうか。
ミュージカルと言うと、劇中で突然に歌い出す印象を持ち、毛嫌いする人も多いですからね。
実はこの作品、殆どの台詞が歌です。
終始歌い続けるミュージカル映画というのも珍しいのではないでしょうかね。
台詞と歌がちょくちょく切り替わるぐらいなら、今回のように終始歌いあげるほうが、観ている人が作品の世界観に引きこまれて違和感が無いように思います。


大河小説なので、登場人物が非常に多いです。
しかし、人間関係や心情を歌で説明しているから、観ている方も理解しやすいです。
しかも、その歌詞を字幕で表示されていますからね。
普通の映画なら、そのような説明台詞は禁じ手なのですが、ミュージカルですから許せてしまいます。



【漫画的キャラ設定の登場人物】


劇中に出てくる人の数は多いのですが、重要な登場人物は、上記の人物相関図だけで、ほぼ事が足ります。
原作が古典文芸なのですが、主要人物のキャラ設定は、現代の日本の漫画・アニメ・ラノベの典型的な性格です。
そのおかげで、現代の私達でも、感情移入しやすいです。
既に原作にて、1862年に、王道的キャラ設定が確立されていた事に驚くべきでしょう。


主役のバルジャンは、憎んでいた人間社会をむしろ救う立場へ改心するのは、特撮ヒーロー的です。


バルジャンを追う警察のジャベールは、主役のダークサイドを投影する立場、真逆の信念を持つ立場であり、ジャンプなどの少年漫画に出てくるライバル的です。
バルジャンの信念が「救い」なら、ジャベールは「罰」。
バルジャンにとっては天敵なのに、彼に命を救われ、自分の考える正義・信念が崩れ、自殺するのも王道ですね。


今回の映画で脚本がうまいなあと思ったのは、バルジャンとジャベールの確執などを冒頭の1シーンだけであらわしていた事です。
ジャベールが、囚人として服役中のバルジャンへ、旗を取ってこいと指示します。
その旗は、泥まみれの折れた重い船のマストでして、物凄く太い大木です。
ジャベールはその大木を担ぎ上げます。
このシーンで、ジャベールの怪力設定や、2人の後々まで続く確執、立場に寄って身分が物凄く違う時代背景などが表現されていました。
このシーンは、この壮大なストーリーを理解する羅針盤・世界地図になっていました。
おかげで、初見でも理解しやすかったです。


不幸な少女コゼットは、お母さん(ファンテーヌ)や義父(バルジャン)、恋人(マリウス)達から愛情を注がれ、最終的には幸せになるという少女漫画の主役としては正に王道。
「小公女セーラ」のようなキャラですね。


エポニーヌは、マリウスを昔から想い続けるけれど、マリウスとコゼットは相思相愛。
自分の気持ちをひた隠し、二人を憎むどころか、むしろ恋愛を成就させようとします。
こういう2番手キャラは、1番手のヒロインよりも人気が出るのが、日本の漫画・アニメ・ラノベの王道です。


3時間弱の上映時間で、あれだけ長い原作を押し込めたので、どうしても各キャラの描写が少なめ・薄めになってしまいがち。
しかし、俳優たちの素晴らしい演技と歌、なるべく主要人物を少なめにして王道的キャラ設定で動かしたおかげで、多くの人達に評価してもらえる作品になっていると思います。
長時間の上映なので、座り続けたり、トイレが心配でしたが、作品に引き込まれ、あっという間でした。



【民衆の力を感じる】


あまりにも貧富の差がありすぎて、民衆の生活はどん底です。
華やかな上流階級と違い、物凄く汚い環境です。
NHK大河ドラマ「平清盛」の映像なんて可愛いもんです。
映像から、当時の貧富の格差が物凄く伝わりました。
タイトル「レ・ミゼラブル」は、「悲惨な人々」「哀れな人々」の意味なのですが、不幸のどん底だからこそ、民衆が「革命」という行動を起こすわけですね。


後半は、学生たちが中心になって起こしたデモ(暴動)が中心になるのですが、殆どの学生たちが殺されてしまい、まさに「悲惨な人々」「哀れな人々」です。
革命の象徴として、街の袋小路に、簡易的なバリケードを作ります。
この映画の象徴的な舞台です。
それは、市民の各家にあった椅子や机などを積み上げたものです。
彼らにとっては「革命」の象徴なのかもしれませんが、物凄くしょぼいものです。
そのしょぼさが、物凄くリアルでした。
それ故、あっという間に鎮圧されてしまいました。
きっと、こういった小さな暴動が積み重ねられて、やがて多くの民衆を動かす革命になっていくのでしょうね。


現実のバリケードがしょぼかったり、暴動の結末が悲惨だったからこそ、主人公・ジャベールが死んだ時(死んだ後?)に見た夢の壮大さが引き立って、印象的でした。


夢の中では、市民総蜂起(しみんそうほうき)と巨大なバリケードの中、みんなが「民衆の歌」(Do You Hear the People Sing? )を歌います。
いつか実現されるであろうこの光景。
「民衆の力」というものを、私は生まれて初めて映像として観たように思い、興奮で鳥肌が立ちましたよ。
本当に良かったです。



【原作を読破中】


原作が長いからかもしれませんが、ついさっき迄ピンピンしていたバルジャンやファンテーヌが、ころっと死んでしまうのには驚きました(汗)
病気なのか加齢故なのか、ちょっとわかりませんでした。
その辺は、原作を読めば分かるのかな?


実は図書館から、原作を全巻借りてきました。
この年末年始は特に用事もないし、引きこもって読破しようと思っています。
最近、小説を読む余裕がなかったので、ちょうど良い機会です。


尚、図書館や書店で入手できなくても、青空文庫にて無料で読むことができますよ。

●青空文庫:レ・ミゼラブル
http://www.aozora.gr.jp/cards/000906/card46860.html


皆さんも機会がありましたら、是非、この映画をご覧ください。
それでは、良いお年を!


PS:
映画上映前に流れる「No More 映画泥棒」が新バージョンになっていて笑いました。
人数が増えて豪華になってましたよ。
あの綺麗な女優さんが出なくなったのが残念です。

Posted by kanzaki at 2012年12月31日 18:04